待っていたよ
雨が降っている。
頭の先からぐっしょりと、四肢を濡らす雨粒の勢いは衰えない。
ざあっ、と地上に降り注ぐ苦い味の粒は、まるで穢れた世界を浄化させるために天が流しているようで。
視界を遮らない程度の垂直の雨。
固い地面を滑る汚れた水を、放心状態で眺める影に、男は言った。
「ナぁ……チょっと、話をきいてくれねーか」
影は何も答えなかったが、男は影の反応を待たずに語り出す。
ぽつり、ぽつりと。
傘も差さずに、雨の中で。
独り言のように――懺悔するように。
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男は生まれた時から天涯孤独で、ひとりで生きていくしかなかった。
頼れる人間なんていなかった。
信じられる人間なんていなかった。
信じられるのは己、ひとりだけ。
だから男はたったひとり、己の力だけで生きてきた。
人からあらゆる物を盗み、奪い、生きてきた。
自分が生きるために、手段を選ばなかった。
自分のためだけに、生きてきた。
心のどこかでは、自分は罪を犯しているのだと自覚していた。
自分は悪いことをしているのだと、理解していた。
それでも男は必死だった。
ただ生きるために、必死でゴミ捨て場を駆け巡り、街から街へ移り住み、追っ手から逃れながら略奪と強盗を繰り返し――その日の命を繋いできた。
やがて何十年もそのような汚れた暮らしをしていると、いつしか自分の犯した罪への罪悪感も薄れていった。
軋む心の音など、聞こえなくなった。
摩耗した心は何も感じない。
慣れた動作で行う略奪に、それが当たり前なのだと感じるようになっていった。
まるでこれじゃ、与えられた命令通りに動く機械のようだ――と。
廃れた工場の中で雨の音を聞きながら考えたのを、男は覚えている。
それでも生きていた。
疑問も持たず、ただひとりを信じて生きていた。
そうして独りの命を繋いで生きてきた男の機械的な生活に、転機が転がり込んできたのは、男自身も予期していなかった突然のことだった。
汚れた服の代わりになる物を探そうと、ゴミ捨て場を漁っていた時のこと。
打ち捨てられた冷蔵庫の中から、くしゃくしゃに丸められた布に混じって赤ん坊が捨てられていた。
人が、ガラクタ同然に捨てられていた。
それもまだ、大人の保護下にあるべき、乳児が。
泣き声も上げず眠っていた赤ん坊に、男は最初見て見ぬ振りをしてその場を立ち去ろうと思った。
赤ん坊にこれっぽっちも興味がなかった。こんなものはいらない。自分の足枷になるだけだ。
それにそもそも自分には関係のない話だと、場から背を向けた。
だが、男はその場から離れることが出来なかった。
足が地面に縫い付けられたように、動いてくれなかった。
胸の中心を釣り針で引っ掛けられ、後ろに引っ張られているようだった。
振り払おうとしても、どうしてもだらりとした赤ん坊の手足が脳裏を過ぎり、頭から離れなかった。
そんな自分の妙な感覚が不可解で、理由を想定することすら出来なかった男は仕方なく、赤ん坊を拾った。
気紛れで、なんとなく。
その日から男は、ひとりではなくなった。
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「じゃあお前は――」
影は男の独白に声を上げた。
思わず出てしまった言葉に、一瞬口を噤んだ影は『出してしまったものは仕方ない』と割り切り、口を開く。
「――お前は、赤ん坊を育てたのか?」
「アあ」
シニカルに男は口角を吊り上げる。
どうやって、と次の言葉を影が紡ぐ前に、男は皮肉げに言った。
「大量生産っていうのも考えものだなぁ……モノに溢れすぎて、モノの大切さも忘れちまったやつは、ドんどんモノを捨てやがる。
挙句の果てにガキも捨てるときた! マったく、オレ達には随分生きやすい時代になったもんだ!」
ゴミ捨て場で生きてきた男は嗤う。
蔑みと自虐の込められた言葉に、裕福ではないが平凡な生活を過ごしてきた影は、自分の知らぬ世界への無知さに罪悪感が胸を過るが、腰に提げた『御守り』の重みを思い出し我に返る。
影は目的があって、男に会いに来たのだ。
その目的を忘れてはならないと、意志を固く持ち直す影は男に問うた。
「それと大量虐殺が、何の関係があるんだ」
止まる、嗤い声。
ぴたり、と。スイッチが切れたかのように唐突に無言になった男に、影が怪訝に思う。
もしかして何も言えないのか――そう考え男に近付こうとした影は、次の瞬間、自分の予測が間違っていたことに気付く。
「――虐殺ぅ? アあ、確かに嬲り殺したな。四日前に三十人成人男女」
それは、怒りを孕んだ声だった。
反射的に数歩その場から下がった影は、全身の汗腺からぶわりと汗が噴き出すのを感じた。
逆立った産毛が気を抜くなと報せる。近付かず距離を取れと、震える足が囁く。
警戒した肉食獣が唸るような、低い男の声音には、鋭い殺気が含まれていた。
下手に刺激しない方がいい――ぞわぞわと皮膚の表面に寒気が走る影は男の様子を見るため沈黙し、そんな影の心境を知ってか否か、男は激情を噛み砕くように言葉を発する。
「ソもそも死んで当然なんだよ、アんな反吐が出るヤツラ……オレの娘を攫った挙げ句汚い目で見やがって……! 許せねぇ……許せねぇ……!」
