其之八
――真田の郷、真田屋敷――
「う、う〜ん」
「!!!皆、源四郎が目を覚ましましたよ!!!」
「え?ばっちゃま??」
自身の寝所の見覚えある天井と自身の顔を覗き込むおとり。
「ばっちゃま。俺寝てたの??」
いいながら身体を起こす。
そこであることに気づく。
「ん?なんか身体からいい匂いすんな??…つーかこの匂い、みおが使ってる石鹸と一緒なような??」
「当たり前です。この二日、みおは朝夕とお前の身体を拭いてくれていたのですよ。」
「へぇー二日。朝夕…えぇ!?ちょ、ばっちゃまそれってもしかして…裸にひん剥いて!?」
「何を言ってるんですこの子は。そうしなければ身体など拭けないでしょう。」
「あわわわわわわわ…」
みおに裸を見られたと告げられ狼狽する源四郎。
おとりが続ける。
「全く…武家の男児がそのくらいで狼狽してどうします。そもそもお前もみおの裸を見たのでしょう?お互い様ではありませんか。それに…」
「それに?」
「いえ…これは私から言うのは無粋でしょう。」
「???」
とまぁこんなやりとりをしていると…
「「「「源四郎!」」」」
松と茂誠夫妻、薫、そして源次郎が寝所に入ってくる。
「兄様、姉上、兄者、母上。」
「ようやく目が覚めたか!心配しとったぞ!!」
「痛むところはありませんか!?」
「室賀の子らを相手に大立ち回りをしたと聞きましたよ!?」
茂誠、松、薫が声を掛ける。
そして少し間をおいて源次郎が声を掛ける。
「源四郎…」
言いかけたところで源三郎が寝所へ現れる。
「…目が覚めたか?」
多少の【怒気】をはらみ源四郎を見据える源三郎。
「…はい。」
いつもなら「みりゃ分かりましょう兄上?」くらいの軽口を叩くところだが今回はやらかしたことを鑑みるにそんなことは到底出来ない。
「動けそうだな…父上がお呼びである、来い」
「はい。」
「ちょ!?源三郎!?」
「源三郎!源四郎はたった今…」
「文句があるなら父上へ…いくぞ源四郎」
「はい。」
「我らも行きましょうぞ兄者。」
「うむ。」
松と薫が源四郎の心配をするのもよそに淡々と源四郎、源次郎、茂誠を伴い昌幸の元へ向かう源三郎。
源四郎の寝所から昌幸の待つ広間へは少しある。
その途中の廊下で源三郎はふと立ち止まり…
「時に源四郎。」
「はい。」
「お主のやったことは…我らや父上に秘密の事が多すぎる上にあろうことか【火薬】の使用…下手をすれば真田はお取り潰しだ。それは分かっているな?」
「はい…」
源三郎が至極当たり前な事を源四郎に言う。
特に【火薬】の調達、使用は普通主家たる武田家の許しが必要なこと。
それを源四郎はどこからか【火薬】を手に入れ【焙烙玉】の製造までやってのけたのである。
これでは武田家に「謀反の気あり」と攻め滅ぼされても文句は言えない。
「だがな源四郎。」
「?」
「武田という主家に仕える武士の家の男児としてはお前の仕出かした事は大変…大変不味いことである!たが!!悔しいかな…一人の漢としてはよくやった。」
「!」
意外や意外。
堅物を通り越した超堅物の源三郎が珍しく源四郎を褒めたのである。
「兄上…」
「俺はそれが悔しいのよ…俺ももうすぐ嫁をめとる。そうなった時に俺は常に嫁と家とを天秤にかけてしまうであろう…だがお前は迷うことなく【嫁】を取った。全く見上げた根性よ」
「ハハッ!全くですな!!」
「兄上、兄者。今はまだ嫁ではありませぬぞみおは。」
「〜〜〜〜〜っ!」かぁあああ
源四郎の顔が真っ赤になる。
そう、よくよく考えると源四郎はまだ嫁でもないみおの為にここまでの大ごとをしでかしたのである。
「とまぁ、源四郎!」
「!はい。」
「我ら兄三人はお前の味方をしてやることに決した。」
「!!!!!」
「元を辿れば室賀のガキどもの乱暴狼藉が原因よ!」
「佐助の調べによれば幸いにも目が潰れた者はおらぬようだ、なればあとはお前の用いた【焙烙玉】のことを郷の外に漏らさねばなんとかなるであろう」
「…ありがとうございます兄上、兄者、兄様。」
三人の兄に深々と頭を下げる源四郎。
「だが…最終的にお沙汰を下すのは父上よ。」
「そうですなぁ〜。」
「兄上、もし父上が切腹申し付けし時は如何されます?」
「んむぅ…その時は…」
「その時は?」
「兄弟四人、仲良く切腹かのぉ。」
ズルッ
ここまで長兄然とカッコつけてた源三郎からの仲良く切腹発言に皆腰砕けになる。
