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トラッカーの異世界物語  作者: 甲丞
第一章 気がつけばそこは異世界でした
2/6

第二話 ちっちゃなちっちゃな精霊ヒレン

いきなり出しましたヒレン。

ヒレンが出てくれないと話進まないので……


※前話のサブタイトルを変更したので、元々第一話だったのが第二話に変更しています。

 老人が去ってからどれくらい経っただろうか。腹の虫が鳴って真治はハッと気を取り戻した。スマホを見れば一二時。そりゃ腹も減る。しかし今の真治が口にできるものとしては、日本での配達途中で仲の良い他社のドライバーからもらった五〇〇ミリリットルのペットボトルのお茶くらいだった。腹も減ってはいたが喉も渇いていたので、運転席に戻ってペットボトルのお茶を一口。当然だがそれだけでは腹の虫は収まらない。


「ここ日本じゃないんだよな……地球でマキラート王国なんて聞いたこともないし……」


 現代社会で馬車で移動するところなんてあるのかすらも知らない真治。特に日本の交通事情は他の先進国同様なので、馬車なんて見たこともない。まあ観光程度のものならあるのだろうが……。そんなことをぼんやり考えていても腹は「何か食わせろ」とばかりにグーグーとわめいている。


「はいはい、今は我慢してくれ……」


 といってもどこかで何かが購入できるとは思えない真治。考えれば考えるだけここは異世界としか考えられない。


「ファンタジーな物語でもないだろうに……」


 最近になって、携帯小説なるものを読み始めた真治。ファンタジーなものには「転生もの」やら「召喚もの」なんていうものもたくさんあるのを知っているし、そういう物語が嫌いなわけではない、むしろ好きな方だ。両親を失い、一人立ちして金銭的に余裕が出てきた頃、旧友たちから「このゲーム面白いから、気晴らしにでもやってみたらいい」と聞き、ゲームショップでゲーム機と勧められたゲームを購入して休みの日には日がな一日ゲーム三昧ということもやっていた真治。そのたびに"おばちゃん"を心配させたりもしたものだが……。


「そういやおばちゃん、今頃心配してるだろうな……」


 "おばちゃん"とは帰宅時間もほぼ同じなので、会った時にはそのまま晩御飯まで"おばちゃん"の家でくつろいでいたりする。そして一緒に"おばちゃん"の晩御飯をご馳走になり帰宅して寝る、という日々を送っていた。周りからは変な噂も立っていたが、"おばちゃん"も真治も独身でもあるのでいつしか"変な噂"が"応援"に変わっていたりして困った事態にもなっていたのだが……。第一真治にとって"おばちゃん"は年の離れたお姉ちゃんみたいでもあるし若い母親みたいな感じでもあった。"おばちゃん"にとっても真治は弟のようでもあり息子のようでもある感じだった。とはいえお酒の入った"おばちゃん"から何度か男女のお誘いみたいなものがあったことはあったが、真治は受け入れてこなかった。


 グー!


「はいはい。とりあえずこの近辺流してみましょうかね」


 何か食べ物を手に入れられればラッキーという軽い感じでトラックのエンジンをかける。


 きゅるるる……ヴァオン


 いつものエンジン開始音だったのだが、エンジンがかかった瞬間、「ゴン」という小さな音がした。その音が何か分からず、とりあえずアクセルを踏んでみると「ウォン」という空ぶかしのエンジン音が鳴る。とにかく車に関しての知識はほぼ皆無な真治に事の真相がいったい何なのかをつかむことは不可能だった。


「ん〜、とりあえず走ってみるか」




 ☆☆☆ ☆☆☆




 真治がエンジンをかけたちょうどその時……

 

 きゅるるる……ヴァオン


「わ、びっくりした!」


 ゴン


「いった〜い!」


 緑がかったちっちゃな女の子?のようなものが飛び起きて頭を押さえて唸っている。体つきは年頃の女の子。腰は普通にくびれていて胸はふくよかとは言い難いがそれなりに形の良い物を二つ持っている。緑色の髪もお尻まで伸びていて、飛び起きたところでフワッと舞い上がって踊った。まあ普通の女の子な体系だ。違うところは、身長が以上に小さいことと、体が緑がかった光に包まれていることだけ。身長は手のひらサイズと言ったらわかるだろうか。そんな女の子?がエンジンの上で休んでいたところ、急にエンジンがかかって飛び起きた、その時にキャビンの底床で頭を打ったのだった。


「いったい何なのよ〜」


 とガラガラいう音とともにブルブル震えるエンジンの上で、頭を打ち付けた底床を睨む緑色の女の子。


 ウォン!


