IN-3
『まずは北の意図を探ろうと考えている。何でもいい。とにかく情報を集めてくれ。それと、1~5の泉に何か仕掛けを行うかもしれない。決闘は一週間後だ。それまで交代で泉の監視をお願いしたい。そして決して無理をしない事。何かあれば必ず連絡をしてほしい』
タクトは集会所に南の代表者を集め、的確な指示を飛ばす。南の面々は指示を受け、迅速に行動を始めた。
(リアルでもこのぐらいテキパキしてれば、ウチの店も繁盛するのに)
ヒヨリは集会所の壁にもたれつつ、そんな事を考える。
(リアルとネットのキャラが違いすぎるんだよね)
『タクト、オレは何もしなくていいのか?』
カイがタクトに近づいた。
『カイは、力仕事要員だから、まぁ、基本待機。そのデカイ図体で、情報収集って訳にもいかないだろ?』
その言葉を聞くと、カイは大袈裟な程がっくりと俯く。
『…それならば、まぁ、仕方がない。今回、力仕事は少なそうだ。ただ、何かあれば直ぐに声を掛けてくれ』
『気にするなって。今回の決闘で死んだって、1から金稼げば良いしさ。いざとなったら、この500人だって何とかするって。また島の権利とか買ってさ。気楽に考えないと。たかがゲームだ』
タクトは努めて明るく振舞い、カイの背中を2・3度叩く。
『あ、ああ…そうだな。島を買う…か』
カイはこの島の始まりを思い出し、僅かに微笑んだ。
この島の権利をタクトが買ったのは、丁度1年前。まだ魔法水が出ると分かる以前に、二束三文の値段で買い取った。元々、ファン研で遊ぶ場所が欲しいと計画していたのだ。
買い取った後、島のあちこちを探索し、その時に魔法水の存在に気が付いた。魔法水は面白いように売れ、あっという間に島とファン研の名は売れた。
その内、タクトの商売を手伝うものが増え、魔法水を中心とした経済が周り始めた。最終的には500人もの人間が島に居つき、タクトはその代表という事で落ち着いた。
『まぁ、次やるなら、オルラン商会に睨まれないようにしとかないとね~』
ヒヨリが自然と話に割り込む。タクトとカイは静かに頷いた。
島の経済が順調に回り始め、安定を迎えたころ、突然1500人もの大群が北から上陸してきた。
それがオルラン商会。『ファンタジーステージ』内で幅を利かせる、商人組織の1つ。
世界中に支店を持つオルラン商会は、財力・人力に物を言わせた強引な手法で手広く商売を行っていた。今回の魔法水にしても、その噂を聞きつけ、一気に島の北側から人員を送り込み、魔法水産業の独占を謀った。
ファン研を中心とした南側も、ただ手をこまねいた訳ではなく、あらゆる手立てを講じてはいたが、結局北にオルラン商会が居つくことを阻止する事は出来ず、島は南北に分割される事となった。南と北はその後、島の権利を争い続け、現在の状況に至っている。
『まぁ、そうだな。それよりも、今は、この決闘に勝つことだ。ヒヨリには、情報が集まったら、頭脳労働で頑張ってもらうよ』
カイトは努めて明るく接した。
『OK!えと、それとさぁ…』
ヒヨリはタクトを引き寄せると、耳打ちをするように
『カイにも何か仕事を振って上げなさいよ。今回の決闘が、頭脳戦だと分かって、随分しょげてるわよ。根がマジメなんだから、何か役割をあげないと』
小声で話す。
『分かってるよ。ただ、今は本当に出来る仕事がないんだ』
タクトが見ると、カイは所在なさげに、辺りをうろつき、時折、空を見上げてボンヤリとしていた。空には、全く欠けた所の無い、美しい満月が昇っていた。