「(頼りになるのかならねぇのか!なんなんだこの兄貴!!)」
さしもの源四郎も腹の底で源三郎を貶す。
「なんだお主らその反応は!とにもかくにも父上がお待ちじゃ、ゆくぞ。」
「「「はい」」」
――真田屋敷、広間――
「…来たか。源四郎、気分はどうじゃ?」
昌幸が広間に座り源四郎を迎える。
その脇には…
「(みお…)」
「(源四郎様…あぁ…)」
みおが座っていた。
「あ〜…こほん。源四郎??」
「あぁ、父上。見ての通り二日も寝ていればどこも異常ありませぬ」
「うむ。流石真田の男児よ、さぁ座れ。源三郎たちもな」
「「「「はっ」」」」
源三郎、茂誠、源次郎、そして源四郎が座る。
「さて…ことの次第は源三郎と弥五郎から聞いておるが………源四郎。」
「はい」
「お主…よくぞやったのぉ!」
「…はいっ?」
昌幸からの予想外の言葉に拍子抜けする源四郎。
なおも昌幸は続ける。
「室賀の奴らには常日頃から里山の薪や山菜を勝手に持っていかれて腹が立っとったんじゃ。だがお主の今回の大立ち回りもあって今や室賀では「真田の三男は本当の鬼子か天狗か、はたまたそれ以上の化生か!」と持ちきりよ。しばらくは馬鹿な真似はせぬじゃろうて。」
「はぁ…」
てっきりまずは拳骨かビンタを食らうものと思っていた源四郎はさきほどから恐縮しきりだった。
が…
「しかしな源四郎。それはあくまで室賀の郷の者たちの話であって室賀本人のことではない。」
「!」
やはりそうなるか。
腹の底でそう思い源四郎は身構える。
「奴とてわしと同じ国衆、しかも小県ではわしに継ぐ規模よ…如何にお主が天狗だ化生だと言われようとも黙って引き下がれる訳なかろう?佐助の調べによるともう既に戦仕度を始めているそうだぞ?」
「…そうなりますか。」
「うむ。しかしわしとてこの真田の郷長。真田の民達を守る責務がある…分かるな?」
「はい。」
「そこでじゃ。今回お主が大立ち回りをしたのも…ひとえにみおの為、なればみおの首を差し出してことを収めようと思う。」
「「「な!?」」」
「……………………………………………………………………………………………………………………………………………は?」
「(何を言ってるんだこの人?)」
兄三人が昌幸に「それはあまりにも!」、「小山田の家にはどう説明を!?」、「どうか!どうかみおの命ばかりは!姑殿!!」などと言っている。
が、源四郎にはどうでも良かった。
みおの命が再び脅かされている。
重要なのはその一点だけである。
「………っざけんな(ボソッ)」
「源四郎?」
「待っておれ源四郎!今父上を説得する故…」
「源四郎!心配するな!!かくなる上はこの茂誠が…」
「ふっざけんなクソおやじぃいいいいいいいいいいいいいいいいいいいいいいいいいいいいいい!」
「「「く…クソおやじぃ!?」」」
「…」
源四郎が叫ぶ!
こともあろうに家長たる昌幸をクソ親父呼ばわりして。
兄三人は目を丸くしているが…当の昌幸本人はそう呼ばれるのが分かっていたかのように黙っている。
「みおの首を差し出すだぁ!?馬鹿言うな!みおはなぁ…」
「みおは…何じゃ?」
ここまで黙っていた昌幸が源四郎に問いただす。
そこへ…
「「「源四郎!」」」
女性陣も慌てて駆けつける。
「殿になんて口を!謝りなさい!!」
「父上はいい加減なところはありますが決してクソなどではありませんよ源四郎!」
「松、今はそういう話をしているのではありませんよ???」
「松、お主持ち上げているのか貶しとるのか…して源四郎……申してみよ。みおは何じゃ?」
女性陣を制しつつ再度昌幸が問う。
「みおは…みおは…みおは…」ごにょごにょ
威勢よく昌幸に食ってかかった割には尻すぼみになる源四郎。
するとここまで黙っていた当のみおが口を開く。
「源四郎様。」
「!」
「みおは今後昌幸様がどのようなお沙汰を下そうとも受け入れます。」
「!!!」
「ですが…どうかこれだけは言わせて下さいまし。……みおはこの真田の郷に来て…源四郎様と出会えて幸せでした。」
「!!!!!!!!」
「かぁあああああ!何話を勝手に進めとるんじゃ!!源四郎!今一度問う!おぬしにとってみおは何じゃ!!!!」
しびれを切らした昌幸が源四郎を一喝する。
だがその口角は上がっている…まるでこの後源四郎が何と言うか分かっているかのように。
「…スゥ~。」
深呼吸をする源四郎。
そして昌幸を見つめ渾身の声量で叫ぶ!!!
