第六話 おいしい食事と星空と決意
大変お待たせいたしました。第六話です。
今日、やっと出張から帰宅して慌てて書きましたので、誤字脱字党あるかも知れません。
もし見つけられた方、いらっしゃいましたらご一報いただければ即直します。
真治を問い詰めて(?)いるところに突然湧いて出てきたヒレンに、ライーザもメガネッ娘も驚愕顔で固まってから数分後、またもや鳴る真治の腹の虫に一同が戻ってきた。
「ところで……どちら様?」
ライーザは、ヒレンをまじまじと見て恐る恐る尋ねてみる。
自分を指さしてきょとんとして真治の前にふわふわと浮かんでいるヒレンに、ライーザとメガネッ娘はコクンと頷く。
「あたしは、風の精霊でヒレンだよ」
と胸を張ってドヤ顔。
名乗ったヒレンにさらに驚愕顔で固まるライーザとメガネッ娘。対して真治はというと、大きなため息をついている。
その光景に、ヒレンの視線は目の前の二人と後ろの真治を行ったり来たりしている。
「あ、あの……よろしいでしょうか?」
メガネッ娘は恐る恐る手を挙げた。そのメガネッ娘にライーザが「よしなさい」と制していたが、ヒレンの「いいよ」という返事を得たメガネッ娘は、座りなおして背筋を伸ばす。
「えっと……あ、申し遅れました。私はメルカ=コトフという者です。隣のライーザの娘でギルド職員をしています……」
と名乗った。その上で言葉を続ける。
というかメルカという名前だったのか。しかもライーザの娘!?似てねー。
「ヒレンさんと真治さんはどういう御関係でしょうか……」
「あたしとしんじ?」
「はい……」
「友達」
「「は?」」
ヒレンの答えに対して、ライーザとメルカは目を大きく開けて真治とヒレンを交互に見る。
「だから友達」
もう一度答えるヒレン。
「えっと、お友達……ですか……」
今度はライーザが確認してきた。
「そうだよ。しんじって面白いんだよ。おっきな乗り物に乗ってて、あたしとも普通に話してくれて」
ニコニコ顔で答えるヒレン。ライーザとメルカが真治を凝視する。真治は後ずさりしたくてもできない状況。
「真治、どうなんだ?」
ライーザが真治に答えを求めてくる。
「えっと、はい……まあここに来る間ヒレンとは色々と話してきましたが……」
「じゃあ、ヒレンさんとお友達というのは?」
今度はメルカが聞いてくる。
「ま、まあ結構フランクに話していたし……友達といえなくもないか、な、と……」
そう答える真治に、ヒレンはぷくっと頬を膨らませて真治に対峙する。
「えー友達じゃん!しんじ、あたしの友達になってくれないのー!?」
何というか、変わった精霊である。
「えっと……精霊がどうかはおいておいて……友達、かな?」
「ぷい」
頭を書きながらひきつりながらも笑顔で答える真治に、答えが気に入らなかったヒレンはそっぽを向く。
「いや、あの……友達、です……はい……」
「本当にお友達なんですか?精霊と!?」
「えっと……はい……」
ヒレンはにへらーと笑いながら真治に頬刷りをする。なんというか、ヒレンが動物みたいでかわいく見える。
またもやメルカが真治に詰め寄ってくる。対してライーザはというと、ヒレンを上から下まで見ているが動けなくなっている。
「はあー……」
メルカはソファに座り直すと、もう一度真治とメルカに視線を行ったり来たりさせる。
少しの沈黙の後、「ぐー」と鳴った。今のはライーザのお腹である。顔を赤く染めて何かをあきらめたかのようなライーザが一度咳払いをして、
「ところで……真治に聞きたいことは山ほどあるのだが、腹が減っては話にもならないだろうからな……とりあえず場所を変えて何か食べながら話さないか?」
と提案してきた。
「あ、あの……俺、お金ないんですが……」
無一文の真治は軽く手を挙げて尋ねてみる。
「そうだったな……今日はワシがご馳走しよう」
ライーザは真治にそういうとソファから立ち上がり、「ついてきなさい」と真治とメルカ、そして宙に浮くヒレンが後に続こうととしたのだが、「他の人の注目集めそうだから……」という真治に、「はーい」と答えて真治の胸ポケットにスポッと入るヒレン。二人(?)のやり取りを見てまたまた驚愕するライーザと、素直で可愛らしいヒレンに笑顔をこぼすメルカだった。
ライーザは、ギルド事務所の裏手にある自らの自宅にメルカと真治を招いた。外はもう暗く、日本と同じ気候であるならば、だいたい夜七時くらいであろう。ライーザ邸は、庭付き二階建てで、表玄関はギルド事務所入り口の対面側にあるのだが、今回ライーザはギルド事務所裏手から路地一本でつながっている裏玄関から二人と精霊一人を招いたのだった。突然の訪問客にも深々とお辞儀をして招き入れてくれるライーザの奥さん。かなりの美人さんだった。
メルカさん、母親似でよかったよなー……
