序章:【修羅か童か。源四郎、信濃の地に誕生すの段】其之六
〜繁蔵への依頼から一月半後〜
「あの〜源四郎様?」
「…」
「源四郎様??」
「なんだこの痴れ者?」
「ですからあれは不可抗力だったと申しているでしょう!?」
「うるせぇええええええ!てめぇよくも…みおの裸を!!!」
「ことの始まりはアンタがのぞ…」
「黙りゃあクソだらあ!」
朝っぱらから郷の子供たちの遊び場たる広場の大杉に縛り付けられた弥五郎と源四郎の低脳丸出しな問答。
何故そんな状況になっているのか?
それは前日に起こった悲劇(???)が引き金であった。
その日の夕暮れ、源四郎はみおを探していた。
「みお〜?みぃ〜お〜?」
すると松に呼び止められる源四郎。
「これ源四郎、みおは湯あみをしています。用があるなら待ちなさい。…くれぐれも覗くんじゃありませんよ?」
そう言い残し夕飯の支度へ向かう松。
「は〜い…ほうほうほう♪」
ニヤリと笑う源四郎。
こいつもやはりオス、結局助兵衛である。
そうして家中の者たちに気付かれぬよう湯殿の裏手に回り込む。
「ふっふっふ…この板壁の向こうに…デュフフ」
下卑た笑いを浮かべながら湯殿の壁の僅かな隙間から覗きを試みる馬鹿ガキ。
が…
「源四郎さま〜。そろそろ夕飯ですよ〜」
「げー!弥五郎!あのバカぁ!!(ボソッ)」
源四郎を呼びに弥五郎が湯殿付近に近づいてくる足音が聞こえる(ちなみにこの覗き穴は最近になって源四郎が発見したので他の家中の者は存在を知らない)
そうして見つかる源四郎。
「あ!いたいた!げんしろ…って、うおっ!?」
忍にあらざる所業!
なんと湯殿の軒からしたたり落ちた露で出来たぬかるみに足を取られる弥五郎!!
「でぇえええええええ!?」
「うぉおおおおお!」
ドンガラガッシャーン
かなり勢いよく板壁をぶち破る二人。
それはつまり…
「………………………………………………………………………………………源四郎様?」
いる。
そりゃあ〜いる。
一糸纏わぬ産まれたままの姿のみおが。
「よ、よぉ」
「ええ!?みお様!?!?」
「あ!弥五郎てめぇ目ぇ瞑れよ!?」
「えっ!あっ、ハイ!」
間抜け二匹が慌てふためくが最早後の祭りである。
「〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜ッ!きゃーーーーーーーー!」
天をツン裂くほどのみおの悲鳴。
「なんだなんだ!?」
「今のはみおの!?」
「みお!どうしました!?」
ドタドタと湯殿に家中の者が集まる。
「「「「「「「「「「あっ。」」」」」」」」」」
家中の皆、そして源四郎と弥五郎の目が合う(みおを挟んで)
「みんな出ていって下さいましーーーーーーーーーー!」
みお、再度吠える。
…その後源四郎と弥五郎が正座のうえ、おとり、薫、松から再三の往復ビンタを喰らい、その後更に源三郎に郷入り口の物見櫓に「この者共、馬鹿たれにつきほっておくように」と立て札を立てられたうえ一晩吊るし上げられたのは全くの余談である。
更にさらに…
「…みお?」
「…」
「みぃ〜お?」
「…」
「みぃいいいいいいいいおおおおおおおお!」
「…」
今に至るまで源次郎はみおにそっぽ向かれる始末(当然至極)
で話は戻って…
「俺は優しいからよぉ…打首は勘弁してやる」
「打首になるならアンタもだろ!?」
「うるせえ!おめぇが倒れ込んでこなんだら…」
目くそ鼻くそ、ここに極まれり。
そうこうするうちに郷の子達が集まってくる。
手には【面妖な管がついたお面】と【朱い小瓶】を抱えて。
「んぁ?なんで弥五郎さん、縛り付けられてんの?」
「…聞くな。」
「この不届き者はなこれより刑罰を受けねばならぬのよ…」
「だからアンタもだろ!?」
「だいたい二人ともなんで両頬にもみじ(手形)はっ付けてんの??」
「「聞くな。」」