怒気を纏う男に、ふっと胸に彼の怒りに対する異論が浮かんだ影は警戒しなから言う。
「お前の子どもじゃないだろ?」
「オレの子どもだ」
断言され、その口調の強さに威圧された影に、男は続ける。
「アいつは、オレの子どもだ。廃棄場で育った、オレの娘だ」
「……でも、お前は……!」
雨空を見上げていた男が、影を見た。
初めて面を合わせた影は継ぎ接ぎにまみれ引き攣った男の顔に、その生涯の壮絶さと、不自然な造形による違和感を不快と感じながら。
歪んだ彼の表情に、男が今、己の存在と運命に嘆いているのだと悟った影は、ギリギリと胸を締め付けられる心の痛みと共に、“現実”を吐いた。
「お前は……アンドロイドだろ……!」
男の頬を、雨粒が伝った。
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畔串重三は責任感の強い人間だ。
クラス委員長に選ばれたのならクラスメイト全員の顔と名前の把握は勿論、性格や交友関係にいたるまで把握し、クラスメイトが不備なく学生生活を送れるように、クラス日誌から欠席した同級生へのお見舞いまで全てこなした。
代表に選ばれたなら前任の引き継ぎから後任の引き継ぎまで、当然アフターケアも施し、グレていたクラスメイトも拳で語らい更生させた。
仕事を任されたら、責任を持って全てやり遂げる――たとえ無理難題でも必ず果たす畔串のことを『責任感が服を着ているよう』だと、彼を知る者は口を揃える。
その人柄故、社会的信頼も厚い人間だ。
責任感の塊とも言われる畔串は、知人や上司から絶大な信頼を得る一方で、しかし、一度も責任感の強い自分を賞賛したことがない。
誇りに思うこともない。畔串はまばたきをするのと同様に、責任を負うことが当たり前であるのだ。
そう。彼にとって責任とは、果たすべき義務であり――贖罪であった。
幼い頃、我が儘だった自分の願いを叶えるために、年の離れた兄がこっそりサプライズを仕掛けようとし。
その準備のために出掛けた先で、事故に遭って亡くなった。
自分の、我が儘のせいで。
以来、畔串は自分言動全てに責任を持つと決めた。
無責任な自分の言葉で、行動で、もう何も失わぬように。
自分の犯した罪の責任を負う――生涯をかけて、兄を殺した罪を償うと決めた畔串は、以来己の全てを贖罪に注いだ。
死なせてしまった、有能だった兄の全てを引き継ぎ、兄が就くはずだった機械警察を志望した。そのために必要な学歴を積むために、必死で努力した。髪型も嗜好も全て、兄に倣った。交友関係も整えた。
全ては、償いのために。
畔串は、生きてきた。
だから――許せなかったのだ。
墓参りのために畔串が断った仕事を、代わりに受け持った同僚が仕事先で亡くなったのが。
畔串が断ったばかりに、諸外国と通じているかもしれないと疑われたとあるグループに、潜入していた先で。
顔の原型を留めず惨殺した、アンドロイドの男と。
何より――自分が。
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だから影――畔串は街の中心部から外れたスラム街に来た。
調査の引き継ぎを名目に、同僚を殺したアンドロイドを捕らえ然るべき処置をするために。
己の手で大量殺人犯を捕まえ、法の下で裁くために。
そのために畔串は目的のアンドロイドを見つけるや、即座に連れて来た部下に待機を命じ、一人スラムの奥に聳えた廃工場にまでアンドロイドを追いかけたのだ。
予め頭に叩き込んでいた資料によると――今や街の中で見かけるのが当たり前になったYou-Ai-loidに組み込まれる『友愛プログラム』を、軍事用に違法改造されたアンドロイド。
それが今回起きた虐殺事件の犯人であり、同僚の仇なのだ。
目まぐるしい機械文明の発展は人々の生活を効率的に、便利なものへと変えていった。
しかし同時に、人々は得た様々な知識や技術を、争いの道具へも発展させる。
今回の事件に大きく関わった、人間の介護やセラピーに大いに貢献しているYou-Ai-loidを違法改造した理由も、戦場に送り出すためだろう。
人の心を『理解』出来るプログラム。これを活用すれば、従来の機械では計算出来なかった人の感情に基づいた相手の次の手を――人の行動を予測した戦術を取れるだろうと考えて。
人間の代理に大量生産出来る機械を用いることで、損害を最小限に抑えた侵略と略奪を行えるだろうと考えて。
人の心を理解できるプログラム。
かつて人の心に添い遂げるために造られたものは、裏では人殺しの道具に使われようとしている。
その事実を知った時、畔串の中に怒りが込み上げた。
兄を失った哀しみをYou-Ai-loidの存在で癒してもらった経験を持つ畔串にとって、実家で両親の介護にあたっている心優しい友達の仲間を、人殺しのために使われるということに、怒りが湧いた。
You-Ai-loidを軍事目的に違法改造しようとしていた組織は、今や世間にその悪行を露見され、数ヶ月前の【エリーゼ事件】が報道された二週間後に潰された。
今回の事件の犯人であるアンドロイドは、この時に廃棄処分されたはずであった違法改造You-Ai-loidの生き残りだろう――心を組み替えられた哀しい戦争の道具は、もうこの世に存在してはならない。
