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トラッカーの異世界物語  作者: 甲丞
第一章 気がつけばそこは異世界でした
4/6

第四話 ヒレンと腹ペコの大金持ち

書き貯め分です。第三話と一緒に投稿します。

一応頑張って2~4日くらいで更新を続けていく予定ですが、仕事だなんだと更新が遅れる事もあるかもしれませんが、よろしくお願いします。

 とにもかくにも、ヒレンの存在を認めた真治は、ヒレンと共にトラックを走らせていた。向かうは王都ラッシュベルク。なぜかと言えば、この国で初めてであったあの老人から「王都に向かうのが良い」と言われたからであった。しかし、ここが地球でない以上、コンパスが正しいかどうかもわからないため、とにかく気の向くまま石畳が向く方へと走っているのである。

 燃料はと言えば、ヒレンがヒレンの魔力で起こさせている風をエンジン内に吹かせているだけ、軽油は一切使わないという何ともエコなエンジンに変わってしまった|トラック(愛車)。そういう訳で燃料はヒレンの魔力。ついでにヒレンは風の精霊であるので窓から入ってくる風がヒレンのご馳走らしく、ヒレンの魔力は全く減っていないとのことなので気にする必要もないという訳だ。

 しかし気にしなきゃいけないのは水と食料である。ヒレンは風だけで良いのだが、真治はそういう訳にはいかない。ヒレンとの漫才で空腹をすっかり忘れていた真治だったのだが、さすがに空腹を超えて胃が悲鳴を上げるようになっているのである。とりあえず何か食料を確保しなくてはと思っているのだが、ここは異世界。日本の通貨が使える事もないだろうしと、とりあえず場所を移動するのが最善策のように思えて移動しているという訳なのである。


「ねえ、しんじ」


 真治の右肩にのって窓から入ってくる風を楽しんでいたヒレンが真治に声をかける。


「ん?なに?」

「いや、さっきからグーグー鳴ってるのって、しんじのおなか?」

「ああ、そうだけど……」

「やっぱり……」

「さっきから腹減って正直ヤバい」

「あ、なるほど……」

「どこか町とかってないの?」


 真治は石畳が延びる右手に向かってハンドルを切る。


「あるよ」

「え?どこ?」

「もうすぐだよ。このまままっすぐ」

「了解……でもなー……」


 大きくため息をつく真治。ため息に呼応するかのように真治のお腹が「グー」と鳴る。

 真治のため息にどうかしたのかとヒレンがメーターコンソールの上に立つ。


「どしたの?」

「いや、俺ってほら、日本っていうところから来たって言ったろ?」

「うん、そう言ってたね」

「だからさ、俺ってこの世界じゃ異世界人(・・・・)ってことだろ?」

「んー、あそっか」

「だからさ、こっちのお金って持ってないわけ」


 と言いながら真治は再度ため息をつく。


「あーお金ね……真治のいたところではどんなお金使ってたの?」

「ほら、そこに財布あるだろ。中見てみ」


 と視線は前にやったまま、真治は左手でセンターコンソールに置いてある二つ折り財布とたんまり膨らんだ小銭入れを指さした。

 真治の指さす二つ折りの茶色い財布の元へスイーッと飛んでいくヒレン。しかし手のひらサイズのヒレンにとっては自分よりも大きな財布はさすがに大きすぎる。「うーん」と財布とトラックを運転する真治に視線を行き来させてしばし思案。そしてポンと手を打つと、


