OUT-4
「予防接種というのは、こちらで打ってもらえるのかしら?うちの子がインフルエンザに掛かったみたいなのよ」
まだ若い子連れの主婦が、店に入るなり日和に詰め寄ると、何の前置きも無くまくし立てた。
「残念ながら、こちらでは扱っておりません。申し訳ありませんが、病院へ行かれるとよろしいですよ。それと、夏にインフルエンザが流行る事は稀ですので、夏風邪だと思われます。まずは病院に行ってお確かめください」
よそ行きの声色と笑顔で、日和はそつなく答える。
「余計な事言わないで。こうちゃんの事は私が一番知ってるんだから口出ししないでもらえますか。…ふうん、品揃え悪いわね。この店。行きましょう、こうちゃん」
主婦はぴしゃりと言い切ると、マスクをした子どもの手を引き、ドラッグストアを後にした。日和の顔が歪む。
「何よあれ!予防接種がドラッグストアで出来ると思ってるのかしら!」
「最近は、よく分からない親が増えてるって言うしな」
拓斗が相槌を打つと、日和は大きく頷く。
「全く、あの子がどうなってもいいのかしら?インフルエンザだとしても、あんなふうに発症していたら、もう予防接種なんてしても意味無いのに」
「あれ?そうなのか」
拓斗が適当に答えると、
「この位、ドラッグストアで働いているなら、覚えときなさい!」
ギウギウ拓斗の頬をつねる。
「いたたたた……」
「予防接種には大概、毒性の低い細菌が入っているの。それを身体に取り込む事によって、細菌の抗体を作りだすの?分かった?もう菌が入って病気に罹ってからじゃ遅いの。予め注射をしておかないと、何の意味も無いの」
「な、なるほど…勉強になりました」
「ん、よろしい」
日和は手を放す。
「で、どうするの?」
「何が?」
「明日の決闘よ!」
「う、うーん…」
「情報無いの?」
「全くないんだよ。これが」
拓斗が弱りきった表情を見せる。
「相手は何を考えてるのかしら??5の魔法水しかなければ、両者ドローなのに…。死んだらキャラクターの名前以外はリセットなんだから、ドローに意味があるとは思えないし…」
日和は一人呟いた。
「あ、あのよ…」
2人の話に、ダンボールを抱えた海が割り込む。表情は拓斗以上に冴えない。
「何だ?海?」
「ん?ああ……いや…何と言うかな」
海はぎこちない口調で話を進める。
「その情報というか、相手が何を考えているか分かったというか…」
「情報持ってるの??」
日和が海に詰め寄る。
「何?何?教えてよ。ねぇ」
「いや………」
海は目を閉じ、しばらく考える。そして、意を決したような表情を見せると、
「やっぱり今は教えられん!お前らに迷惑を掛けてしまって、合わせる顔が無い!すまん!」
そう言い切ると、ダンボールを床に置き、いつもの通り、商品補充を始めた。
「迷惑って何の事だよ?もう時間が無いんだ。何かあったなら、教えてくれよ」
拓斗が尋ねても、
「すまん!今日の夜にはゲームで分かる!それまで……それまで勘弁してくれ。心の整理が付かん。頼む」
海は背を向け、商品補充をしたまま、そう答えるだけだった。