そのような正義感もあり、畔串は犯人を――破壊しようとも考えていた。
事件を起こした機械はYou-Ai-loidも例外無く技術局に回収され、解析される。
その時改造された『友愛プログラム』が誰かの手に渡り増産されてしまえば、また哀しいYou-Ai-loidが生まれてしまう。
だから畔串はそうなる前に改造されたプログラムを壊してしまおうと、一人で犯人を追跡したのだ。
――しかし、畔串の思い描いていたシナリオは、根本から覆された。
アンドロイドを追いかけ侵入した廃工場には、天井が無かった。
何十年前に棄てられたのか予想すらつかない、鉄骨とコンクリートの造形物の中で、溜まった雨水に足を取られた畔串は転倒した。その際近くに刺さっていた柱に激突し、錆びた鉄柱がギリギリのところで支えていた床が崩壊。
一階にいた畔串の頭上に、二階フロアを構成していたコンクリートの塊と鉄骨が降り注ぎ、スローモーションになった世界で畔串が己の運命を悟った時。
凄まじい力で、畔串は突き飛ばされた。
腹部に走った衝撃。腹を貫通し背後の大気まで打った衝撃は、固まった畔串の体を遥か後方に突き飛ばした。
壁に背中を強かに打ち、腹部も合わせ死んだのではないかと思った畔串だったが、日頃から何が起きる分からないと鍛えていたおかげで打ち身程度の傷で済んだ。着地地点の壁は崩壊したが。
自分の身に何が起きたのか理解出来なかった畔串は、困惑しながら二階フロアが崩れ落ちてきた現場に戻る。もしやそこに追いかけていたアンドロイドがいるかもしれないと、警戒しながら足音を消して自分がいた地点に戻った。
そこには崩れた瓦礫と鉄骨に身体を押し潰された、大量虐殺の犯人がいた。
絶句した畔串は、アンドロイドに搭載された核となる部品が鉄柱に貫かれた犯人――男のアンドロイドを見て、瞬時に理解した。
自分は庇われたのだと。
同僚を殺し何人もの人を殺めた人殺しの道具に、助けられたのだと。
「なんで……お前が……!?」
心を改造された、You-Ai-loid。
上司の報告によると彼らは、人を労る気持ち、優しさといったプログラムを破壊されているため、認識した人間の思考を分析し、分析結果に基づき暗殺を仕掛けてくる冷酷なアンドロイドのはずであった。
ましてや、危機に陥った人間を庇ったりすることなど、あるはずがない。
どうして、と予想もしていなかった現象に動揺を隠せない畔串の目の先で、胸から下を瓦礫に潰されたアンドロイドは言った。
「知らねぇよ。勝手に体が動いちまったんだからよ」
ぶっきらぼうな、言葉だった。
流暢な、人間のような声だった。
You-Ai-loidは機械だ。機械技術が進歩し人間のようなアンドロイドの大量生産が可能になった現代であっても、人間と異なる発声方法を用いる彼らの言葉から機械特有のぎこちなさは抜けない。
音声合成ソフトが普及した時代から課題として取り組まれていた甲斐あってか、人間と見間違えるほどの滑らかな発声へとなった。
しかし、発声の滑らかさと発声に含まれる感情――声のトーンやアクセントといった、非言語的コミニケーション能力の習得は人間と接しないと不可能だ。
今や喜怒哀楽の感情表現が豊かになった畔串の実家にいるYou-Ai-loidも出逢った当初は、言葉に感情が無かった。淡々とした、朗読のような言葉だった。
違法改造されたYou-Ai-loidも、そもそも感情表現というプログラムが欠落していたと聞く。
だが、追手であるはずの畔串を庇ったこのアンドロイドの言葉には、“訛り”があった。
ボールをゆっくりと投げるような印象の、少し乱暴な調子の訛りが。
「アあ……コれはもう駄目だな。後十分足らずでお陀仏だな、オレも」
混乱する畔串が困惑の眼差しを向ける中で、アンドロイドの男はやれやれと諦めと悟りのため息を吐く。
肺機能が無いアンドロイドにあるまじき動作に、ますます不可解だと様々な思考が絡み合ってきた畔串に、男は唐突に話しかけてきた。
雨が降る中で。
「ナぁ……ちょっと話を聞いてくれねーか」
それから、男の口から語られたのは畔串の想像を絶する、彼自身の生涯についてだった。
止む気配のない雨に頭を冷やされていく中、紡がれた話は畔串が報告書を参考に推測したものとは全く異なるものであった。
ゴミ捨て場で生まれ、人の物を盗み奪い、赤ん坊を育てた――心のないアンドロイドとは思えない、人間のような人生。
包み隠さず自分の歩んできた道程を明かした男は、まるでヒトのような情を持つ、同僚殺しのアンドロイドを人殺しの殺人兵器と認めたい畔串に笑った。
「確かに、オレは機械だ。身体のどこもかしこも交換の利く冷てぇパーツで出来てる。……デもな、シょーがねぇだろ。『愛しい』って思っちまったもんはよ。
ホント、オ前なんでか知らねえか? 気まぐれで面倒見てた赤ん坊が、イつの間にか生きる理由になっちまったワケとかよ」
自嘲的に唇を歪める男の目からは、降り注ぎ溜まった雨水が頬を伝う。
とめどなく流れる雫に、そんなことはありえないと頭で否定しながらも畔串は――男が、泣いているようだと思っていた。
アンドロイドが、涙を。
「マったく……百年以上生きてもよく分かんねぇな、“心”ってやつはよ。
現に、敵討ちに来たお前も、ナんにも出来ねぇオレにもう、敵討ちとかする気持ちとかねぇだろ?
