序章:【修羅か童か。源四郎、信濃の地に誕生すの段】其之七
――時は再び現在、郷境の里山内――
「はっ!真田の郷の子らも根性ないのぉ!」
「そうじゃそうじゃ!あの真田の三男坊は化生かと思うほど強かったがのぉ!それ以外は烏合の衆じゃのぉ!!」
塹壕の縁に腰掛けた室賀の痴れ者が二人笑い合いながら話す。
その様子を既に足音もなく視認出来る距離の藪の中まで近づいた源四郎達は見ていた。
「(敵勢力圏内であのような声量で談笑とはな…阿呆が)」
獲物を見つけた鷹のように眼光するどく痴れ者どもを見据える源四郎。
そして配下に手信号で指示をだす。
※『』内はハンドサインの内容です。
『各組。敵兵二名、確認よいか』スッスッス
『『『確認よし』』』スッ
『各組、風上へ移動。移動後、各々【焙烙玉】を投擲。その後制圧』スッスッスッスッス
『『『了解』』』スッ
息を殺し、足音を立てず藪の中を通り風上に回り込む子供たち。
そして…
「ん?…」
「なんだ?」
バン!
バン!
バン!
藪から塹壕に向け【焙烙玉:朱】が投げ込まれ痴れ者二人の頭上で炸裂する!
「なんだコレ…ゲフゲフッ!…あ゛あ゛あ゛あ゛あ゛!!目が目がぁ!」
「あ゛あ゛あ゛あ゛あ゛!」
【焙烙玉:朱】に含まれる多量の唐辛子粉(行商人から得た唐辛子を源四郎が栽培したもの、たい肥も用いてるので今ではかなりの量が採れる)が目、鼻、喉を焼く。
更にこの【焙烙玉:朱】、実戦用に恐るべき改良がなされていた。
「「痛い!痛い!痛い!」」
さっきの声量とは程遠い、か細い叫びを挙げながら目を擦る痴れ者。
「(目を擦ったら最後よ貴様ら…あ〜あ)」
源四郎が歴戦の軍師さながらの顔でその様子を見る。
その改良とは…源四郎が昌幸伝いに「ちょっと使いようがありまして」と武田家の金山衆に頼み入手していた【雲母】を粉々に砕いたものを混ぜている。
雲母はその粒子が細かくかつ鋭い。
目に入っただけで角膜が傷つく恐れもある、最悪失明ものの危険な代物。
つまり本気で目を潰す仕様ということである。
そしてその効果を確認した各組の強襲担当が木刀を手に襲い掛かる!!!
ドッ!ガスッ!バキッ!
額、鎖骨、鳩尾。
人体の急所に的確な一撃を食らい崩れ去る痴れ者二人。
その後手際よく猿ぐつわを噛ませ荒縄で拘束する。
『制圧完了』スッ
『了解。』スッ
『敵兵、放置。準備が整い次第、各組前進を再開せよ』スッスッスッス
『了解』スッ
藪から周囲を警戒しつつ出てきた源四郎が事後の指示を手信号で送る。
こんな調子で源四郎の進軍、いや一方的蹂躙は進んで征く。
――最初の塹壕制圧からしばらく後――
「思いのほか時間が掛かったな!」
「ええ兄者!これ源次郎!あまりに先走り過ぎじゃ!!」
「!!!兄者ぁ!兄上ぇ!コレを!!」
茂誠、源三郎、源次郎がやっとの思いで里山に辿り着く。
そして先行した源次郎の目に飛び込んで来たのが…
塹壕の中で小便を漏らし文字通りの血涙を流す室賀の痴れ者二人。
先ほど打ち据えられた時のものか額からも血を流している。
「こっ…これは!?」
「〜ッ!あっの馬鹿ものぉおおおおお!完全にやっていることが【戦】ではないかぁ!!」
驚愕する茂誠、源四郎が行ったであろう所業を目の当たりに激昂する源三郎。
そんな二人を尻目に源次郎は痴れ者共の縄を解き声をかける。
「おい!」
「「ひぃいいいいいい!」」
ジョオオオオ
源次郎から声を掛けられ更に小便を漏らす痴れ者達。
「私は真田の者だがそなたらに危害を加えるつもりはない。して、ここで何があった?」
