序章:【修羅か童か。源四郎、信濃の地に誕生すの段】其之五
――その頃、郷境の里山前――
「「おい!源次郎!源次郎!!」」
「…」
源三郎の呼び声も何処へやら、源四郎とみおのいる里山へ急ぐ源次郎。
「(聞けばあいつ…郷の窯元、繁蔵と結託し怪しげな焼き物を造っていると言う話。杞憂であれば良いが…いやない!そういうときのあいつは絶対に何かやっている!!)」
ある種、源次郎からの絶対的信頼(?)を得ている源四郎であった…
さて!ここでその源四郎のやらかしを時を遡り見ていこう!!
〜遡ること二月前、真田の郷窯元〜
「ちぃーーーっす!繁蔵いるぅ??」
「これはこれは源四郎様、朝から元気がよろしいようで」
窯元の主、茂蔵が朝っぱらから駆け込んできた源四郎を出迎える。
ここは窯元と言っても実質【何でも屋】。
皿一枚に始まり果ては刀まで作れる凄腕職人たる繁蔵の言わば【工房】である。
「おう、おはよう!でさでさ繁蔵!!さっそくだけど作ってほしいものがあんのよ♫それも沢山♪はい!これ図面!!」
「…何やらまた企んでおりますな。どれどれ…ほうほう、源四郎様はやはり絵もお上手で」
「あたりまえだろ?俺に才覚がないのは唄くらいのもんだぜ!」
「あー確かに!小唄なんぞ聴けたもんでは…」
「なんか言ったかテメェ?」
「ナンデモアリマセン。さて…ふむふむ。『表面に亀の甲のような凹凸を付けた球状の壺』。大きさはひとまず女の握り拳大、薄手に焼いて朱の釉薬、紐を通せる突起と斜めに『細めの綱』が入るように…って!源四郎様もしやこれは!?」
「タブンキノセイダトオモウヨォ」
プイッと横を向き嘯く源四郎。
「源四郎様!」
最早この図面通りに焼いたらどんな焼き物が出来るか気づいた繁蔵がその顔を覗き込む。
「これは焼き物、いや!モノ作りの心得があれば誰でも分かります!!【焙烙玉】でしょうが!!!」
【焙烙玉】。
有り体に言えば【手榴弾】である。
「昌幸様の許しなく火薬を扱うなど!如何に源四郎様なれど打首は免れませぬぞ!…無論私も!!」
「…父上がそんな度量もなき男と言うのか繁蔵?」
「ッ!!」
多少の『怒気』をはらみ繁蔵を見る源四郎、所謂『メンチぎり』である。
「凄んでも今回ばかりは駄目なものは駄目です!(いや勘弁してくださいよぉ〜…源四郎様の威圧は子供のそれじゃないんですって)」
内心肝を冷やしながら繁蔵が断る。
「あっ、そう…」
意外や意外。
すんなり引き下がる源四郎。
「分かっていただけましたか!火遊びならばこの繁蔵がいい火打ち石を…」
「話変わるけど繁蔵さぁ…伝兵衛んトコのりんとそこの薪小屋のすみでコソコソやってたなぁ?お前の女房ふみは承知してんのか?」
「いっ!?」
ズザザザザザザザ
繁蔵が一瞬で工房の壁まで後ずさる。
それにニコニコ顔で近づきつつ源四郎が続ける。
「ふみは嫉妬深いよなぁ?この間もお前の浮気が原因でお前の家半壊しかけるほどの大立ち回りしたよなぁ?」
「………」
ゴクリッ
源四郎から目を反らしながら生唾を飲む繁蔵。
源四郎はなおも続ける。
「そうかそうか…お前は女房にいじめられるのがよほど好きとみえる」
…お分かり頂けただろうか?