「しんじ……」

「なんだ?」

「うん、これからすることでしんじが驚いてまた急停止されると、あたしまた頭打っちゃうから、ちょっと止まってくれる?」


 どういうことだろうと思いながらも、トラックを停止させると、真治はヒレンを見る。


「どしたの?」

「うん、まあ……」


 なぜか、顔を赤くしてもじもじとするヒレン。


「なんだよ、言ってくれないとわからんけど?」

「あーそだよね……ただなー……」


 と、胸の前で指をつんつんと合わせながら真治を見るヒレン。なんかかわいい。


「で?」


 まあ、ただもじもじされているだけでは何も意味がわからない。


「だからさ……ちょっと大きくなるから……」

「あ、そんなことできるんだ」

「ん、でね?……」


 ヒレンがさらに顔を赤くする。

 真治は、大きくなるというヒレンの姿を自分サイズで考えた。いわゆる一糸まとわぬ姿。思い浮かべた途端、ボンと顔を真っ赤にする真治。


「あ、ああ、わかった」


 真治はヒレンから顔を外すように右に向けた。


「えへへ、しんじが紳士でよかった!」


 ニッコリ笑うヒレンは、胸の前で手を組み何やら唱える。ヒレンが一層強い緑の光に包まれたかと思ったら、そこには一二、三歳くらいの大きさになったヒレンがいた。

 光に驚いた真治がヒレンに視線を戻したら、そこには一気に大きくなったヒレンがいたので、やっぱり驚いた。ちっちゃいヒレンがそのまま大きくなっていた。やっぱり胸に目が行く真治。ああ男の性……。ヒレンはヒレンで顔を赤くして両腕で胸を隠す。


「え、えっと……そんなに見られると恥ずかしい……」

「あ、ああゴメン……」


 と視線を外そうとした真治に、真治の鞄からフェイスタオルを取り出したヒレンが


「ねえ、この布使っていい?」


 というので、再びヒレンに視線が……。ヒレンはフェイスタオルをヒラヒラさせていた。


「ああ、使っていいよ……」


 と言って、ヒレンから視線を外す真治。何ともここまで行けば国宝級のウブさである。

 「ありがと」といったヒレンはフェイスタオルを胸に当てて何やら唱えている。するとフェイスタオルがタオル地の服……バスローブみたいなものに変わり、ヒレンの体にすすすーと纏っていく。


「ん、いいよーしんじ」


 ヒレンが呼び、真治が視線を戻す。そこには、一糸まとわぬ姿よりも微妙にエッチな光景が……。それでも裸よりはマシだと思った真治は気を取り直して、


「それで、どうなんだ?お金……」

「まあまあ、そう慌てないで」


 とヒレンが財布をとり真治の財布からお金を取り出す。全部で二七七三九円。それが真治が今すぐに使えるお金の全額である。もちろん「日本では」という注意書きが存在はするのだが……。