「うわっ!」


 再びエンジンから大きな音がして驚く女の子。


「なんだろ、これ?」


 と、女の子はエンジンに顔を突っ込んでみる。外から見ると、エンジンから緑の光に包まれた手のひらサイズの女の子の体が生えているようにも見える。女の子がエンジン内部に顔を突っ込んだちょうどその時、ものすごい速さでピストンがせりあがってきた。そして「ボン!」と爆発。


「きゃ!これってなに?すごいものだけど……」


 エンジン内部から顔を引き上げた女の子の顔は真っ黒だった。


「もっかい見てみよ〜!」


 なんとも好奇心旺盛な子である。

 再びエンジン内部に顔を突っ込むと、またピストンがせりあがってきて爆発。そして何かふたのようなものがすいっと仲に飛び出してくると真っ暗になった視界が強い風によって視界がクリアになる。またピストンがせりあがってきて爆発、暗転、再び風によって視界クリア。


「おっもしろ〜い!風が気持ちいい〜!」


 気に入ったようである。


「えっと、空気が入ってきて爆発してるってことは、中に風送れば良いってことだよね?よーし!」


 女の子が空気が入ってくるところに向けて手を伸ばし何やらモゴモゴと唱えると、そこには緑色の光が張り付いて風がこなくなった。そこに「風よ」という女の子の言葉によって密閉されたエンジン内部にどこからか空気が入ってくる。しかし女の子が送った風とは違うところから液体が噴射される。直噴ディーゼルだからこそのものである。


「うわ!何これ……なんか臭い……いいやこれも止めちゃお」


 結局燃料噴射装置まで光で止めてしまった。しかしエンジンは何も問題なく動いてる。というかこれまでよりもスムーズにピストンが動いているようにも見える。不思議だ……。


「これは面白いわ!えっと、同じような筒がほかにもあるみたいね。じゃあ同じようにやっちゃお!」


 女の子は直列につながった四気筒のシリンダー全てのエア吸入装置と燃料噴射装置を止めて自ら空気を送り込んだ。それなのにエンジンは普通に動いているし問題なく見える。やっぱり不思議だ……。


 女の子が顔を真っ黒にしながらエンジン内部を楽しんでいると、急にエンジンを載せたものが動き出した。さらにピストンの回転数が上がる。そしてある地点まで行くと回転数が落ちてさらに上がっていく。また落ちて上がっていく。そのたびに女の子はエアを送り続ける。


「ん〜面倒だな……でも外は冷たい風が来る!気持ちいい!……これなら、風よ我の意思を聞け」


 女の子が唱えると、今度は自然とどこからともなく空気がシリンダー内部に送り込まれる。当然空気吸入口も燃料噴射装置も止まったままである。


「ん〜らくちんらくちん」


 ひとしきりピストンと爆発と排気を楽しんだ後エンジンから顔を出すと、上から音楽が聞こえてきた。女の子はその音楽が気になって今度は上に上がることにした。




 ☆☆☆ ☆☆☆




 真治はとりあえず石畳の続く方向へトラックを走らせていた。常時軽いショックは来るし時々ガタンと比較的強いショックも来るので、時速三〇キロでゆっくり走っている。しかし見渡す限り草原と遠くに見える山しかないので、ラジオをつけてみることにした。が、ザーッという音だけ。それがここが日本ではない事を思い知らせる。