「みおは俺の嫁御になる女じゃあ!その命狙うものあらば父上と言えど!いや!!織田の殿様だろうと!!ぶっ殺してやらああああああああああ!」
「「「「「「「「!!!!!!!!」」」」」」」」
「げん…しろ……さま?」かぁああああ
「…」
その場にいる者のほとんどが源次郎の一世一代の啖呵に驚嘆する。
だが昌幸は源四郎を見据えて黙り、みおは真っ赤になって固まっている。
そうして静寂がその場を支配してしばらく後…
「………………はっはっはっはっは!聞いたか皆の衆!」
「言いましたね父上!遂に!!あっはっはっはっは!」
「へ?」
堰をきったように大爆笑する昌幸と源次郎。
何がなんだか分からず拍子抜けする源四郎。
そこへ…
「げんしろおおおおおおおお!」ガバッ
「んな!?兄者!?!?」
茂誠が抱きついてくる。
「よぉ言うた!よぉ言うたあああああ!あ゛〜〜〜!みおは果報者じゃああああ!」
「ちょ!兄者!!鼻水が!?」
号泣しながら抱きつくもんだから茂誠の鼻水が付きそうになり振りほどこうとする源四郎。
「流石源四郎!あなたもやはり殿の子ですね!」
「よくぞ言いました源四郎!松はあなたのような弟を持てて鼻高々ですよ!!」
「立派ですよ源四郎。惚れた女を守れずして何が武士でありましょう」
「母上、姉上、ばっちゃま…」
女性陣を含め上へ下への大騒ぎ。
ただ一人、源三郎を除いて。
「源四郎…」ズイッ
茂誠を押しのけて源四郎の前へ来る源三郎。
「はい?兄上…」
ペシッ
「ってぇ!」
すると普段から考えるとかなり優しく源四郎の額をはたく源三郎。
「まったく…阿呆かお前は?何が織田の殿様だろうとぶっ殺すじゃ。本気か?」
「…兄上。」
「あ?」
「あの言葉に嘘偽りはございません…この源四郎…み お の 為 な ら ば 喜 ん で 織 田 と も 差 し 違 え ま し ょ う」
「!!!!!」
覚悟ガンギマリの眼で源三郎を見返す。
その気迫に押される源三郎。
「はぁ〜〜〜〜〜…あい分かった。お主が嫁に狂うとるのはようわかった。」
「あ、兄上、嫁だなんてそんな…」
「そうじゃろうて!一丁前に照れるなこの童が!!」
ゴツンッ
「で!?」
拳骨が源四郎の頭に刺さる。
「あ〜、腹は痛いわ頭も痛いわ…嫡男としてこんな跳ねっ返りの手綱を握らねばならんとは」
「たははは…」
「源四郎…この場を借りて頼む。頼むから今後は何かデカいことをする時は儂らに告げろよ?肝が冷えてかなわん」
「はい、分かりました」
「ホントじゃろうな?」
「あ〜〜〜…いつまでやっとるんじゃ源三郎」
昌幸が源三郎を諌める。
「はっ、申し訳ありませぬ父上」
「まったくめでたい場で堅苦しい…源四郎!」
「はい!父上!!」
「…此度はお主が普段から口を開けば「みお!みお!!」と言うくせに煮え切らん故の芝居よ」
「…はい?」
「それと室賀との件は心配いたすな。今ごろお主の作った【焙烙玉】使って昌相が上手くやっておる」
「………はぃいいいいいいい?」
――同刻、室賀の郷、室賀屋敷――
バン!
バン!
バン!