室賀の者の狼藉が原因とはいえこの場の惨状を鑑み怒りを押し殺し語りかける源次郎。
「「お…【鬼】…いや【天狗】が出たぁ〜〜〜」」
痴れ者二人が口を揃える。
「【鬼】?【天狗】??」
「何らちのあかんことを!」
「ん?源三郎殿、源次郎!これを!!」
そうこうするうちに追いついて話を聞いていた源三郎と茂誠。
そして茂誠がこの惨状を作り上げた物の欠片を発見する。
「これは…やはり焼き物!」
「焼き物!?どれ、兄者ちと…」
「うむ。これじゃげんざぶろ…痛っ!?」
源三郎に焼き物の欠片を渡し、指についた粉を落とそうと指を擦り合わせた茂誠の指の皮が切れる。
「なっ!?」
「兄者!ちとお手を拝借…これはもしや雲母!?」
茂誠の切れた指に残るキラキラと輝く粒子を見てそれが雲母と気付く源次郎。
「雲母…粉……焼き物………!おい!!」
「「ひぃ!?」」
再び痴れ者達に声をかける源次郎。
「おぬしら!目は見えておるか!!!」
「!霞んでおりまするぅ〜!」
「か、片目が…片目が見えませぬぅ〜〜〜〜!」
「「「!!!!!」」」
驚愕する三人。
なぜなら…返答を求めた痴れ者二人の瞼はしっかり開いているのである。
「ますます何をやりおった源四郎!?」
「怪しげな術でも使うたか!?」
「…兄上、兄者!源次郎は世にも恐ろしいことを齢八つにしてやってのけたのです!!」
「な!?」
「何をやったと言うのだ源次郎!?」
「あいつは恐らく…【焙烙玉】を作り上げたのです!!しかも人の目を潰すことが可能な!!!」
「「【焙烙玉】ぁ!?」」
源三郎と茂誠が声を揃える。
「じゃ…じゃが源次郎!それは無理じゃ!主家たる武田の許しなく【火薬】を手に入れるなど!!」
「おぅそうじゃ!!それどころか勝頼公に知られれば謀反の気ありと真田は滅ぼされるぞ!?」
「その恐れはありますが…今は兎にも角にも源四郎を止めねば!このままでは勝頼公に滅ぼされるより先に…室賀様との戦になりかねませんぞ!」
「!そうであったな!!【火薬】の出どころはおいおいあの馬鹿たれめを締め上げて吐かせればよい!…兄者!」
「応っ!それに今はみおも心配じゃ!」
「ええ!…お前たち!!」
「「はぃいいい」」
源次郎に再度声をかけられ情けない声をあげる痴れ者達。
「あとで手当てしてやる故ここでまっておれ!くれぐれもこれ以上目を擦るなよ?」
失明されてもたまったもんではないので釘を刺し先を急ぐ源次郎。
「(急がねば!これ以上は私…いや父上とて庇い立て出来んぞ源四郎!!)」
――里山中腹、広場付近――
源四郎が敢えて逃がした痴れ者が首魁のデブと金魚の糞の前へ這い出る。
その間に源四郎は配下の各組へ手信号で指示を出す。
※『』内はハンドサインの内容
『人質の位置、確認よいか?』スッス
『『『確認よし!』』』スッ
『了解』スッ
『各組、人質裏手へ回れ、その後、別名あるまで潜伏』スッスッスッス
『了解』スッ
各員が音もなく散開し人質の背後に回り込み潜伏する(無論警戒を継続し)
「さて…行くとするか」
ムギュッ
「ギャッ!」
そうして首魁二人の前に這い出ていた痴れ者を踏みつけて出ていく源四郎。
「な!?真田の三男坊!?!?一体どこから!?!?!?」
「…」
「だがな…こっちには人質がおるのを忘れたか!」
金魚の糞、いや面倒だからもう糞でいいや…が言う。
「〜〜〜〜〜ッ!源四郎さまぁあああああ!!」
「!」
人質の中にみおを発見する源四郎。
そしてこの状況下になってはじめての笑顔を見せる。
「みお、心配するな…すぐ終わらせる」
「!」ビクッ!