そうこうするうちに準備を整える子供たち。
火打ち石を使い火種を用意し件のお面を装着する。
「今日は一人二つなぁ?兄上達に気付かれるとまたどやされっから」
「どやされるようなことするんですか!?」
「するっつてんだろボケぇ!さてお前ら、防毒面は着けたが…念のため風上に回れ?」
「「「「「はーい」」」」」
素直に源四郎の言うことをきき【繁蔵御手製防毒面(布や活性炭等で作った所謂ガスマスク)】を装着し風上に回り【繁蔵御手製の焙烙玉(仮)】を手に取る子供たち。
「では…投擲準備ぃ!」
「「「「「投擲準備ぃ」」」」」
サッ
子供たちが復唱し火種となる炭を入れた口火筒(リップクリームの筒を大きくし通気孔を開け火傷防止に細い縄を巻いた鉄筒、これも繁蔵製)を左手、右手に【焙烙玉(仮)】を持ち構える。
「はぁ!?【焙烙玉】!?何考えてんだアンタ!?!?」
「ちなみにこれは殺傷能力無しだがお前…父上に報告でもしたら殺傷能力ありの方使うぞ?」
「目ぇ座ってるぞアンタ!?するわけないでしょ!」
「ならば良し!投擲目標、前方敵へーい!」
「「「「「「投擲目標、前方敵へーい」」」」」」
「前方敵兵って何っ!?」
「投擲は着火の三秒後ぉ〜♫」
「「「「「「投擲は着火の三秒後ぉ」」」」」」
「早いよ!?」
「着火よ〜い」
「「「「「「着火よ〜い」」」」」」
「ねぇ!ねぇ!?」
「着火!二、一、今!」
ポイポイポイポイポイポイ…
バン!
バン!
バン!
バン!
バン!
バン!
「ひぃ〜…ってあれ?大したことない?」
子供たちが投げた【焙烙玉(仮)】が炸裂するも乾いた(控えめな)音を出し空中で散る。
あとには【赤茶色い煙】が漂うのみ。
「なんだなんだげんしろ…ケフッ!?喉が!鼻が…あ゛あ゛あ゛あ゛あ゛!目がぁああああ!」
その赤茶色い煙に巻かれた弥五郎が悶絶しだす!
「っしゃ!成功!炸裂する時間も狂いなし!!やっぱり俺が設計しただけあるな♫あ、あとお前ら目ぇ痛くねぇか???健康状た〜い?」
防毒面越しのくぐもった声で源四郎が子供たちに安否確認をする。
「「「「「「異常なーし」」」」」」
「よし!防毒面もきちんと機能してるな♫って…弥五郎?」
「…」
見ると弥五郎は鼻水と涙を垂れ流しのびていた。
「あ!やべぇやり過ぎた!!お前ら水汲んでこい!」
「「「「「「はーい」」」」」」
こうして源四郎はこの時代における【スモークグレネード(焙烙玉:朱)】を手に入れたのである。
ちなみにこの焙烙玉の中身【火薬】の主材料たる【硝石】をどうやって必要量入手したかのまた後のお話で。
――ややあった後、真田屋敷――
「みぃお〜」
「…」
相変わらず口を聞いてもらえない源四郎。
みおは源四郎をスタスタと置いていってしまう。
「うへぇ…とりつく島もなしかよ。すっげぇヘソの曲げぐ…」
ゴチンッ
「デッ!?」
いきなり背後から拳骨を喰らう源四郎、こういうときはだいたい源三郎だとタカを括り振り向きざまに口を開く。
「いきなりなんでありますか兄う…え?」
意外や意外。
そこには源次郎の姿があった。
「あ、兄様?」
普段源四郎の躾(とお仕置き)は昌幸より留守を預かる源三郎の仕事であり源次郎が手をあげることはほぼなかった(流石に飯の時に源次郎のおかずを横取りする等食べ物絡みのときは今回のように手が出るが)
「源四郎、お前みおにあやまったのか?」
「あ」
ほぼ男所帯、しかも一番上の兄弟は姉、更に末っ子ということもありそこそこ甘やかされて育った源四郎は『喧嘩の後に謝る』と言うことをするのが滅多にない。
男の兄弟同士だといつの間にか口に出さずとも仲直り出来てしまうのである(ちなみに一番それが多いのが源三郎との喧嘩である)
「…はぁ。そんなことであろうと思ったぞ?いいか源四郎?」
「はい」
