JK第1号 辞令交付式-プロローグ-
4月1日、C県中央区文化会館。
今年からC県職員となる新規採用者は、全員がこの文化会館に集められていた。彼らはこの場所で県知事から辞令を受け、県職員としての身分を与えられる。
一流大学をストレートで通過したキャリア候補生。民間での経験を買われた30歳過ぎの中途採用者。高校卒業から間もない、新品のスーツに身を包んだ未成年。
様々な格好の人が、しかし同じC県の新規採用職員としてそこに集まっていた。
その中で一際他人から視線を向けられていたのは、学生服に身を包んでいた三人組の女子だった。ブレザーならまだしもセーラー服だ。スーツの集団の中では明らかに浮いている。
そして私、佐倉木野子も、そのもっとも目立つセーラー服の三人組の中の一人だった。
私は先程受け取った自分の辞令に目を落とす。それは少し厚手の紙でできていて、難しい文章が四行ほど記されていた。
『C県職員に任命する
主事に補する
商工労働部JK課勤務を命ずる
行政職1級1号給を給する』
意味の分からない単語は多いが、自分がC県職員になったことと、商工労働部JK課が自分の働く場所なのだと言うことは何となく分かった。
おそらく他の人も、同じ程度の理解はできているだろう。私は周囲の人の様子をそれとなく伺った。
「他の人たちはこの辞令で初めて、自分の勤務先を知るんですよ」
声をかけられて、私は後ろを振り向く。そこには私と同じセーラー服を着た女子が立っていた。
彼女の名前は茂原真名。黒縁めがねが印象的な、真面目で落ち着いた雰囲気を持っている女子だ。
「昨日までは自分がどこで働くか分からなかったってことですか?」
私がそう尋ねると、茂原さんは深く頷いた。
「そう。土木、水道、病院、学校……県職員が働く場所はとても多いですから、予想外の勤務先を示されて動揺している方もいるかもしれません」
「まなちんは随分と県のことに詳しいんだねえ」
私の前に立っていたもう一人のセーラー服の女子が会話に参加してくる。
彼女の名前は柏あかね。先程からこうやって他の人の話によく割り込んでくる、賑やかな印象を受ける女子だ。
「私は姉も県職員なので、お二人よりは県の仕事に詳しいかと思います」
茂原さんは自慢げな顔をしてそう言った。
「私はぜんっぜん県の仕事のことは分からないなあ。きのこちゃんは?」
「私もあまり…分からないです」
話を振られて、私は首を振った。もちろん試験を受ける時にC県については深く勉強した。ただ、それは教科書の知識で、うまく現実と繋がってはいない。
「これから、後ろにいる県職員の方々が、私たちを勤務先に連れていってくれるんです」
茂原さんは顔を自分の後ろに向ける。会場の後ろには、いつの間にかかなり大勢の人が集まっていた。40代、50代のいわゆるおじさんもいれば、まだ若い女性の姿も見える。
どの人も、今会場の中央で緊張している新規採用者とは裏腹に、余裕のある様子を漂わせていた。いかにも社会人、というようなオーラを纏っている。
「じゃあ私たちの迎えも来てるのかな?」
柏さんはつま先立ちをして後ろの方を見渡す。私もそれに釣られて周囲の様子を伺った。
後ろに並んでいた先輩職員が不安げな新規採用職員に声をかけ、そして二人でその会場を出ていく。そんな光景が会場のあちこちで始まっていた。
そしてほどなく、私たち3人にも声がかけられた。
「こんにちは、JK課1年生の皆さん」
女子三人に声をかけた先輩職員も、同じセーラー服を着ていた。その服装だけで、同じJK課の仲間だと言うことは改めて説明されずとも分かった。
「JK課3年、総務班長の船橋です」
彼女はそう自己紹介すると、首から下げた名札を前に出した。そこには彼女の顔写真と『商工労働部JK課 総務班 船橋三咲』と文字が印字されている。
「JK課にようこそ、1年生のみなさん」
その言葉で、私の県職員としての人生がスタートした。