みおが戦慄する。
恐れていたことが現実になってしまう…
『戦ごっこ』ならばこういうときに源四郎は
「すぐに助けるからな!」
と言うが今は違う。
すぐに「終わらせる」
そう言ったのだ。
「(あぁ…!誰か……誰か源四郎様を止めて!!!)」
みおの願いも虚しく状況は進んでしまう。
「あぁん?」
「貴様わかっておるのか!?有利なのはこちらぞ??」
ズカズカ
デブと糞が源四郎に近づく。
人質の見張りもいないのに。
「阿呆どもが」
そう言いながら藪の中からこちらを見ているハズの配下に手信号を送る。
『全員、人質を確保せよ』スッス
「あん?手遊びとは余裕だなぁ!」
「そうだぞ…ってああ!」
「どうした…ってええ!?」
糞の叫びで人質の方を見ると時すでに遅し。
人質は全員手足の拘束を解かれ各配下の後ろへ回った。
「お、お、おのれええええええええええ!」
糞が丸腰で源次郎に殴りかかる。
「真正面から殴りかかる阿呆があるか」
バキッ
源四郎、渾身の木刀での横薙ぎが炸裂!
糞は吹き飛び泡を吹いている(おそらく頬か顎の骨は砕けたであろう)
そしてそこで不意にみおに目をやり気づく。
みおの左頬が少し赤くなっていることに。
「貴様ら… み お に 手 を あ げ た な ?」
「ひぃいいいいいい!?」
「「「「「「「ひゃぁ!」」」」」」」
「!」
この場にいるみお以外の者、全てが怯える【怒気】を放つ源四郎。
「お、俺じゃねぇ!俺じ…」
「豚が一丁前に人の言葉を話すな」
ブンッ!
バキッ!
源四郎渾身の打ち下ろしが辛くもデブの目の前で外れ、その拍子に木刀が折れる!
「………ふっ!間抜けが!これで貴様も丸ご…」
「一 丁 前 に 人 の 言 葉 を 話 す な と 言 っ た が ?」ブンッ!
ゴスッ!
「ゲフゥゥ!」
源四郎渾身の右フックが炸裂し倒れ込むデブ。
そこに源四郎が馬乗りになる。
「お、俺が悪かった!悪かっ…」
ゴスッ!
無言で拳を叩き込む源四郎。
「なっ!ゆる…」
ゴスッ!
ゴスッ!
ゴスッ!
ゴスッ!
ゴスッ!
ゴスッ!
殴る。殴る。殴る。殴る。
ひたすら殴る。
永遠に止まることがないかのように殴る。
眼前の敵。
【みおを傷つけた仇敵】
それを討ち滅ぼさんと拳を振るう源四郎。
デブの意識はとうになく、その命は風前の灯。
その時だった!
「「「やめんか!げんしろぉおおおおおおおお!!!」」」ガシッ
遂に兄三人が駆けつける。
そしてそのままの勢いで源四郎を抑えつけようとする…
が!!!!!!
「邪 魔 で す」
信じられないことに齢八つの子供たる源四郎が若武者三人を振り払ったのである!!!
「がっ!?こ、此奴!」
「源三郎殿!源次郎、これは!?」
「怒りで【タガ】が外れているのか!?くっ!」
何事もなかったかのようにデブに拳を突き立て続ける源四郎にそれでも源次郎が組み付こうとした瞬間だった!
「源四郎様ぁ!」ダッ
脇からみおが抱きつく。
「……………み…お?」
「みおは!みおは!もう平気でございます!!どうか…どうかお怒りをお鎮め…えっ?」ドシャ
みお共々源四郎が倒れ込む。
なんと源四郎…みおから抱きついてきてくれた嬉しさのあまり昏倒ッッッッッッ!
今回の騒動、あっけない幕切れと相成ったのである。
…源四郎、お前ウブかよ!!!
みおちゃんからのハグ…
嬉しかったんやろなぁ!(●♡∀♡)