普段源三郎にこの手の説教を受けると「へーへー分かりましたぁ」くらいの態度を取る(無論更に怒られる)源四郎だがこと源次郎からの説教、いいつけは素直に聞く。
真田の家は(姉婿の茂誠も含め)男の兄が三人であるが、その中でも源次郎を一番慕っているのである。
「みおはお前の兄弟ではないのだぞ?姉上の夫たる茂誠兄者の妹。今はまだ他人だ。他人に対し悪いことをしたのであればお前は直ぐに謝ることが出来るだろう?自分のなかでのみおの位置づけが曖昧になっているが故の甘えだぞ、それは」
「あ。」
源次郎に諭されやっと自分の過ちに気付く源四郎。
「俺…みおにちゃんと謝ってきます」
「結構。だがその前に源四郎…」
クイックイッ
源四郎を手招きし耳打ちをする源次郎。
「実際のところ…お前、みおをどう思っている?」
「兄様、どう…とは?」
「みなまで言わすな源四郎…女として好きかどうか。そう言うことよ」
ズザザザザ
源四郎が一瞬で後ずさる。
「そういう部分をしっかり自分自身、自覚することが今回のような仲たがいを解消する鍵なのでは…と思ってな。で…どうなんだ源四郎?」
トテトテトテ
源次郎からの問に側に近づき耳打ちで答える源四郎(顔は真っ赤だが)
「…見くびらないでくだされ兄様……好きでもない女の裸をのぞくほど、この源四郎阿呆ではありませぬ」
「(いやお前ならやりかねんだろ)」
内心そう思いつつもフッと微笑む源次郎。
「ならば善は急げだな。みおは厨だ、今頃姉上と食事の支度をしておる。急げよ?」
「はい!」
子供らしい元気な返事をし厨へ駆けていく源四郎。
「あぁいうところは聡いと言えどまだ年相応か…」
源四郎を見送る源次郎。
武士の家系なれど、そこには弟想いの優しき兄の姿があった。
「みお!」
厨で夕飯の支度の手伝いをするみおに声をかける源四郎。
無論…
「…」
思いっきりシカトである。
「これ源四郎!外から帰ったら手を洗えと言い出したのはお前でしょう!厨に来る前に手洗いをしてらっしゃい!!」
「まぁまぁ母上…(源次郎が諭したようね、全く…源三郎の言うことはホントに聞かないのに、相手が父上か源次郎だと素直なんだから。あ、あと茂誠様か♪)」
薫と松が夕飯の支度をしながら言う。
さらにおとりも続く。
「おかえり源四郎。今夜はあなたの好物の治部煮ですが…ちと煮込むのに時間がかかります…囲炉裏に掛けておくのでみおと番をなさい。」
「…!わかったよばっちゃま!!」
「…わかりました、ばば様」
そそくさと囲炉裏に向かうおとりとそれにくっつく源四郎とみお。
おとり、ナイスアシスト!!
※ここでちょっと解説。
当時手洗いうがいの習慣はなかったが源四郎の「病は気から…ではなく汚れからだ!みんな、これで手と身体を洗え!」と繁蔵と開発した石鹸(季節のお花の香り)を披露し今や郷+昌幸の盟友出浦昌相が治める出浦領でも広まっている(技術力、むしろ繁蔵の存在を他の大名たちに知られぬようこの二箇所だけの流通に留めている)。
ちなみに人気の香りは秋限定の【金木犀の香り】と通年出回る【竹炭の香り】(←見た目真っ黒)
特に竹炭の香りは男たちから「女房から臭いって言われなくなった!」とすこぶる好評。
これにより郷の風邪や肺炎は激減、新生児の死亡率も低下、そして繁蔵ボロ儲けとウインウインである。
鴨についても源次郎の「肉喰わなきゃ強くなれねぇ!」の号令のもと家畜化を進め今や通年鴨肉を食べれるようになったし、副産物たる羽毛を詰めたどてらや布団のおかげで冬場に寒さで体調を崩す者が減るわ、どてら作りが郷のおかみさん方の副収入になるわ、子供たち(+みおも)は鴨の御世話を任されかわいい鴨と触れ合えてでウインウイン。
最終的に郷にお金が回ってきて昌幸もウインウインなのである。
そして源次郎の好物【治部煮】は本来醤油味だが、当時は醤油は貴重であり郷に醸造設備をつくるのも難しい。
