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トラッカーの異世界物語  作者: 甲丞
第一章 気がつけばそこは異世界でした
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第一話 真治、異世界に飛ばされる

書きたい……書こう……何を書こう……

散々悩んで、結果こういう物語になってしまいました。


※サブタイトルに違和感を感じたので変更しました。以降話数が変わってしまいますが、すみませんです……

「おはようございまーす!」


 トラックから降りた有賀真治(ありがしんじ)(29)は、いつもの時間、いつものようにバックヤードで段ボールの片づけをしているおばちゃんに挨拶した。おばちゃんは、声から真治だと判断すると、手を休めて真治ににっこりを笑った。もう四〇も半ばにさしかかったおばちゃんだが三〇前後といっても通用するくらいに肌はきれいだしスタイルも良いし美人の枠に入るだろう。実は真治はこのおばちゃんに好意を寄せていた。それだけに結婚していると知った時にはその落胆は大きかった。昨年旦那に先立たれてしまったおばちゃんはかなり落ち込んでいた。実はおばちゃんと真治は非常に近いところに住んでいた、というか同じマンションの住民だった。そういうこともあり、真治は何かとおばちゃんを元気づけようとしたことも今は懐かしい思い出だ。おばちゃんも真治のことを良いと思っている。「もう少し若ければね〜」と内心思っていたりするおばちゃんである。それだけに男女の関係にはなっていないどころか、大学時代に両親を亡くして退学せざるを得なくなった真治にとって、おばちゃんはお姉ちゃんみたいな存在に変わっていたのだから仕方ないのかも知れない。


「あら、真ちゃん。おはよ!はい、いつものお弁当」


 おばちゃんはいつも真治にお弁当を持ってくる。これもおばちゃんの日課だ。特に旦那を亡くしてからは食べるものも喉を通らなかったりしていたところを、真治に元気づけられた。というか、今ではかわいい弟のようだ。最初はコンビニやパーキングエリアでのジャンクフードを一汗かいた後の朝食にしていたのだが、「それじゃ体に悪い」ということで、いつしかおばちゃんの手作り弁当が真治の朝食になってしまっている。


「いつもありがとう、おばちゃん」


 はじめは古川さんと呼んでいたのだが、「他人行儀はやめてくれ」といわれたこともあって、今では「おばちゃん」「真ちゃん」と呼ぶ仲だ。時間に余裕があるときには一〇分ほど話したりもするのだが、今日は繁忙期もあって荷物が多いので、おしゃべりもほどほどに真治は仕事を進める。トラックのゲートを下ろしてコンテナから籠台車(かごだいしゃ)を下ろしては店内に運んで行く。中身によっては一〇〇キログラムを超えるものもある籠台車。下ろすのも運ぶのも一苦労だ。今はまだ冬から春への季節代わりだからちょっとした汗で済むが、真夏にはぼたぼたと落ちる汗とうだるような暑さでやってられないという気持にもなるほどだ。一見きつそうだが、慣れれば誰にでもできる仕事。特に真治の場合は教師になりたくて大学に通っていたし、それ以外のことについては興味なんてなかった。そんな真治が大学を中退してしまうと、高校卒業の時に取った運転免許くらいでしか食べていくことができない。真治は両親が残してくれたわずかな資本で大型免許を取った。ちょうど中型免許という新しい制度ができる前に取ったため、余計な出費を抑えることができたのも真治とっては非常に都合がよかった。そして始めたこの仕事。4t車を運転できる免許とやる気と体力さえあれば誰にでもできる仕事であるため、真治はとにかく一生懸命だった。周りはおっちゃんが多く、二人だけ女性もいるが気さくだけど真治にはボールなおばちゃんばかり。出会いもないし、辞めたくなった時もあったけど、辞めてしまうと仕事は他にはない気がして頑張っている。そんな真治をおばちゃんは優しい目で見ていた。


 いつもはこの場所に下ろす籠台車は三〜四台程度のはずが、今日は六台もあった。どこかで一度取りに帰らなければならないはずだったのだが、今日は人手がある日だったこともあり、途中まで持ってきてくれることになっている。こういうこともあり今日はおばちゃんとのおしゃべりはなし。おばちゃんに「じゃ、今日はこれで」と手を挙げてトラックに走っていく。

 真治がトラックに乗りエンジンをかけたところで、おばちゃんからいつもの缶コーヒーをもらった。


「急いでるのはわかるけど、落ち着いて怪我しないようにね」


 そう言っておばちゃんはトラックから離れて手を振る。真治も窓から手を出して振り返しながらスーパーを後にした。


 二店目、三店目と荷物を下ろしてコンテナを空にした真治は、待ち合わせの公園までトラックを走らせた。真治が就いた時にはすでに真治の班の班長を務める高田源治(たかだげんじ)が到着していた。源治は乗ってきたトラックのコンテナを開け、コンテナ同士をくっつけるようにバックしてくる真治に合図をして止めさせると、ゲートを下ろしてコンテナを開け、ゲートに乗ると高さを調節しながらトラックのバックモニターに映るように「バックしろ」と真治に合図を出す。ちょうどゲートと源治が乗ってきたトラックのコンテナがくっつくというところで真治にトラックを止めさせて荷物を真治のトラックに積み直し始める。