「はあ、やっぱり異世界か、ここは……?」


 なので、スマホをシガーソケットに繋いだ充電器に取り付けて、イヤホンジャックにAUXケーブルを差し込み、反対側を源治に取り付けてもらったCDプレイヤーのAUXジャックに差し込んでミュージックオン。

 携帯に入れているMP3の曲がキャビンのスピーカーから流れる。


「やっぱり何もないところでの音楽は良い。ドライブには最適だ」


 ポジティブ思考に無理やり切り替えた真治は四八人からなるアイドルグループの曲にノリノリな真治。実は最近になって実はメンバーが四八人以上いるということを知った。この事実を知った時「詐欺だ」と思った真治だったが、好きなメンバーが出ている間は応援しようと決めた真治だったりする。


 そんなノリノリな時、一部分を黒く染めた緑の光に包まれた何かが視界に入った。その何かはリズムに合わせるように左右に揺れている。そしてその何かと目があった。その何かはちっちゃな女の子だった。女の子は真治と目が合うとニパッと笑って真治に手を振ってくる。そんなことしながらも体を左右に揺すってリズムに合わせている。


「や、やあ……って、え!?」


 真治は急ブレーキでトラックを止めた。


 ゴン


 トラックが止まったことで女の子がフロントガラスに飛んでってガラスに頭をぶつけた音だ。これで二度目である。女の子は頭を押さえてプルプルとしている。


「いった〜い!これで二度目だよ〜」


 女の子の頭にはまるーくたんこぶができている。


「って、誰!?」


 真治が女の子に詰め寄った。


「え?」


 女の子が顔を上げると、そこには真治のでかすぎるドアップの顔があった。


「うわっ!」


 ゴン


 驚いた拍子に再びフロントガラスに頭を打ち付ける女の子。三度目である。たんこぶに直撃、かなり痛そうである。


「うわ〜ん!痛いよ〜!」


 頭を抱えながら泣く女の子。目から涙が放射状に飛んでいる。唖然とする真治。とりあえずとペットボトルのお茶をティッシュに含ませて女の子の頭に乗せてやる。


「あ、つめた〜い!」


 今度はうれしそうである。

 気を取り直して……


「で、きみ誰?」


 さすがに二度目のドアップ顔には驚かなかった。


「あー、顔近いから怖いからちょっと離れて」

「え?ああ、はいはい……」


 女の子に言われて少し離れる真治。女の子はお茶を含ませたティッシュでたんこぶを撫でている。でもあまり撫ですぎると……


「あ、やぶれた……これもう一つ頂戴」


 と、女の子がやぶれたティッシュを真治に差し出した。しかしティッシュの方が女の子よりはるかに大きいので、ティッシュで女の子が全部隠れてしまう。真治は「はいはい」と敗れたティッシュを受け取り、今度はできるだけ小さく折りたたんでからお茶を含ませて女の子の頭に乗せてやる。


「ああ、気持ちいいー!」


 幸せそうな笑顔を見せる女の子。真治はそんな女の子をじーっと見つめる。その視線に気づいた女の子が


「やだ、そんなに見ちゃ恥ずかしいよ」


 とティッシュを頭に乗せたままで両腕で胸を隠す。「あ、ごめん!」と真治は顔を真っ赤にして顔を離して視線を外した。そんな真治に女の子は、


「意外とウブなんだ」


 とニヤリ。「見たかったら言ってくれれば良いのに……」と恥じらい顔で真治に詰め寄って真治の頬を指でつつく。が、そんな事をする女の子は宙に浮いている状態になっていた。その状態を見た真治は「ヒエッ」と妙な声を小さく上げて女の子から飛び退く。とはいってもここはトラックのキャビンの中。飛び抜く範囲は狭い。


「あ、あの……俺に取り付いても楽しくない、よ……?」


 そういう真治の顔は青ざめている。女の子を幽霊だと思ったのだろう。言われた女の子もポカンとしている。そして真治が言った言葉を何度か繰り返しているうちに、女の子の背中に竜巻が舞った。