アあホント、よくんかんねぇなぁ……『友愛プログラム』とかいうやつを作ったやつなら、分かるのかもな」
嗤う、笑う。男はわらう。
自分の最後の時を察してか、壊れたようにケラケラと声を上げる。
ばちり、と電気の弾ける音がした。男の無くなった腕の断面から弾けた音だ。
――最初から、見抜かれていたのか。
畔串は腰に提げた警棒、数日前に亡くなった同僚から預かった『御守り』であり形見でもあるそれの存在を確かめるように、そっと指を這わす。
同僚が護身用にと肌身離さず持っていたこの警棒を、男は覚えていたのか。
覚えていながら、自分の命が狙われていると知りながら――畔串を庇ったのか。
どうしても、敵である人間を男が庇う理由が分からない畔串は、断面から血液のように燃料をコンクリートの地面に広げる男に尋ねた。
「なんでお前は……自分の命を狙ってくる俺を、庇ったんだ」
「ダから、知らねぇって。よく分かんねぇけど、庇っちまったもんはしょーがねぇだろ。機械なんだから、“心”のことなんて分からねぇよ」
吐き捨てる男に、畔串は呟く。
俺に、お前の心が分かるわけがないだろ――と。
百年以上生きた、と言った男。
人間の赤ん坊を、育てた男。
同僚を虐殺した、犯人である男。
追っ手である自分を庇って――死に行く、男。
同一人物であるはずなのに、多面性を持つ彼のことを、機械であると畔串は断言出来なくなっていた。
機械と言うには男は、あまりにも――人間に近いものを持っていた。
血の繋がらない子どものために怒り、人を殺す情の深さ。
自分の身を顧みず、他者を助ける自己犠牲の精神。
もはや彼の言う“心”は、人が造り上げたプログラムのように単純なものではなくなっていた。
そんな男を――このまま放っておいていいものか。
こんなに複雑な心を持った男を、哀しいYou-Ai-loidが二度と生まれぬようにと、無惨に壊していいものなのか。
人を慈しみ、愛せる男を――
男が指摘した通り、敵討ちに来たつもりが、警棒を掴むことすら迷うようになった畔串には、自分の命を救ってくれたものを壊すことなど、出来なかった。
しかし同僚の無念や自分の負った責任から、見逃すことも出来ない――葛藤する畔串の心を見透かしたのか。
男は、言う。
「オ前なら、任せてもいいかもな。オレの、娘を」
「え……」
「オ前みたいな情の厚そうなやつなら……“心”のあるやつなら……アあ、ダからオレは助けたのかもな」
段々と弱くなっていく男の声。終わりが近いのだ。
男が自分に何を言おうとしているのか。その言葉を聞かなくてはならないと、突如込み上げてきた使命感に突き動かされた畔串は、男のそばに跪き、彼の言葉に耳を欹てる。
男は一瞬皮肉げに口角を上げると、次には真剣な顔になって畔串を見据えた。
その表情は、どんなに文明が発達した世界のアンドロイドであっても、けして造ることの出来ないものだった。
男の表情に驚き、威圧された畔串に男は託す。
己の全てをかけて護りたかったものを、託す。
「オレはもう、死ぬ。今時のYou-Ai-loidに備わってるメモリのバックアップも何もないからな。『オレ』という人でなしは、ここで死ぬ。
だからオレはお前に、オレの娘を任せたい。
頭の良い娘だが、人間のくせに“心”ってやつが不完全な、オレより機械じみた娘だ。身寄りもいねぇ。
だからオレはお前に、娘の家族になってほしい。
人間として欠陥だらけの娘に、人の“心”を教えてほしい。
オレが死んだ後、娘の『生きる理由』になってほしい。
人間ってやつは、一人じゃ生きてけないからな……」
男の真剣な言葉を聞いて、畔串ははっと気付いた。
『人間は一人じゃ生きてけない』。
確かに、人は誰かの支えがあって、誰かと繋がっているから生きていけるのだ。
自分にとって、兄がそうであったように。
この男にとって、育てた娘がそうであったように。
心が死んでは、それは心臓が止まっているのと同じだ。
畔串は考えた。
自分にとっての生きるための繋がりであった兄が死んだ後、哀しみに明け暮れた自分には両親がいた。You-Ai-loidの友達がいた。人間の友達がいた。
――じゃあ、俺が殺そうとしたこの男の娘には?