 そこへ真治もやってきた。


「源さん、俺やります」

「急いで下ろしてきたんだろ?予定より二〇分も早く着きやがって。良いから休んでろ!疲れで事故されても困るからな」

「すみません」

「良いってことよ。俺ァお前さんのマジメなところが好きだからな。年度開けたらお前さんの給料上げてもらうよう上に言ってやってるから。またその分頑張って仕事してくれな」


 源治はそう言ってニカッと真治に笑って見せる。人を育てることに源治の右に出るものはいないといわれる程だ。免許は持ってるけどトラックに乗ったことがないという新人だった真治に、トラックの運転方法、普通車との違い、内輪差などを徹底的に教えた。鬼教官ではあったが、源治の言っていることを守って走っていたら、いつの間にか無事故無違反一〇年が経っていた。そして、源治の事故を起こさない一番の方法はというと、「疲れたら適当な場所で寝ろ」だった。一〇分でもシートを倒して目を瞑るそれだけで不思議と疲れは取れる。起きたらトラックから降りて大きく背伸びをしてから再び運転を開始。これを続けていたからこその無事故だ。無違反については、これはもう真治の生まれ持った真面目さゆえだろう。とにかくルールは守る、それが死んだ両親からずっと言われてきた事だった。おかげで昨日は会社から金一封なんて貰ってしまった。

 源治はそういう真治を高く評価していたし、そろそろ真治の下に部下をつけていいとも考えていた。真治ならできるだろうし、「困ったことがあれば俺が助けてやればいい」、源治は荷物を積み直しながらそんなことを考えていた。


 荷物の積み直しが終わったところで、源治は真治を呼んだのだが源治がない。まさかと思った源治は運転席のドアを開けてみる。ドアが開き、不意に足が外に持っていかれる感じに真治はハッとした。そういつの間にか眠っていたのだ。


「あ、すみません、源さん」


 そういう真治の口元にはよだれが。そんな真治を指さして大笑いする源治。よだれに気付いた真治は顔を真っ赤にした。


「もう源さん、そこまで笑わなくてもいいじゃないですか……」

「いや、すまん――。笑いすぎた」

「ったく――」

「すまんかったって。それより荷物積み終わったし、コンテナもゲートも閉じてるからいつでも出ていいぞ」

「ありがとうございます、源さん。やってもらってすみません」

「なに、良いってことよ!じゃ、気ぃ付けてな!」


 源治はドアを閉めると真治を送り出した。

 真治の一便目の再スタートである。

 公園を出て山を降りると再スタートのスーパーが見えてくる。時間はいつもよりも五分ほど押している。


「少し急いで下ろさないと、次の時間指定に間に合わないかも」


 安全確認はいつも通りに慎重に行い、荷下ろしの速度を少し上げる。といっても荷物は重いため少しだけ急ぐ事もすごく難しかったりする。が、スーパーによっては「何時何分〜何分間で納品済ませて」というところもあれば「何時何分までに来て」というところもあるし、「何時何分以降じゃないと困る」なんてところもある。これは納品を行う者でないとわからない苦労であったりもするのだが、遅れることによってスーパーよりもお客さんに迷惑をかけるわけにはいかないのもまた事実である。そんな誰にでもできるが責任は重大というこういう仕事は真治にとって天職に思えているのもまた事実だったりする。


 トラックを走らせて、一便目の荷物を全て下ろした真治は、いつも休憩場所として利用しているバイパスのパーキングエリアに来ていた。時刻は午前六時を少し回ったところ。いつもよりも一五分程遅れて休憩開始である。今のトラックにはデジタルタコメーターなるものが着いているため、納品時間、休憩した場所、休憩時間、運転時間などが全て記録され管理される。これは法律によって定められた安全義務でもあるので絶対である。源治が前線で走らせていたころは紙グラフが使われていた。丸い記録紙に速度、エンジンを止めた時間、走り出した時間、休憩時間などが車の稼働状態によってグラフ化されるというものを使っていた。そのため法律で定められていてもグラフが曖昧であり、管理が不十分な個所もいくつもあった。そして引き起こされるトラックが絡む交通事故やドライバーへの過度な労働。中には過労によって死亡するドライバーもいたほどだ。そういう問題を解決するために作られたのがデジタルタコメーター、通称デジタコである。これにより法を守っているかどうかが一目瞭然であるとともに、デジタコ黎明期にはドライバーや運送会社からの不評もたくさんあったのも事実である。しかしここまで普及してしまうと、これが当たり前になってしまうから世の中不思議である。


 真治はおばちゃんお手製の弁当を開けてみる。


「お、今日はのり弁か」


 文字通りののり弁、のり弁当だ。ご飯に味付けのりが載せてあり、魚のフライにから揚げ、サラダにおばちゃんお手製の真治の大好物でもあるラッキョウが入っている。さらにデザートにとこれまたおばちゃん手作りのプリンまで入っていた。全てをあっという間に平らげてしまう真治。しかしこれで持つわけではない。とりあえず一便目はこれで良いのだが、二便目の積み込みが終わると小腹がすいてくるのだ。そんな時は仕方ないのでちょっとしたパンを買ったりして運転と荷下ろしに備えているというわけだ。