「あ、あたし、お化けじゃないもん!」


 と、眉間にしわを作って腕を組み、顔をそむける。そむけるときに「プイ」と言ったのはご愛敬。だが、腕を組んだことでふくよかとは言い難い胸のふくらみが強調されたのは、来年三十路を迎えるのにまだ童貞の真治をノックアウトするには十分だった。

 目の前を赤いものが飛んだのを見た女の子は真治を見る。真治は鼻を押さえていた。そしてその視線は自分の胸に言っているのを確認する。


「わー、本当にウブなんだぁ……」


 と詰め寄る女の子。近づいてくる小さな女の子から目を外そうとしてはいるもののちらちらと女の子の胸から目が離せないでいる真治。


「もう、しっかりしてよ。男の子なんでしょ?」


 そう言いながら真治に飛んでくる女の子。条件反射的に女の子を払い落してしまう真治。そしてものの見事に払い落される女の子。


 ゴン


 四度目の頭突きである。


「もう痛いじゃない!」


 と真治の目の前に飛んでくる女の子。また条件反射で払い落してしまう真治……。

 

 ゴン


 五度目の頭突き。さすがにこれだけ同じところを打っていれば目を回そうというものだ。ハッと気が着いた時には、女の子がメーターコンソールで目を回していた。


 何度も頭を打ち付けて目を回した女の子を、|(まあさすがに可哀想だったので)センターコンソールの上にティッシュで作ったベッドを作って寝かせ、大きくなったたんこぶにはお茶を含ませたティッシュをあてて介抱することにした。

 女の子が目を覚ましたのは目を回してから数分後のことだった。



「で、きみは誰なんだ?」


 と横になる女の子を見下ろす真治。今度はティッシュの掛け布団もどきをかけているので鼻血を吹くことはない。


「えっと、とりあえず介抱してくれたみたいでありがと……」

「え?あ、はい……どう、いたしまし、て?」

「あたしはヒレン。風の精霊だよ」

「は?」


 風の精霊のヒレンと名乗りドヤ顔をする女の子に真治の目が点になる。ああ、ファンタジーがやってきたー。俺二九になってから中ニ病?

 真治の頭の中には赤、黄、白のたくさんの花が咲き乱れお花畑が出来上がり、その中をアルプスの少女の服を着た真治がスキップして回る。しかも野太い声でヨーデルなんて歌っていたり……。


「えっと、おーい……」

 

 「はあ」とため息をつくヒレンは固まった真治の顔の正面まで浮き上がると、とりあえず払い落されないように自分の周りに結界を張ってから真治をツンツンと突く。


「ハッ!」


 真治が気が着いたところで、ヒレンは真治の目の前に戻る。


「あの……大丈夫?」

「アハハ……、今精霊って言った?」

「うん、言ったけど?」

「あーやっぱりー?」


 再び頭の中の花が咲き乱れ……そうになったところで、ヒレンが軽い空気弾を真治にぶつけて正気に戻らせる。

 二人の間にしばらくの沈黙……。その間も真治の頭の中ではアルプスの少女版真治が野太い声でヨーデルを歌いながらスキップで跳ね回っていた。

 沈黙すること約二分程度。微妙に長かった……。

 目に生気が戻ってきた真治が目の前のヒレンを見つめて、


「あの、ここってどこ?」

「え?そこから?」


 再び沈黙……はヒレンが遮った。


「ここは、アリストラ大陸のマキラート王国だよ」


 また聞いたことのない大陸と国名……。ふっと意識が飛ぼうとした中で、ぐっとこらえる真治。真治の頬にはツーッと冷や汗が流れる。


「えっと、つかぬをことお聞きしますが……」

「なに?」

「日本ってご存知ですか?もしくは地球」

「ニホン?チキュウ?どこそれ?」

「あ、やっぱり……」


 はい、やっぱり異世界でした。ガックリと肩を落とす真治。これからどうすればいいんだろ?と心の中で嘆くのだった。

あれだけ頭打って大丈夫なものなんだろうか……

精霊だけに大丈夫だったり?

『だいじょぶじゃないわよ!』


 ……

『するーかい』

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