「オレの娘を、頼む」
身寄りがいない。アンドロイドに育てられた彼女には何も残らない。
生きる理由として、この男と繋がっていた彼女から男が亡くなれば――彼女にはもう、生きる理由がない。
男の案ずる理由を理解した畔串は、悟る。
これは自分にしか出来ないことだと。
元はといえば、自分があの日仕事を断らなければ、同僚は死なずにすんだのだ。
男は同僚を殺し、自分に追われることはなかったのだ。
自分を庇い――娘を残して逝くような羽目には、ならなかったのだ。
――こんなことになったのも、全部俺のせいだ。
全ての責任は、自分にある。
だから、責任を負った自分は償いをしなければならないのだ。
顔も知らぬ少女から、唯一の家族を奪った償いを。
「……責任を持って、娘さんは俺が守ります。
これまで娘さんを守ってきた、あなたの代わりに……!」
じわりと、目頭が熱くなる。
自分が不甲斐なかった。また、自分のせいで誰かを亡くしてしまうのが。
名も知らぬ少女から、たった一人の家族を奪ってしまうのが。
自分には泣く権利がない。そうとは思っても、喉元まで上ってきた感情が涙腺を刺激する。
兄も亡くし、同僚も亡くし、ある少女から父親を奪う――そんな大罪を犯した自分には、涙を流す資格はないと、懸命に歯を食い縛り涙を堪える。
男は畔串の答えを聞くと、ふっと微笑んだ。
子を思う父親の顔で。満足そうに。
瞳を潤わせた畔串を見上げる男は、両眼から水滴を流しながら、しみじみと唱える。
「イつか、『ナんで機械に“心”を造ったのか。“心”が無かったら何も感じずに壊れられるのに』って考えたことがあったが――」
男の額に、熱い雨が一粒落ちた。
「死ぬ時に泣いてくれるやつがいて、嬉しいと思える“これ”は……存外、悪くはないな――」
雨が降る。
止まない雨が、降り注ぐ。
汚れた地面を洗い流すかのように。
涙のないものの代わりに、泣くかのように。
父親として生きた機械は、永遠にその機能を停止させた。
見届けたのは、己の無力さと自責に苛まれる、人間ひとり。
@
光を失ったある父親の遺体を、呆然と立ち尽くして見下ろす畔串の耳に、ばしゃばしゃと水を蹴る音が届いた。
応援を呼ぶために使った携帯を、思い出したように懐に仕舞った畔串は、必死な様子が伝わってくる足音のする方向を、ぽっかりと穴が空いた様な心境で見やる。
息を切らし、一人の少女が駆け込んできた。ボロボロの布を身に纏い、靴を履いていない。
だが、目だけは輝いていた。
必死に、輝いていた。
「オ父さん!」
少女が叫ぶ。目覚めない男と、全く同じ喋り方だった。
彼女が男の娘だと、畔串は直感する。
同時に、彼女の家族を自分が奪ってしまったのだと、罪を自覚する。
「オ、父さん? 父さん! オ父さん!」
無惨な男の亡骸に駆け寄る少女が、雨に打たれる父親だったものを揺さぶる。
無論、返事はない。少女の目に涙が溜まる。
その姿が、棺桶に入った兄に縋りつくように泣いていた幼い自分と重なった畔串は、痛々しい感情に表情が歪むのをぐっと堪えて、雨に打たれながら考えていた言葉を紡ぐ。
「お父さんはね、死んだよ」
ひゅっ、と息を呑む声。
少女の見開かれた目が、畔串を射抜く。
まだ状況を理解できていないと、物語るような澄んだ目に、これから告げる言葉の残酷さに胸を痛めながら――だが。
覚悟を決めた畔串は、その言葉を口にする。
「――俺が、殺した」
――ざあっ、
と、雨が降る音が少女と畔串の間を裂く。
見詰めた少女の潤んだ瞳が驚愕に染まり、やがて絶望を宿したそこに怒りと憎しみが差し込んだ。
少女の感情の変化の目の当たりにした畔串は、彼女から言われるであろう言葉を予想しながら、彼女を追い詰める言葉を次々と紡いでいく。
良心は痛むか、迷いはない。
畔串はもう、覚悟したのだ。
何もかも無くした少女に、自分が生きる理由になると。
自分が少女にとっての、
「だから――恨むなら、俺を恨むといい」
復讐すべき、相手になると。
「俺が憎いだろう? きみのたった一人の家族を殺したのだから。憎いだろう、殺したいだろう」
畔串は考えた。自分が少女にとっての生きる希望になるには、あまりに罪を犯したと。
自分のせいで、少女の父親は死んだ。ただ一人の家族を殺してしまった。
そんな自分に、少女から笑顔を向けられる資格はない。少女と共に生きる資格ない、と。
だから、畔串は考えた。
「なら、俺を殺しに来るといい」
少女にとっての“絶望”になろう、と。
「いつでもいい。何年かかってもいい。俺を殺しに来い。俺は逃げも隠れもしない。強くなって、殺しに来い」
少女にとっての復讐相手になろう。
少女にとっての憎い敵になろう。
それが自分にとっての償いだと、畔串は考えたのだ。
少女の人生において、最悪の存在になることが――自分に課せられた責任だと、畔串は確信したのだ。
それで自分が嫌われ憎まれ、殺されるようなことがあっても、畔串は少女を憎まない。
憎まれた先で殺されること――それこそが贖罪であると、畔串は思ったからだ。
そうすることで、少女が強く生きていられるのであれば、それは畔串とって救いになるのだから。
「強くなって、父親の敵を取りに来い」
それが少女の父親に少女自身を任された、畔串の役目であるのだから。
「それまで生きるといい。俺を殺すことを考えながら」
