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彼女と魔王  作者: 斑羊
1/2

彼女の出会い

本作は、拙作『魔王とユウシャ』の前日談に当たる物語です。

そのため、そちらには本作の盛大なネタバレが含まれています。

こちらから読まれる方はネタバレが嫌なら完結するまで、そちらを読まない方がよいかも知れません。



 孤児院出身、年齢十九歳、容姿平凡ただし化粧映えする顔、魔法技術中の下、職業酒場の給仕、交友関係広く浅く、それらが私を示す事柄。

 特別な事なんて何も無いし、それが不満な訳でもない、平凡で平坦な日常。劇的な変化なんて望んでいないし、月並みで在り来りな日々を送っていく事を疑っていなかった。

 糧を得る為に仕事をして、たまにちょっとだけ贅沢をして、それなりの相手と結婚して、そして多分死ぬ時は呆気なく逝って終わり、私の人生なんてそんな物だと思っていた。


 ・・・まあ、そんなのは只の錯覚で、私の人生はたった一つの出会いを切っ掛けに普通なんてモノからは乖離してまったのだけど。




 ◆ ◆ ◆ ◆ ◆ ◆ ◆ ◆ ◆ ◆ ◆ ◆




(なに・・・この状況)


 もしも女神と言う存在が居るのなら、きっと彼女のような姿なのだと思った。

 流れるような銀の髪、白磁のように白い肌、鼻梁はすっと通り、唇は艶やかに紅く、二重の瞼の奥に在る瞳は、黄昏時の空のように深く澄んだ橙色、そして黄金比の如く均整のとれた体、それらが見事に調和していて、それぞれの良さを更に高めている。

 目が覚めたら、そんな、美しいなんて言葉が陳腐に聞こえる程の美貌の女性にベッドの上で凝視されてた。


 これだけ聞くと、男の妄想が具現したような状況だけど、ベッドの上なのは私だけで彼女は椅子に座っているし、そもそも私は女で、ソッチの趣味もない。


「む、気が付いたか」

「えっと、はい。あの、私はどうしてここに? それに、あなたはいったい?」


 彼女の、その容姿に相応しい透き通った甘い声に、体を起こし、少しでも状況を掴む為の言葉を返す。


 改めて周りを見ると、私達が居たのは王宮の一室かと思う程に質の良い部屋だった。周りにある調度品は一目でそれと分かるくらい上等な物ばかりだし、装飾も豪華だけど決して下品ではなく、私が寝ていたベッドにしても今まで使っていた物が只の板に思えてくる寝心地だった。


 少なくとも私のような一般市民には、まるで縁のない筈の場所だからここは彼女に関係した場所、つまり彼女は相当な富豪かその縁者と言う事になり、そんな彼女と二人きりという状況にますます訳が分からなくなる。

 

「ふむ、確かにあの状況では憶えておらんのも無理からぬ事であるな。そなたが、路地裏で吐瀉物に塗れて寝ておったのでな、吾輩が取った宿まで運んだのだが……そう言えば、何故あのような事になっておったのだ?」


「いっ、えっと、その、それは、・・・と、ともかく、助けて下さってありがとうございました」


 彼女の言葉で、自分が昨日どんな醜態を晒したのかを思い出して、私の顔は赤く染まっていた。

(い、言える訳無い。男に振られて、自分の酒量を弁えずに自棄酒飲んで前後不覚になったあげくに、流石に表通りで吐くのは不味いと思って路地裏で胃の中身全部吐いて、そのまま寝落ちしちゃったとか。)


「礼は受け取るが……そなた、いや直に確かめれば済む事だな」


 そう言って彼女は、私の頬に手を添え、その整った顔を私に近づけてくる。


(え、何? まさかキス!? 礼ってそういう事になるの!? 確かめるってナニを!? い、いきなりそんな、まだ心の準備がって、そうじゃないでしょ! 私にソッチの趣味は無いわ! ……無い、筈なのに全然拒めてない。寧ろ、そこいらの男より彼女の方がずっと……って、違う! そもそも会って一日どころか一時間も経って無い相手となんて、ってもう距離がほとんど無いじゃない!……やっぱり凄い綺麗、睫毛も長いし瞳はどこまでも澄んでいて綺麗、唇は何だか色っぽくて、あれが、私に……あ、無理だ。 こんなの拒める筈、無い・・・)


 私は流されるまま目を閉じて……


「ふむ、やはり熱が有るな」


(……えっと、これってつまりそういう事? 全部、私の……あ、穴があったら入りたい)

 ……彼女の言葉と額に当たる冷たい感触で、自分の勘違いに気付き、恥かしさから慌てて彼女から離れようとして、自分の居る場所を忘れていた当然の結果として、私はベッドから転げ落ちた。


(やばっ、……って、あれ?痛く、無い?)


 声も出せず、衝撃を予想して身を竦める事しか出来なかった私は、予想していたのとは逆の柔らかな感触に戸惑った。


「ふむ、怪我は無いようだな。まあどのような病だろうが吾輩に。今しばらく眠ると良い」


(頭の上から声がするって事は、この頭に当たってると言うより頭が埋まっていると言った方が的確な柔らかくて気持ちのいいモノは……くそっなんて格差社会だ! ……そうじゃなくて早く離れないと! もうちょっとくらいこのまま……違う! 私にソッチの趣味は無い! さっきのはちょっとした気の迷いで、でも……暖かくて気持ちいいしなんだか甘くていい匂いがする。やば、意識が……もう、無理)


 私の意識は心地よい安心感に包まれて眠りに落ちた。

短いですが、今回はここまでです。

元々は短編で上げる予定だったので、そこまで長くは続かないでしょうが完結まで読んで下されば幸いです。

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