そんなことを考えている真治をライーザはじろっと睨んできた。
「真治、お前今すごく失礼なこと考えてただろ……」
何ともドスの効いた声である。真治は「そんなことない」とかえすが、ライーザはしばらくじーっと真治を睨んできた。蛇に睨まれる蛙そのままの図だ。そこを救ったのはメルカだった。
「ほらほら、お父さん。真治さんを食卓に案内して」
とメルカはライーザの背中を押す。押されるライーザは、「はいはい」と実に素直に娘の言うことを聞いている。型なしのライーザ。むしろギルドマスターの威厳はどこへ置いてきたのかと言いたくなるくらいの素直さだった。
「ほら、真治さんも座って座って」
とニコニコ顔のメルカ。メルカに勧められるままに席に着く真治を、対面に座るライーザが真治をギロッと睨む。「メルカに手を出すなよ」とでも言ってきそうな顔だ。
対してメルカはメルカで母親のルカと談笑しながら料理を手伝っている。とはいってもほとんど出来上がっていたようで、すぐに料理が運ばれてきた。
メニューは、豆と鶏肉のような肉、そして葉野菜が入ったシチューにパン、こんがり焼かれたスペアリブのような感じの肉料理に並々と注がれた赤ワインのようなお酒だった。
ルカが真治の右手にメルカが左手に席に着くと、ライーザとルカ、メルカがお酒のグラスを持つ。メルカが「しんじさん」と促してきて真治もグラスを持つ。その後ライーザが何やら唱え始める。単語単語は聞こえてくるのでそれらをつないでみると、キリスト教の食前のお祈りのようなものだった。ライーザの言葉が終わると、ライーザ、ルカ、メルカがグラスを互いに合わせる。真治もメルカに誘われる形でグラスを合わせた。どうやらこれがマキラート式の食前に行う儀式らしい。日本でいうところの「いただきます」だ。
儀式が済み、一斉にグラスを傾ける。真治も習ってグラスを傾けた。味は赤ワインそのものだと感じたが、日頃お酒を飲まない真治は自分の舌が全うかどうかすらわからないのだった。
グラスを置き、並べられた料理を眺めてみる。美味しそうな匂いにつられてか、真治のお腹がグーと鳴った。さすがにこの状況でお腹が鳴るというのは恥ずかしいものだ。しかもライーザからは「大きな音だったな、真治!」と豪快に笑われるし、ルカ、メルカもクスクス笑っている。穴があったら入りたい真治だった。さらに、真治の腹の虫の音でポケットから出てきたヒレンはニヤニヤしながら真治の頬をつんつん突いている。まあライーザとメルカはヒレンの存在を知っているから良いとしても、ルカは緑色の光に包まれているヒレンを見て目をパチクリさせていた。
「えっと、真治さん?この方は?」
ライーザとメルカの質問攻めで慣れてしまった真治は、ヒレンに「あいさつしなさい」と伝え、
「これは、ヒレンと言います。いたずらっ子で困ってます」
とルカに紹介するも仕返しとばかりにヒレンにニヤリと笑ってみせるが……
「これは奥様。突然の失礼をお詫びいたします。あたしは風の精霊ヒレンと申します」
とちっちゃいながら優雅にあいさつをするヒレン。真治の仕返しは全く効いていないようである。まったく効果がなかった真治はカクッと脱力する。
で、あいさつされたルカは、「まあまあ!」と手を打って嬉しそうにニコニコしている。
「これはご丁寧に。私はライーザの妻、ルカでございます。以後お見知りおきお願いいたします」
と、こちらも優雅にあいさつを返す。
ルカがヒレンの分を用意しようと立ち上がったが、ヒレンは「あたしの食べ物は風ですから」とぺこりとお辞儀をすると、再び真治の胸ポケットに戻って行った。
そこからルカのヒレンと真治の関係についていくつか口早の質問が飛んでくるが、ライーザの「先に食事を」という言葉で、食事は再開されたので、この場はライーザに救われた真治だったのである。
スマホはズボンのポケットに入れてはいるが、さすがにこの場でスマホを取り出すわけにもいかないし、そんなもの取り出せばまた大騒ぎになるだろうと踏んだ真治は時間を確認する術を無くしてしまった。真治が知りたかったのは単純に今の時刻である。この世界へ飛ばされる前、食事をしたのは日本の時刻で朝六時を少し回った時だったし、十二時間以上は食べ物を口に入れていない。さらに驚きと運転とで結構なカロリーを消費していた真治は、「これ一気に食べたら確実に胃が痛くなるんだろうな」と思いながら、とりあえずシチューを口に運んでみる。その様子をルカとメルカがじーっと見つめていたが、お腹がすきすぎてそんな事も気づいていなかった。元来照れ屋な体質でもあり、女性への免疫もないに等しいので、食事の時に注目されると緊張で喉を通らなくなるのである。それだけに二人の女性に注目されている事に気づいてなかったのは幸いなことでもあった。