【焙烙玉:朱(雲母無し版)】が爆ぜる。
「な!何じゃあ!?」
「て、敵襲か!?」
室賀家中の者たちが上へ下への大騒ぎ。
そこへ…
シュ!ビーーーーーーンッ!
矢文が飛ぶ。
「な!?」
それを発見する室賀の郷長、正武。
「何…【此度の件、殊に武田へ漏らし候わば、其方の郷、一村残らずこの焙烙玉にて粉塵に打ち砕くものなり。ゆめゆめ疎かに思うべからず。不一。】!?」
「殿!?これは真田からの!?えぇい!一刻の猶予もありませぬ!すぐに真田の郷へ攻め込みましょうぞ!」
「馬鹿者!本当に奴らがこの郷を消し飛ばせる程の【焙烙玉】を持っとったらどうする!?奴等ならばやりかねん!!皆の者!戦支度はやめじゃあ!」
正武の号令で蜘蛛の子を散らすように散る家臣たち。
それを遠くから見つめるものがあった。
昌幸の盟友、出浦昌相その人である。
「首尾は上々よな…しかし源四郎め、いったいどこから【火薬】を…」
――再び真田屋敷――
「い、出浦様が動いておられるのですか!?」
「当たり前よ。しっかしおぬしの作った【焙烙玉】、なかなかいい脅しの道具になるのぉ♪」
「脅しって…ん!?【焙烙玉】は全て繁蔵が管理してくれているはずでは!?!?」
「吐かせたに決まってるであろう?」
「てことは父上…」
「あぁ、浮気の件でお主に脅されたことも吐かせた。そして委細ふみに伝えた。」
「…」スッ
無言のまま合掌する源四郎。
あぁ繁蔵、お前の尊い犠牲忘れまじ。
「…一応生きておるぞ?」
源四郎の胸中を察し昌幸が言う。
「あ〜、なかなかにしぶとい!」
「言うとる場合か…さて皆の衆!」
昌幸が家中の者に声をかける。
「この昌幸の末子、源四郎の一世一代の啖呵郷中に響き渡ったであろう。さすれば…このまま郷を挙げての【仮祝言】の宴というのはどうじゃ?」
「「「「「「是非もなし!」」」」」」
「あいや待たれぃ!」
宴と聞いてノリノリになりだす家中の皆を制止する源四郎。
「なんじゃい源四郎、やぶからぼうに」
「まだみおの返事を聞いておりませぬ!」
「!!」
真っ赤になって今のいままで固まっていたみお、ここで我に返る。
「これは珍妙なことを言うな源四郎。この戦国の世に女の返事などと」
そう、現代の価値観からしてみれば当たり前のプロポーズの返答。
戦国の世にあっては女性は政治の道具。
意思などあってないようなものである。
が、そこでおとりが口を開く。
「…それでこそ源四郎。そなたはそういう子だとばっちゃまは信じていましたよ。」
「ばっちゃま…」
「しかしばば様…」
「お黙りなさい。あとは当人同士が決めること。さぁ源四郎」
「はい」
スススッ
みおのそばへ歩み寄り座る源四郎。
「みお」
「…ッ!ひ、ひゃい」
流石のみおも緊張のあまり声が裏返る。
「俺はさっき啖呵きった通りみおを嫁にしたい!」
「…」
「みおのことがこの世で一番すきだ!」
「…はい」
「だけど俺の気持ちだけ言っててもだめだと思うから…」
「…源四郎様」
言いかけたところでみおが制する。
「ではみおの気持ちを聞いて下さいませ」
「おう」
「みおは…源四郎様をお慕い申しております。この世の誰よりも」
「!」
「「「「「「「おぉおお!」」」」」」」
「(うっせ!黙れお前ら!!!)」
「ですが…」
「?」
「みおの為ならば織田と差し違える…これはダメです」ツゥー
みおの目から一筋、涙が流れる。
「!みお…」
「みおを一人にしないで下さいまし…これがみおからの唯一のお願いです………殿」
ニッコリ笑うみお。
「殿…ってことは!?」
「はい…此度の嫁入り、謹んでお受け致します。何時久しく宜しくお願い致します。」
三つ指をついて頭を下げるみお。
「〜〜〜〜〜ッ!みぃおおおおおおおおおお!」ダッ
「きゃ♡」
顔を上げたみおに思わず抱きつく源四郎。
「これこれお主ら、早い。早い。」
「「あっ!」」バッ
昌幸に諭され我に返って離れる二人。
「さて…ばば様!薫!松!馳走の支度じゃあ!源四郎の好きな【治部煮】、作ってやれ!」