そこで各家庭の味噌の醸造過程で出る【溜まり】で味噌味に仕立て郷近くで採れる【葛】でトロミをつけた【真田式治部煮】をこれまた源四郎が考案。
今や郷を代表する名物である。※
さて話は戻って囲炉裏端。
「…」
「えっとさ…みお…ごめんなさい!!!」
囲炉裏端で源四郎がみおに頭をさげる。
さながら浮気がバレて女房に必死に謝る亭主である。
「…ふふっ」
「???」
「顔をあげて下さいませ、源四郎様」
「!!!!!…っ、みぃおおおおおおあおお!」
実に一日ぶりとは言え、みおが再び口をきいてくれただけでこれである。
源四郎、わかり易すぎる。
「源四郎様。みおは覗かれたこと、裸を見られたことを怒ったのではありません」
「うんうん!」
ブンブンと勢いよく頷く源四郎。お前は犬か。
「みおは源四郎様が『悪いことをしたら素直に謝れる』、そういう殿方であって欲しいのです。」
「!!!そうだな…そうだよな、本当にごめん」
「もういいのです。それに…」
「?」
「そうでなくとも…私の裸なんてまた見せることになるのですから♡」
「………へ?…………はぃぃいいいい!?み、みおさん!?!?!?それってどういう…」
「「「(あらあらあらあらあらあらあら!)」」」
源四郎が慌てふためき、厨側の戸板を隔て聞き耳を立てていた松、薫、おとりがニヤニヤしだす。
この耳年増どもめ。
が!!!!!!!!!!
「ふぅ〜…帰ったぞぉ。おぉ?なんだ源四郎、みお??仲直りしたのか。そして…おぉ今晩は治部煮か。」
「「「(おいいいいいいいいいいいいいいいいいいいいいいいいいいいいいいいいいいいいいいい!源!三!ろおおおおおおおおおおおおおおおおおおおお!!!)」」」
物見の務めから帰ってきた源三郎が別口から囲炉裏端へ入ってくる。
図らずとも今日一番のおじゃま虫!女性陣三人、噴飯モノである。
「……………」
「あ、おかえりなさいませ源三郎様。あ!丁度よかった、みおは食事の支度へ戻りますので源四郎様と治部煮、見てて下さい。焦がしちゃ駄目ですよっ♫」
「あい分かった、任されよう。ついでに此奴がつまみ食いせぬよう見張っておく故安心せい」
「え、あ、ちょ…」
「ではおまかせしますね。それでは源四郎様、また後で♫」
「「「(あ!やべっ!!!!!)」」」
少し小悪魔的笑みを残し厨への戸口を空け戻るみお。
そして鉢合わせぬようすんでのところで散る女性陣。
「うむ。さて…げんし…」
「……………………さて、じゃねぇぞこのクソだらぁああああああああ!空気読めやクソ長けぇえええええええええええええええええええええ!!!!!」
源四郎…大・噴・火!!!!!!!!!!!
「な!?クソって!お前誰にクチき…ぐぇっ!?」
流れるような動きで足払い、から前へ倒れ突っ伏した源三郎の背中(腰骨辺り)に跨がり源三郎の顎を両手で引く源四郎。所謂…
「キャメルクラッチじゃああああああ!しぃねええええええええバカ兄上えええええええええええ!!」
「きゃめ?ってぇえええええ!いてててててて!やめぬかげんし…いてええええええええええ!」
「あ!止めなきゃ!!」
「おやめなさい源四郎!食事前にホコリが立ちます!!」
「はぁ〜〜〜〜〜〜〜…源三郎、お前は本当に間が悪い。」
「ふふふ♡(きゃ!言っちゃった♡)」
三者三様の女性陣(+みお)
そんなこんなで真田の家の日々は過ぎていく。
かくして源四郎は【焙烙玉:朱】(戦国版スモークグレネード)と言う強力な【手札】と…
【みおの操】(?)と言う値千金、国宝級の【お宝】を手に入れるのであった。
だが…そのうちの【焙烙玉:朱】をすぐに使うことになるとはこのときの源四郎は思ってもいなかった…
源四郎、みお…
お前らヒューヒュー!だっぞ(ꈍᴗꈍ)
そして源三郎…
おめぇ空気読まんかい(#^ω^)ビキビキ
さて次話から室賀の痴れ者との『実戦』に話が戻ります!
刮目して待て!!!