深い憎しみに染まった、少女の瞳。
それを正面から受け止める畔串は、これでいいと穏やかな気持ちになりながら、トドメとばかりに告げる。
「もちろん、簡単には殺せないからな。俺だってきみなんかに殺されたくないからな」
「……ッ、人殺し! よくもっ、よくもお父さんを……!」
――人殺し。
ああそうだ。畔串は思う。
少女にとって、畔串が殺したアンドロイドは父親なのだから、『人殺し』と罵られて当然だ。
当然のことを、自分はしたのだ。
ようやく到着した部下達に、女性の機械警察官に少女の保護をするよう手短に伝えると、嫌味のようににっこりと、深い憎悪に染まった少女に向ける。
胸の中に抱えた、鋭いナイフで滅多刺しにされているような痛みを隠しながら。
来るべき断罪の時を、望んで。
「待っているよ、きみが俺を殺しに来るのを」
@
【『××地区貿易商人大量殺害事件』についての報告】
2157年某月発生した、××地区における貿易商人殺害事件。
午後九時六分、発生。
被害者は諸外国に誘拐した子供の人身販売の疑いをかけられていた男女グループ二十九名。
潜入調査していた××××刑事も同様に殺害され、被害者は計三十名に及んだ。
目撃者による情報と監視カメラによる調査の結果、犯人はYou-Ai-loidと断定。
××××刑事と同調査課であった、You-Ai-loid犯罪調査課、畔串重三刑事が調査を引き継ぎを遂行。犯人の身柄を確保した。
犯人は試作型軍事用アンドロイド識別番号2-94-3。
分析の結果、外装は数ヶ月前紛失したYou-Ai-loidのものであったが、内部構造は百年前の介護ロボット「ユウコ」と同世代のものであると判明。
分析課の計算によると、百二十数年に渡り2-94-3が稼働していたことが判明。
一世紀前の技術で如何にして長期間の稼働を可能にしたのか、解析が進められたが、2-94-3を構築する大半の部品が破壊されていたため断念。
2-94-3の長時間稼働していた理由は不明となった。
また、畔串重三刑事の報告によると、2-94-3にはYou-Ai-loid以上に人間に近い感情を持っていたとあったが、分析課の調査によると2-94-3に『友愛プログラム』が搭載されていなかったことが証明されている。
畔串重三刑事の報告が真実であるなら、2-94-3はプログラムもなく、人の心を宿したという話になるが、You-Ai-loidの歴史上そのような前例などないため、畔串重三刑事の報告は却下された。
なお、今回の事件の加害者であった2-94-3の所有者であったとされる少女は重要参考人として保護されていたが、畔串重三刑事の申請により彼女の身元は畔串重三刑事が引き取ることとなった。
現在、彼女は畔串重三刑事の実家で彼の家族と共に暮らしている。
@
「この事件から畔串さんは体を鍛え始めて、今や『ダンプカー』って呼ばれるようになったんですよね!」
「なんだそれ、初耳なんだが」
キラキラと尊敬の眼差しで問いかけてきた部下に、畔串は半目になりながら呟く。
そんな働く車のような渾名が付けられているとは知らなかったと、ぼそりと唱えれば「まあ裏での渾名ですからね!」と隠すことなく正直に口を開く後輩。
何かと秘密事が付き纏う職場に合わない素直さに、畔串は若干頭痛を覚えた。
朝の会議までには時間があった。
早朝のミーティングが始まるまでの時間潰しにと、畔串の所属する機械警察You-Ai-loid犯罪捜査課に入り三年目の部下の話に付き合っていたのだが――毎回事件があれば子犬のように後ろをついて回るこの部下は、どうやら畔串のファンであるらしく。
部下の他愛ない愚痴を聞くつもりか、いつの間にか部下の始めた自分の自慢話に付き合わせていた畔串は、空になったコーヒーのお代わりを取りに席を立つ。
これにやはり部下は、「お供しますよ!」と嬉しそうに畔串の後ろをついてくる。
こんな男のどこにも憧れることはないのに、と内心で己を蔑んでいる畔串が、いつまでもついてくる部下にある種関心を抱きため息を吐くと、「ところで」と部下は畔串の隣に立ち、尋ねた。
「結局のところ、どうなんですか?か? 2-94-3がYou-Ai-loid以上に人間に近い感情を持っていた――って報告。本当なんですか?」
畔串の自慢話をしているうちに、懐かしい事件の話を持ち出してきた部下は、純粋な疑問の顔で畔串を見る。
正直過ぎて扱いに困るが、けして悪いやつではない――部下の性格を把握し信頼も寄せている畔串は、忘れたことなど一度もない父親だったアンドロイドの顔を思い出しながら、「ああ」と頷く。
「ありえない話だと誰も相手にしてくれなかったけど、報告書に書いたことは全て事実だ。あの男には、俺達と同じように複雑な心があった」
「『友愛プログラム』が搭載されてなかったのに……なんで心があったんですかねぇ……」
上司や他の同僚は全く聞く耳を持ってくれなかった。
気のせいだと済まされてきた真実を、真摯に受け止めた部下に『やっぱりこいつは良いやつだ』と改めて確信する畔串は、給湯室に着いたところで、これまで誰にも話したことのない長年の自分の憶測を語る。
「付喪神、って知ってるか?」
「つくもがみ? えーっと、長年使い続けた物には魂が宿るとかっていう、サイエンスフィクションの?」