「「「分かっとります!!」」」
「源三郎!源次郎!茂誠!佐助!弥五郎!」
「「「「「はっ!」」」」」
「郷中に今宵は宴じゃから郷の広場に酒持って集まれとふれまわれ!」
「「「「「承知!」」」」」
「(つーかいたんか弥五郎!?)」
「(遂にやりましたね源四郎様♪では!)」パチリ
弥五郎と目配せをする源四郎、そしてそれに応え佐助ともども屋敷を後にする弥五郎。
「おい源四郎、何をしておる!寝間着では仕方ないぞ?着替えて参れ!」
「あっ、はい…」
そうこうするうちに宴の準備は進むのであった。
――数刻後、真田の郷広場――
郷中の民たちが集まりやいのやいのしている。
「遂に源四郎様、腹を括られたのぉ!」
「そうじゃそうじゃ!」
「みおちゃんと仲睦まじくしてたから余計に見てるこっちはもうやきもきして!」
「そうそう!」
郷の旦那衆、おかみさん方が口々に言う。
やっぱり二人とも傍から見てもアツアツだったようだ。
そこへ…
「皆の者!今日はよぅ集まってくれた!」
昌幸が源四郎とみおを伴って広場にやって来た。
「わが不肖の息子、源四郎がみおを嫁にしたことは先の此奴の愛の叫びでおおかた想像がつくであろう!」
『うぉおおおおおおおおおおお!』
勝ち鬨のような郷の者たちの歓声。
「(ノリがいいな!?)」
「そしてわざわざ言うまでもなく…みおは源四郎の嫁御となった!!!!!」
『やったああああああああ!』
『うわあああああああああ!』
「(だからノリがいいな!?)」
もはやお祭り騒ぎである。
しかもまだ皆シラフである。
「とまぁ堅苦しい挨拶はここまでにして…まず一献!」
昌幸が杯を空にする。
「さて!皆のもの!!存分にやってくれぃ!!!」
『飲むぞおおおおおおおおおおおおおおお!』
男どもが叫ぶ。
叫ぶったら叫ぶ、結局コイツら飲みたいだけである。
「お前らよぉ!」
「まぁまぁ源四郎様、私たちも大人になれば分かりますよ」
「お、おう」
みおに諭される源四郎。
「あぁ源四郎様、さっそくみおちゃんに窘められてるぅ〜」
「みお様、でしょ?」
「ふふっ♪いいんですよ皆さん。今まで通りみおちゃん、で♫」
「源四郎様、さっそくかかぁ天下かぁ?」
「尻にしかれてんなぁ」
「うっせぇテメーら!」
源四郎とみおの元に水杯を飲み交わしにくる子供たち。(流石に子供に酒飲ます訳にもいかないので)
そして早速の新郎イジりである。
コイツら敬ってんのかそうでないのか…
「「「皆の者!【治部煮】が出来ましたよぉ!」」」
そんな折…松、薫、おとりが大鍋に入った【治部煮】を持ってくる。
「きたきたぁ!」
「待ってましたぁ♫」
「真田印の【治部煮】だぁ♪」
つまみもなくカラ酒を煽っていた男どもが沸き立つ。
この呑兵衛どもめ。
「これこれアンタ!」
「まずみお様が源四郎様に取り分けてからだよ!」
「がっつくんじゃないよ!」
「「「「「「はーい」」」」」」シュン
おかみさん方に窘められ静かになる男共。
この郷、かかぁ天下率高めである。
「ありがとう、郷のかかぁたち…さぁみお?」
「はい、ばば様」
「【真田の嫁】としての初仕事、頼めますか?」
「…はい!」
みおがそそくさと小皿に見栄え良く源四郎の分の【治部煮】をよそう。
「お待たせしました、源四郎様♪」
「ありがとうみお!頂きます!…うん!美味い!!!」パクリ
「ふふっ♫あ、源四郎様。お口が。」フキフキ
「んぁ♫ありがとう♪」
「お熱いのぉお二方!」
「こりゃいい夫婦になるぞぉ!」
「「「あんた達!茶化すんじゃないよ!!」」」
「「「へーい」」」
旦那衆が茶化し、おかみさん方が諌める。
かかぁ天下ここに極まれり。
それを少し離れた場所から遠巻きに見る源次郎。
「………」
「…何一人で黄昏ておる源次郎。ほれ。」
【治部煮】を持って源三郎が来る。
「ありがとうございます兄上…」