シチューはすごくおいしかった。お腹すいている状態であるから何でもおいしく感じているだけかもしれないが、しかしただ美味しく感じるとはわけが違う美味さだった。スープはトロッとした濃厚な味だがあっさりとした味付けであり、肉も柔らかく鶏肉のような触感なれど脂の乗った牛肉のような味わい。豆は大豆のふたまわりくらい大きなものだったが、豆である事を主張しすぎずほのかに甘さの中にも塩加減も感じるというもので、いうなればカリッとしていないアーモンドのような味だった。パンも決して固くなくむしろ柔らかい感じで、噛めば噛むほど甘みが出てくるものだった。スペアリブみたいな肉料理は、脂ギトギトではなく、肉は骨からするっと外れるし、簡単に噛み切れるもので、こちらは鶏肉のような味だった。とにかくどれもおいしくて気がつけばガツガツと食べだしていた。
それを見たルカとメルカは安心したのか自らの食事に戻ったのであった。
食後には、桃のような果物が出された。瑞々しく、フォークで刺すと中からたっぷりの果汁があふれ出してきた。肉といい豆といい、見た目とは良い意味で予想を外れる味でもあったので、とりあえず一口食べてみると、桃のような成りをしているのに味はイチゴだった。イチゴは真治の大好物でもあったので、こちらも気がつけばガっついてしまっていた。
ライーザもルカも、真治が美味しそうにたくさん食べてくれるのを見ていると、「息子がいたらこんな感じだったのだろうか」と真治をやさしく見守っていたのである。
食後、ヒレンの事やら真治の事やらなんていうのはどこかへ消えて、ライーザは自分の武勇伝を真治に聞かせていた。
ライーザはギルドマスターなのであるから当然元は冒険者だったのだが、その時の数々の武勇伝は止まらなかった。やれゴブリンの二〇〇体からなるコロニーを一人で蹴散らしたとか、ライーザ一人対十数名から成る盗賊団との戦闘で勝ったとか。とにかくだてにSランクを取っていない数々の話に真治は正直耳タコでうんざりもしていたが、そこは社会経験のある真治。一応ポーカーフェースでそれを乗り切ったようにも見えたのだが、酔ったライーザにはそんなのお構いなし。実はメルカには真治がうんざりしているのはバレバレだったりするのだった。
ライーザが崩れ落ち大きないびきを立てて眠った後、真治はお風呂にもご相伴にあずかった。風呂場と使い方はさすがにわからないのでメルカに教えてもらったが、こっちにも湯船があり、現代でいうところのユニットバスの湯船のでっかい版のようなものだった。さらに着ている服は今夜中に選択して干して奥からと押し切られそうになったが、パンツだよな……と恥ずかしいながらもさすがに二日も同じパンツははきたくないしという狭間で、結局根負けしてしまった真治だった。しかも着替えはライーザのもの。広げてみるとだぶだぶになるのは目に見えていたが、そこは紐という便利なアイテムが着いているおかげで何とかなりそうだ。
ヒレンは、風呂に行くという真治にくっついてきたものの、浴室内の湯気に当てられて今は脱衣所で伸びていたりするのであった。風の精霊だけあって熱には弱いのかなと考えてみる真治だったが、相手がヒレンだけに「それはないかも」とあっさり考えを変える真治でもあった。
真治は日本で仕事してからシャワーすら浴びてなかったので、ライーザに借りた乾燥させた一本の長いへちまのようなものをこちらの石鹸みたいなもので泡だてて全身をくまなく洗い、すっきりしたところで湯船に浸かった。こういうときは「日本人で良かった」と思えてくるから郷土文化、習慣というのは不思議なものである。
のんびり浸かっていると、あまりの気持ちよさに眠気が襲ってきて湯船の中で文字通り船を漕ぐ真治。転覆しかけてハッとなる。それを何度か繰り返していると、さすがに命の危険を感じて上がることにした。
湯船のお湯には温泉を使っているのか、上がってからも体中ぽかぽかで、着替えた後(下着はライーザのものを借りたが、案の定ぶかぶかだった)は、やっぱり胸ポケットですやすや眠っているヒレンを手の中に抱き、夜空を見上げてみた。日本の真治が暮らす町では見れないような綺麗な星空。まさに「星降る夜」そのままの情景に感動し、いつしか涙を流していることに全く気がつかない真治だった。ヒレンはというと、落ちてきた真治の涙で目を覚まし、星空を眺めながら涙を流す異世界からやってきた真治の力になろうと決意するのであった。
一応、これで第一章は終わりです。
章の終わり方としてはいかがなものかと思いましたが、どうやってもこの終わり方の方が第二章以降に続くという独断でこうしました。
えっと、一応第二章のプロットを見直したのちに第二章を開始したいと考えています。
(今回かなり遅れておいて何を言うかといわれるかも知れませんが・・・笑)
なので、第二章の開始は少しだけお時間ください。