IN-5
『こいつが、私の本邸に潜り込み、秘密を盗み観たのだ』
南の集会場。
スネイルが冷酷な表情で、床に倒れているカイを見つめた。カイは猿轡を噛まされた上に、縄で何重にも縛られている。
『カイ…』
タクトには、大方の察しが付いていた。自分が今回の騒動で役に立たない事を気に病み、スネイルの事を張っていたのだろう。カイの気持ちは素直に嬉しい。しかし、これでは元も子もない……予想外の状況に、タクトは歯噛みする。
『決闘が終わるまでこちらで預かっても良かったが、それであらぬ噂を立てられても困るのでね。カイを北側の人間が殺した…とかね』
『それで……どうするつもりだ?』
『どうもしない』
スネイルは言う。タクトは予想外の答えに一瞬、怯む。
『そちらが独自で処罰するというなら、もちろん止めはしないが。北側としては、これ以上何かをする気は無い。好きにしたまえ』
『何言ってるの?その猿轡を解いたら、カイが秘密を喋るのに』
ヒヨリがもっともな意見を口にすると、スネイルはゲラゲラと笑い出した。
『そう。本来ならば、秘密を口外するのは命取りだ。しかし、決闘は明日。そして私の必勝法は一日やそこらで敗れるものではない』
言うとスネイルは、指を2度鳴らす。すると、集会所の扉が静かに開き、兵士の一人が恭しく一杯のグラスを運んできた。
『さて、タクト。お前の所にある、5の魔法水をグラス一杯いただけるかな?』
『…何をするつもりだ?』
『何、楽しい実験だよ』
『……ヒヨリ、5の魔法水を頼む』
『わかった』
ヒヨリは集会所を飛び出すと、集会場近くの倉庫に向かう。倉庫には、瓶詰めされた魔法水1~5の在庫がギッシリと詰まっている。その中から5の魔法水を取り出すと、グラスに入れ替えた。
『さて、それを貸していただけるかな?お嬢さん』
集会場に戻ると、ヒヨリは恐る恐ると言った表情で、スネイルにグラスを渡す。
スネイルは匂いを嗅ぎ、器に映った水面を凝視する。魔法水は水と同じく、無色透明・無味無臭。
特に問題が無いと分かり、パチンと指を弾くと、
『何かを混ぜているわけではないな。いや疑ってすまなかった。これはれっきとした5の魔法水のようだ』
するとスネイルは、何のためらいも無く5の魔法水を呷る。あっ、とタクトとヒヨリが声を上げた。
『さて、通常であれば5の魔法水に対しての解毒方法は無い。それ以上の数字の魔法水が出ていないからな』
スネイルは落ち着いた口調で、2人に言い聞かせるように語った。
『しかし』
兵士が持ってきたグラスを呷る。
『今飲んだ物。これは、私の敷地内から掘り起こされた、6の魔法水だ』
再び2人の間で驚きの声が上がる。
『これがある限り、私の勝ちは揺るぎない。何せ、何を飲んでも解毒になり、相手は必ず死んでしまう……実に愉快だ』
器を兵士に突きつけると、スネイルは笑った。
『明日の決闘が実に楽しみだ…逃げ出さずにしっかり来てくれよ。せいぜいその戦士クンから話を聞きたまえ』