そう言いつつ郷の年長者へ挨拶がてら酒を酌み交わしていたところから帰った昌幸、すでにへべれけになった茂誠に絡まれ「二人とも酒臭いですよ!?」と狼狽える源四郎へ再び目線をやる。
そして…
「兄上。」
「ん?」
「あいつは…源四郎は…どこから来たんでしょうか?」
「…何を訳のわからんことを。あやつが産まれた日を忘れたか?」
「いえ。ただ、あいつがやることをみていると…遊び一つとっても十年、いや百年は先の世から来た気がしてならんのです」
「…何を馬鹿な。ではなにか?あやつは本当に化生の類とでも言うつもりか?」
「いやいや!何もそこまでは…」
「ふっ…」
そこまで言ってほくそ笑む源三郎。
「だったらあやつが何者であろうとよいではないか。あやつは…突拍子もない事をすることがあれど我らの可愛い弟じゃ。」
「!珍しいですね、兄上があいつのことをそんな風に言うとは」
「柄にもないことを言うておるのは分かっとるわ…じゃがな源次郎……俺は父上に啖呵きったあやつの眼、そしてみおの為ならば織田と差し違えると言ったあやつの眼に曇りを見なかった。それだけであやつは真田の子、俺たちの弟だと確信した。それで良かろう?だからこそ今後はこれまで以上にあやつの手綱をしっかり引かねばならんし、あやつの為に【剣】にも【盾】にもなる覚悟が出来た…お主はどうじゃ?」
「!!!」
源三郎に問われハタと気づく源次郎。
「(そうか…あいつが化生の生まれ変わりかどうかなど関係ない…!あいつは私の可愛い弟、真田源四郎なのだ……!)」
「…源次郎?」
「なんでもありません兄上…私もあいつの【剣】、そして【盾】となり兄として、先に生まれた者としてその背中をあいつに見せてやりましょう。」
「うむ、その意気じゃ。とまぁ堅い話はここまでじゃ。さ…我が家自慢の【治部煮】、頂こうではないか」
「はい!」
兄二人がそんな話をしている他方、源四郎はと言うと…
「聞いとるかぁげんしろぉ〜…ヒック」
「茂誠…おぬしそれ何回目じゃ??」
「あにじゃ〜…」
茂誠(出来上がっている)の猛烈なる絡み酒に昌幸ともども捕まっていた。
茂誠、めんどくさい奴。
「どうします父上?このままでは朝まで…(ボソッ)」
「いやぁ此奴がここまでの絡み酒とは…この喜兵衛も気づかなんだ(ボソボソッ)」
「二人ともぉ、聞いてますかぁ〜?」
「「アー、キイテルキイテル」」
「兄上!そろそろお身体に障りますよ!?」
「茂誠様!いい加減になされてはどうです!」
しまいにはみお、松に諌められる茂誠。
そこへ…
「…御免。」スコンッ
「ファッ…」
ものの見事に茂誠の顎を刈り…昌相が現れる。
無論茂誠は見事のびている。
「あ〜!出浦さま!!お手を煩わせて…茂誠様はこちらで運んでおきます故…」ズリズリ
「源四郎様、みおも兄上を寝かしつけに行っても?」
「おう。あの調子ではいらん心配とは思うが…俺も出浦様と話したいことがある故少し外してくれるか?」
「かしこまりました。では…」
松がいつの間にか集まってきたおかみさん方(+みお)とのびた茂誠を屋敷の方へ引きずっていく。
「やれやれ、この郷はいつ来ても賑やかよな。…源四郎、息才であったか?」
「はい、出浦様」
父の盟友たる昌相とは源四郎も面識があり源四郎は草花の知識(薬学としての)を、昌相はレンジャー技術(この時代でも使えるもの)をそれぞれ教え合う間柄だ。
「して源四郎…祝の席で聞くのも野暮ではあるが…おぬしどこから【火薬】を手に入れた?子供の小遣いで手にはいる物でもあるまい」
「…」ピクッ
傍で聞いていた昌幸の眉が動く。
「それにつきましては出浦様…明日、父上、兄上達と共にある場所にご案内致します故そこで説明させていただければ」
「「…ほぅ?」」
昌相と昌幸が訝しむ。
こうして祝の宴に【火薬の出処】と言う影を落とし真田の夜は更けてゆくのであった。
♪三々九度でぇ〜そっこっの!新郎に〜告ぐ♫
源四郎!みお!おめでとう(´;ω;`)
さて次回で序章は終わる予定!
刮目して待て!!!!