「ああ、それだ。あの男はその類だったんじゃないかと、俺は考えている」
なかなか古い言い伝えを知っていた部下を「博識だな」と賛賞した畔串は、最後に見た男の顔を思い出しながら口を開く。
あの時、全ての機能を停止させる時。
畔串が見た男の表情は――穏やかな微笑みだった。
幸せそうな、顔だった。
「機械と言うには、なんというか……人間臭かったし、それにあの男は、人間が当たり前に持っている一番難しいものを持っていたからな」
「一番難しいもの?」
なんなんですかそれ、と。インスタントコーヒーを畔串のカップに注ぐ部下は、首を傾げる。
見当も付かない、と物語るきょとんとした部下の様子に、『まだ青いな』と人生経験の浅さを感じ取る畔串は、ふっと顔を緩めて。
「“愛”だよ、“愛”」
「あ、愛ですか……」
「ああ。俺は心の中で一番“愛”が難しいと思うな」
「……俺には良く分からないです」
今まで誰とも付き合ったこととかないんで。
不貞腐れたように顔を顰めた部下に、思わず失笑してしまった畔串は自分より低い位置にある部下の頭に手を置く。
「まあ、そういうのはこれから知っていけばいいさ。頑張れよ」
「畔串さん、頑張りますけど俺、相手がショタコンでない限り女の人と付き合うことなんてないと思うんですよ。こんな俺に希望はありますか?」
「…………人間中身だから大丈夫」
「…………身長149センチの男が好きとかいう人、いますかね……」
「せめてあと1センチ欲しかった」とぼやきながら、ちゃっかり畔串の分のコーヒーと茶菓子を用意している部下に、『出来るやつなんだけどなぁ……』と思う畔串は、今し方自分が口にした言葉について思考する。
愛。
それは本当に不可解で、複雑な感情だ。
たった二つの母音で構成されるこれは、時に奇跡を起こしたり、時に破滅を呼んだりする。
誰もが持っていて、その全てを知り得ることのない――醜くて、美しい“心”だ。
きっとあの男は愛に生きていたのだろうと、畔串は考えている。
初めは気まぐれだったかもしれない。しかしそれが時を重ねるに連れに情に変わり、緩やかに育まれ――人を殺すほどの深い愛情になった。
心がないはずの機械にも芽生える、“愛”。
男の言っていたように、本当に良く分からないものだ――と。
時が経つに連れ、自分自身でも不可能な“愛情”を己の中に育て上げた畔串は、朗らかに微笑んだ。
彼自身も時が経つに連れ、償い以外の生き方をようやく見つけた、その一人であった。
「あっ。畔串さん、もうすぐ始まりますよ!」
「ああ分かってる」
「そうそう! なんでも今日、この部署に新しく女の子が入るそうですよ! なんでも飛び級で来た美少女だとか!」
「ああ――知ってる」
自分の下に新人が入るのが嬉しいのか。これまで畔串の所属する調査課で新人だった部下は、浮かれながら畔串の先を行く。
そんな楽しそうな部下の後ろを歩く畔串は、自分の送ってきた四年間を噛み締める。
――長かった。
死に際男に少女の任された、その責任感から少女を引き取り世話をしていた畔串は、あっという間に過ぎた長い時の経過に思いを馳せる。
この四年間、色々なことがあった。
何度も命を狙われた。その危機を全て乗り越えてきた畔串は四年間に比べ、心身共に逞しく成長した。
そして――少女も。
畔串が勤める仕事場は常に危険が伴う。
その中で、少女はどのようにして畔串を殺そうとしてくるのか。復讐をしてこようとしてくるのか。
これから始まる気の抜けない日々に、義務感や責任感ではない、気持ちの昂りを感じながら、畔串は部署にいる仲間上司に囲まれた新人を見やる。
新人は四年間の時を経て強く、逞しく成長した――かつての少女だ。
初めて逢った時、今にも枯れてしまいそうなほど弱々しかった少女の姿は、もうない。
――今日まで本当に、よく生きてくれた。
かつてとあるアンドロイドが、ゴミ捨て場で拾った赤ん坊に愛情を覚えたように。
少女に命を狙われながら生きていくうちに、畔串に復讐するために日々を必死で生きていく彼女の姿を、いつしか“愛おしい”と思うようになった畔串は、前で興奮する部下の前に出る。
ダークグレーのスーツを身に纏った少女と、目が合った。
畔串を視界に入れた瞬間、あの日から変わることのない憎悪を瞳の奥に燃やしている彼女に、畔串は愛しいと穏やかに笑む。
柔和に微笑みながら、少女が手を差し出す。
「本日付でYou-Ai-loid捜査課に配属されることになりました、双区良美です。よろしくお願いします」
袖の奥に、毒針が仕込んである。
一目見て彼女の復讐が、この時点で始まっていることを看破した畔串は、変わらないかつての少女に友好的に笑いかけながら、用意していた言葉を紡いだ。
ずっと前から、彼女が復讐に来た時に言おうと決めていた言葉だ。
@あとがき@
個人的にはハッピーエンドが書けて大満足の文郡です。
先月の企画は時間がカツカツで書きたいものを書けませんでしたが、今回は思った通りに書けて満足です。楽しかった。
今回のお題は『相手の小説の世界観』ということで、雪野つぐみさんの『You-Ai-loid』シリーズから設定をお借りさせて頂きました。
書き終わってから気付いたんですが、雪野さんは今回の企画を遂行するにあたって『You-Ai-loid』シリーズの歴史表を作ったくださったのですが、
あれ、文郡なにもしてなくね?