【脅し】である。
もう一度言おう…
【脅し】である。
「おおおおおおおおおおおおおお…おど!脅しでありますか源四郎様!そ、そんな武士の風上にも置けぬような…」
「あ゛?こういうの常々父上もやってるって聞くぞ?なんだ繁蔵?今度は言うに事欠いて…父上を愚弄するか??」
あの父(真田安房守こと昌幸)にしてこの子(源四郎)ありとでも言うべきか…
流石真田の三男、源四郎。
【武田に真田あり】と謳われた【表裏比興の者】、父昌幸に比肩する二段構えである。
「そ…そんなつもりは」
「なぁに気にするな。俺の要求…呑んでくれれば今回の一連のお前の所業、俺が墓の中まで持っていこう」
「!?ですが…」
「何度も言わすな繁蔵。父上は郷に害なすものは決して許さんが郷の為とならば…勝手に動いたことを叱りこそすれ、打首などあり得ぬよ」
「あ、あなた様は…」
「ん?」
「あなた様はお父上、安房守さまをも御するおつもりか!?」
「…」
暫しの静寂。
そののち、源四郎が口を開く。
「くどい」
「!!」
「我が父、安房守すら御せずしてこの戦国を生き残れようか?俺はただひたすらに…この郷を!民を!真田の家を…そして!」
「?そして??」
「みおを守りたいだけよ!!」
「…へ?」
「…………あ。」
再びの沈黙。
そして…
「…だっはっはっはっは!源四郎様ぁ!結局それですか!あーはらいてぇ!!いやー、源四郎様も隅に置けませんなぁ!!!」
「わわわわわ…笑うな繁蔵!」
繁蔵の笑い声が工房に響く。
すると…
「なんだいアンタ!朝から騒々しい!!」
「げー!ふみ!?」
繁蔵の女房、ふみが顔を出す。
普段から茂蔵の手綱をとる肝っ玉かかぁだが先述の通り嫉妬深く、暴れ出すと手がつけられず郷の者も「下手したら天下に名高い三河の本多(無論本多平八郎忠勝のこと)以上」と評される女傑である。
「おう!ふみ、おはよう♫」
先ほどまでのやりとりはどこへやら、何事もなかったかのように元気に挨拶する源四郎。
この小僧、流石である。
「あらあら、これは源四郎様。おはようございます。朝っぱらからうちのバカ亭主にご用で?」
「ばっ!?バカ亭主たぁ…」
「なんか言ったかい?」
「ナンデモアリマセン」
「まぁまぁふみ!ここからは真田の家としての頼みを繁蔵と話さねばならん。少し外してくれるか?」
「かしこまりました源四郎様、うちのバカタレでよければどうぞよしなに」
「おま!バカタレって!?」
「何か言ったかい?いちいちうるさいよ、この鈴虫!」
「スズムシミタイナノウミソデスミマセン」
「では源次郎様、どうぞごゆっくり」
「うむ!」
そういうと洗い物にでもいくのだろうか、桶に入った洗濯物を抱え郷を流れる水路に向かうふみ。
「相変わらずのかかぁ天下だな繁蔵?」
「そう言われますな源四郎様。さて…みお様を想う源四郎様に応えねばこの漢繁蔵、名折れでございます。此度の依頼、しかと承りましょう!」
「!!!やってくれるか繁蔵!!!」
「はい!この繁蔵…ともすれば源次郎様の為…打首も覚悟致しました!!」
「おぉ!」
「して、手始めにいかほど作りましょうか??」
「三百!しかも二月ほどのうちにな!!」
カチーン
薄手の小さい壺を三百。
しかも一人で。
一瞬で固まる繁蔵。
だが商魂逞しく商売人として一番重要な部分を源四郎に問う。
「で…源次郎様」
「ん???」
「お代はいつ…」
「ん〜〜〜〜〜〜〜…ツケ♫」
「…やっぱアンタ鬼子じゃああああああああああああ!」
郷にこだまする繁蔵の悲痛な叫び。
しかしながらこれもまた真田の郷の日常。
郷の者は気にもとめず日々の仕事に精を出すのであった。
哀れなり繁蔵(´・ω・`)
少しだけ過去話、続きます。