「ごちそうさまでした。今日もおいしかったです!」


 パンッと手を合わせておばちゃんに感謝する真治。そして覚めてしまった缶コーヒーで一息。真治は煙草は吸わないので、真治のトラックはきれいなままだ。埃がたまったなと思えば箒で履いたり掃除機で掃除したりしているし、外観は仕事終了後にさっと水で洗ったり時には会社で契約しているガソリンスタンドに設置してあるトラック用の洗車機で洗ったりしているから大丈夫である。細かな傷があるのは、石が飛んできたり狭い道だと離合するのに草木でこすったりすることもあるので見て見ぬふり。目に余るようであれば、会社に言えば修理もしてくれる。


 そんなこんなでいつも通り満腹感に襲われて眠気がやってくる。いつもスマホの目覚ましはセットされたままなので時間になればスマホがの目覚ましがうるさく鳴り響き、かつバイブでも起こしてくれる。

 そんな安心感もあって、真治は睡魔に体をゆだねることにした。




 ☆☆☆ ☆☆☆




『起きてくださいませ』


 どこからともなく声が聞こえる。か細い女の子の声。


『時間がありません。起きてくださいませ』


 また聞こえてくる声。真治は「んー」と唸ってゴロリと寝がえりを打つ。とその時、スマホの目覚ましが鳴り響いた。真治は胸ポケットに入れたスマホを操作して目覚ましを止めて、「あーぁ」大きく背伸びをする。キャビン内を閉じたカーテンの隙間から明るい日差しが差し込んでくる。

 真治は、「さて!」と自分に対して掛け声をかけると、寝かせていたシートを元に戻してカーテンを開けた。とたんまぶしいくらいの日差しが真治の寝ぼけ眼を直撃する。しばらくして徐々に日差しに慣れてきた真治は、寝ぼけた体を起こすために外に出て背伸びをしようとドアノブに手をかけた時、周りの景色が目に入ってきた。


「は……?」


 真治の目に飛び込んできた景色は、休憩とした止まったパーキングエリアではなく、周りはそよ風になびく草原の真っ只中。「まだ寝ぼけてるのか?」と目をこすってみるが、その景色は変わらない。


「えっと……ここはどこ?」


 さらに助手席側からは馬の鳴き声が聞こえてくる。「まさか」と助手席のカーテンをスイッチで開くと、そこには一頭の馬がつながれた小型の馬車が止まっていた。さらにその奥には大きな木がある。


「まだ、夢の中だったりしないよな……」


 自分の頬をつねってみる真治。


「痛い……ということはこれって現実?いやいやライトノベルじゃあるまいし、こんなことあり得ない」


 とりあえずとトラックから降りてみる真治。足に触れるのは石。というか石畳。きれいに設置された石畳は歪みなどはほとんど見られない。これはこれで高い技術力が求められる産物である事はわかるのだが……。助手席の方へまわってみると、馬車が止まっていた。止まっているのはやっぱり石畳の上。馬の鼻先には干し草が入った竹籠のようなものが置いてあり、馬は中の干し草をムシャムシャと食べている状況。あまりの現実離れした状況に唖然とする真治。そんな真治に近づいてくる一人の老人。


「なんじゃ見かけない成りをしとるのう。兄ちゃん、どっから来たんじゃ?」


 作務衣のようなものを着た老人は顎に蓄えた白髪の髭を撫でながら真治に話しかけてきた。


「えっと、日本?」

「ワシに聞かれても困るわい。というかニホンってどこじゃ?ワシは聞いたことないのう」

「え?」


 日本を知らない……固まる真治。対して老人は馬の背中を撫でている。


「えっと……おじいさん、ここはどこ?」

「ん?ここはマキラート王国のアシュイ村の外れじゃよ」


 再び固まる真治。マキラート王国ってどこだよ……。


「なんじゃ、おぬしマキラートも知らんのか。ワシゃてっきり運び屋の兄ちゃんかと思ったぞい。こんなでっかい乗り物に乗っとったからのう」

「運び屋……」


 言葉だけ取れば危ない仕事に思えてしまう真治。それもそうだろう。「運び屋」と言えば麻薬などのアブナイ『ブツ』を運ぶ人の仕事のことだ。真治の頬をツツーッと冷や汗が流れる。


「まあ、なんじゃ……ここがどこか知らん者にあれこれ言っても余計に混乱するだけじゃろうて。こんな乗り物に乗っとるお前さんじゃ。王都に行けば何かわかるかも知れんのう。とりあえず南へ行ってみい。馬車なら一〇日はかかるが、この乗り物が運び屋と同じ乗り物なら三日とかからずに着くじゃろうからの」


 と、老人は言う御者台に乗ると、「じゃ達者での」と言い残して去って行った。


「ハ、ハハハ……何かの冗談だよな……言葉だって通じてるし……」


 その場で白くなる真治だった。

 真治の後ろでは、パッカパッカと老人の乗る馬車が北へ去って行った。


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