と、今更気付きました。
(2015/05/24締切日)
これは……すいません、雪野さん。
あの……こっちの世界観は『異能力ほのぼの学園』と『異形系ほのぼの島生活』で捉えてください。
見返してもやっぱりバカなやつらが馬鹿やってるだけだったので……ほのぼのしてるでしょ?
時列とかその……特に気にしなくて良いですから。
というか特に気にするところもないですから!
と、雪野さんに御迷惑かけた謝罪もこの辺に、そろそろ軽く今回のお話について解説させていただきます。
ネタバレ注意なので、本文を読み終わってからの閲覧を推奨します。
今回は雪野つぐみさんが投稿していただいた時列表を参考に、機械警察のYou-Ai-loid犯罪捜査課に所属する刑事、畔串重三の贖罪の話を書かせていただきました。
時列は2157年、【エリーゼ事件】が起こった後、『You-Ai-loid犯罪調査課』が設立されてすぐです。
畔串はこの時別の捜査課にいましたが、有能さを買われてこちらに移籍しました。
移籍した直後、『もしかしたらYou-Ai-loidが関わってる…………かな?』という疑いのあるグループに潜入調査にいけと言われましたが、調査の日は死んだ兄の墓参りをすると毎年決めていた日なので断りました。
そして畔串の代わりに調査にあたった同僚の刑事が死亡します。
これを聞き責任感の強い上に、過去自分の我が儘のせいで兄を殺してしまったという罪悪感に囚われたまま成長していた畔串は、『自分のせいだ』とまたも思い込み同僚を殺したアンドロイドの調査に乗り出します。
有能なので二日で見つけました。(←超人フラグ)
そして見つけたアンドロイド2-94-3に助けられ、彼の育てていた少女にとっての唯一の家族を殺してしまったという罪悪思考に囚われて、いろいろ考えた結果。
「彼女に殺してもらうことで償おう」
という思考に到達します。超急展開。
これで納得した畔串は少女を自分を殺しに来る復讐者として育てることで自分がいかに大罪を犯した人間であるのかを自覚し、いずれ来る断罪の時を待ちながら生きるということになりました。
だから彼は成長した少女が自分の勤める捜査課に所属した時、『長かった』と思ったのです。
まあ、つまり畔串重三は最初から最後まで『誰かに裁かれたかった』んですよね。
罪を責められて、嫌われて、憎まれて、罵られて、裁かれたかった。
自分のせいで殺してしまったと思っていた兄のことについて、誰も責めなかったから自分を自分で裁くことにしたんです。少女を利用して。
こういう言い方をすると畔串重三が最低なやつ、みたいな印象がありますが、事実そうですよね。
都合よく殺されたいがために少女に憎しみを植え付ける。うわ最低。
そして、自分を裁きに来る少女が愛おしくてたまらないという(ロリコン疑惑)
なので畔串は少女が大好きです。いずれ復讐者になって殺しに来る少女が、絶対に自分を殺しに来るように、身柄を預かるぐらい大好きです。
実家に預けた少女にいくら忙しくても三ヶ月に一回は帰ってきて自分を憎んで殺しに来るまだまだ拙い少女を見て『やべえ俺の復讐者マジ可愛いんだけど』と、引きこもりのお兄ちゃん(三兄弟の真ん中。死んだ兄は長男で畔串は末っ子)に惚気けるぐらい大好きです。お兄ちゃんイキロ。
そして簡単に殺されたら少女の父親との誓い(少女を生かすというもの。少女にとって自分が生きる理由であるから死んだら終わり)を守れなくなるし、少女との命の駆け引きを楽しめなくなるので体鍛えます。
今やフグ毒も平気な超人。故に『ダンプカー』。犯罪者達の恐怖の象徴にランクアップです。どうしてこうなった。
そんな最低な超人の復讐に生きる少女、双区良美ちゃん。
18歳という若さで驚異的な飛び級制度で捜査課に入ります。畔串に復讐するために。
貧乏な家に生まれ赤ん坊の頃に捨てられた彼女にとっての肉親2-94-3の敵が畔串であると彼女は知っていますが、根っこまで悪い奴とは思っていません。悪い奴だったら引き取って面倒とか見ないだろうし。
だけど自分に殺されたがってる畔串を見て、どうにも止まらない植え付けられた憎しみがこみ上げてくるので、復讐をします。早い話が愛情の裏返しです。
憎いけど、嫌いにはなれない。そんな悩みを抱え生きてきた少女は本当の自分の気持ちに気づけるのか……!?
そんな感じで書かせていただきました二人ですが、こいつら片方が死んだら即座に後追うぐらい実は両想いだってことを、引きこもりのお兄ちゃんだけが知っています。
お兄ちゃん曰く『どうでも良いから早く引っ付け』です。お兄ちゃんイキロ。
ということで、本当は付喪神だった2-94-3も幸せに還っていきました。
百年以上ほったらかしにされていた軍事用アンドロイドに魂が宿った――だからプログラムがなくても心があった機械は、確かに生きていました。
そして今も、彼は畔串と双区の中で記憶として生きています。
だから、ハッピーエンド。
幸福な終わりを。
それでは、解説もこの辺で。
企画相棒の雪野つぐみさん、毎度毎度ありがとうございます!
それからもうすぐテストなんてもの出してくださる学校関係者の方々へ!勉強してません!ありがとうございます!
そして最後に、このお話を御閲覧してくださったなろう利用者の方々へ。
ありがとうございました!