 詳細はというと、紙幣で一万円札が二枚、千円札が五枚、五〇〇円玉が三枚、一〇〇円玉が八枚、五〇円玉が三枚、一〇円玉が二四枚、五円玉が五枚、一円玉が二四枚である。


「これは大丈夫」と1円玉をセンターコンソールに。

「こっちは質に濁りはあるけど、あたしなら取り出せるから大丈夫」と五円玉と一〇円玉をセンターコンソールに

「これは見たことないし、質的に無理だね」と、一万円札、千円札、五〇〇円玉、一〇〇円玉、五〇円玉を財布に戻していく。


 諭吉さんと英世さんが無理と言われて視線が遠くなる真治。

 ああ、諭吉さん、英世さんさよーならー……


「わー並べてみると凄いね。この世界ならしんじは大金持ちだよ」

「は?」


 ヒレンの「大金持ち」という言葉に意識が現実へ引き戻される真治。


「だからね、この硬貨だけなら大金持ちって言ったの」

「うん、「大金持ち」ってのは聞こえたけど……実際どれだけなの?」

「んー、そうだなー……だいたいおっきな家が三つは建つかな……」

「家三軒……」


 とんでもない額に気付いた真治が口をあんぐり開けたまま固まってしまった。ヒレンが真治の目の前で手を振ってみるが反応なし。


「ダメだこりゃ……」




 真治が固まってから十数分後、ようやく真治が戻ってきた。何度か瞬きをした真治の目ががセンターコンソールに広げられた五三枚の硬貨とヒレンとを行ったり来たりする。


「おっかえりー」


 にぱっと笑顔を見せるヒレン。


「えっと、ただいま?……あ、あのさ……」

「なに?」

「えっと……とりあえず……」


 ゴクリと唾を飲み込んだ真治は、一円玉を一枚取り上げた。


「この一円玉一枚だけで、何ができるの?」

「これで?」

「うん……」


 左の人差し指を顎に当てて少し考えている。なぜか視線は上にある。


「これアミニウム(・・・・・)だから……」

「は?アミニウム?アルミニウムの間違いでは?」

「ううん、アミニウム。たぶん世界が違う(・・・・・)から呼び方違うんだよ」


 うんうん、と一人で頷くヒレン。対して真治は「へー」とまじまじと一円玉を見ている。


「で……続けてもいい?」

「あ、ど、どうぞ」

「このアミニウムだったら、たぶん六枚か七枚でおっきな家が建つよ」

「は?」


 目を点にして固まる真治。それもそうだろう。地球ではアルミニウムなんて安価で手に入る金属だ。だからこそ一円玉に一グラムも使ってあるのだから。

 固まっている真治を見て、「あ!」と手をポンと打つヒレンが再度真治の目の前で手を振る。今度は気が着いた。


「良い忘れてたことがあるんだけど……いい?」

「ど、どうぞ」


 そう応えて背筋を伸ば真治。とはいってもトラックのキャビンの中なのでヒレンとまともに対面はできないが、それでも聞く体制を作るのは礼儀だ。


「じゃいくね?」

「よろしく」

「はいな!……えっと、この世界だと、価値が一番低いのが青銅。これね」とヒレンは一〇円玉を指す

「うん」

「で、次に低いのが銅、次に白銀、次に銀、次に白金、次にアミニウム、次に金となってるの」

「へー」

「で、この中でお金として使われているのが、銅と銀とアミニウムと金なの」


 ヒレンの説明に頷いていく真治。


「それで、価値のある金属が混じっているものには、人間は金属を溶かして取り出したり、錬金術師の中で特に強い魔力を持ってる人は魔法で取り出したりしてるみたいだけど、成功率はいまいちね。でもあたしなら(・・・・・)こんなの簡単に取り出せるよ」

「は?」


 今、何か妙なことを聞いた気がする真治。


「えっと、取り出せるって青銅から銅を?」

「うん」

「そんなことできんの?」

「簡単だよ?」


 何を言ってるの?とでも言うように、ヒレンは小首をかしげる。


「い、いやいや…………精霊ってそんなこともできるの?」

「できるよ」

「へー」


 ヒレンをまじまじと見る真治。これで何回目だろうか……。


「あ、信じてないでしょ!」

「い、いや……別に信じてないわけじゃ……」

「百聞は一見に如かずよね」


 ヒレンは五円玉の五枚を合掌した手の中に取って、目の前に持っていき何やら唱え始める。少ししてヒレンが放つ光が一層強くなり合掌した手を離していくと、手の間の五枚の五円玉が二つの塊になっていく。光が収まった時、ヒレンの手にあったのは、右手に銅の塊で、左手には亜鉛の塊ができていた。

 ヒレンは取り分けた亜鉛と銅をセンターコンソールに置いた。亜鉛はちょっとくすんでいるが、銅はピカピカだ。


「す、すげー!」


 真治は唾を飲み込んで魔法で取りだされた銅をまじまじと見ている。


「どう?すごいでしょ!」


 ドヤ顔のヒレン。「エッヘン!」とばかりに胸を張るヒレン。


「す、すごい……いやすごすぎるよ、ヒレン……」

「でしょでしょ?」


 ニコニコ顔になるヒレン。


「じゃあ、次行くね」


 と今度は一〇円玉から銅を取り出し始める。強い光に包まれるヒレンの離された手の間の二四枚もの一〇円玉が四つの塊になっていく。

 取り出されたものをセンターコンソールに置いた。


「あ、金があるね」


 とヒレンが金の粒を左の掌に載せて真治に見せる。確かにほんの少しだけど光る金があった。


「うっわー、すげーよ、ヒレン!」

「いや、それほどでもあるけど」


 褒められたヒレンは右手で頭を書きながらもドヤ顔は消さない。恐るべくも頼もしいヒレンである。


「で、これどうすればいいの?」

「えっとね、街に着いたら換金してもらえばいいよ」

「どこで?」

「あーわかんない」

「え゛……」


 左手で金の粒を持ち、左手で頭をかきながらひきつった笑顔で言うヒレンに対して、口あんぐりで固まる真治。さらに真治のお腹が「何か食わせろ」とこれまでで一番大きく「グー!」と鳴った。

お腹グーグーの真治、いつになったら食事にありつけるのでしょうか……笑

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