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序章:【修羅か童か。源四郎、信濃の地に誕生すの段】其之四

「………遅い。いや遅すぎる、何やってんだあいつら?」

先の組み分けより一刻、陣構築完了時に吹けと言ってあった犬笛が聞こえず源四郎はやや苛立っていた。

「おかしいですよね源四郎様、普段源四郎様に付き合って『タコツボ』と『塹壕』掘りしてるあいつらなら陣の設営なんてお手の物なのに…まぁ、実際はイヤイヤだけど(ボソッ)」

「…なんか言ったか弥五郎?(ギロッ)」

「ナンデモアリマセーン」

弥五郎と呼ばれた少年が答える。

この弥五郎、真田家に仕える忍『佐助』がどこぞより拾って来た子であり今ではすっかり源四郎の()()()である。

また忍の業に加え源四郎から(この時代でも使える)『レンジャー技能』を叩き込まれた正に腹心でもあった。

今話している『タコツボ』、『塹壕』と言うのは陸上自衛隊の基礎の基礎、つまり有り体に言えば『穴掘り』のことである。

※一人で掘る歩哨(見張り)用の人一人入れる穴が『タコツボ』、『タコツボ』を隣の『タコツボ』と繋げた所謂『溝』が『塹壕』である。

「…まぁ確かに、あの辺りは普段から掘って埋めてを繰り返した言わば『堀り山』。サクサク掘れるハズ…」

「!!源四郎様!アレを!!!」

弥五郎が源四郎の言葉を遮り防衛組が分け入って行った里山を指差す。

すると這々の体で十七〜十八人の子供たちがべそをかき、子によっては擦り傷をこしらえ鼻血を垂らして出てきた。

「は!?お前ら何やってんだ!?仲間割れ…」

「「「「「「源四郎さまぁ〜!室賀の…室賀のガキどもがぁ〜!」」」」」」

ピクッ

『室賀』その言葉に源四郎の眉が上がる。

「室賀ぁ?あのパープリンども、また性懲りもなく………おい待てお前ら」

ここで源次郎は気付く。

()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()

「み お は ど う し た ?」

「「「「「「ひぃ!?」」」」」」

静かに、そして確かな『怒気』をはらんで源四郎が問う。

その言葉の端に、父母や兄弟…祖父母に叱られる時すら感じた事のない『恐ろしさ』に子供たちは身悶える。

「源四郎様!今は此奴らに凄んでいる場合ではありませぬ!!!!」

「!!!」

弥五郎にたしなめられハタと我に返る。

「み…みおちゃんは……みおちゃんは拐かされちゃった〜〜〜〜〜!」

一人の子が泣き喚きながらそういうと堰を切ったように泣きはらす子供たち。

だが…

「ふっ…気をつけぃ!!!!」

ビクッ

源四郎の怒声に子供たちが皆静まり返る。

()()()()()()姿()()(気をつけ)()()()

「………俺としたことが取り乱したな、すまぬ皆のもの。みおが絡むとどうしても平静を保つことが出来ん、赦せよ?」

「(なんと堂に入った号令だろうか…これが齢八つの子か!?)」

生年の分からない弥五郎はこの集まりの中では(恐らく)最年長であろう、その弥五郎が『戦慄』するほどの号令を源四郎はかけた。

そして…

「弥五郎」

「はっ!」

「お前は急ぎ屋敷に戻りことの次第を兄上、兄様、兄者に伝えよ、余計な心配をかけたくない故姉上、母上、()()()には気付かれるなよ?」

「!!!ははっ!」

シュタッ

言うなり踵を返し屋敷に走る弥五郎。

そして直ぐに弥五郎は察した。

「(口ではかようにおっしゃられておるが………源四郎様は…源四郎様は()()()()()()()()()()()()()()()()!急がねば!!)」

源四郎が『普段言わない言葉』や『使わない言い回し』をする時…これは即ち「本気で怒った時」なのである。

――同刻、真田屋敷――

「源次郎、お前今後の武田についてどう思う?」

「?どうとは??」

白湯をすすりながら源三郎と源次郎が問答を交わす。

父昌幸の留守を預かる源三郎が源次郎に意見を求めること自体珍しくはあるが。

「先の長篠、あぁもこてんぱんに織田にやられて武田家内部でも様々な声が挙がっていると父上も申されていたであろう?武田の結束にヒビが入らぬか…それがしは心配なのよ」

「それこそいらぬ心配であらせましょうぞ兄上?父上がおられる限り御館様のもと武田の結束は揺るぎませぬ」

「だと良いのじゃが…」

「安房守殿だけではござらぬぞ源三郎殿、源次郎。武田には我が小山田家ならびに穴山殿もおりますれば」

「「兄者」」

二人の会話に茂誠も割って入る。

「時に今日は源四郎とみおがまだ帰りませぬな?」

「あー、あ奴の心配はするだけ無駄!あの跳ねっ返りめが「明日は人が集まりそう故また想定戦でもやってきまする♪兄上はあとから行司でもしに来てくだされ♫」と昨晩から申しておったわ…人を戦遊びの行事扱いとは真田の嫡男をなんと心得る!?」

「「まぁまぁ」」

ごっこ遊びの行司扱いをされ一人憤慨する源三郎をなだめる二人。

そこへ…

「申し上げます!」

シュタッ

弥五郎が駆けつける。

「どうした弥五郎、源四郎がまた拾い食いでもして腹を下したか?」

「兄上、源四郎に限ってそれは…」

「みお様が室賀のガキ共に拐かされました!現に源四郎様が手勢たる郷の子供たちを率いて奪還に向かっておられます!!」

「「「何だと!?」」」

三人が三人口を揃える。

「あ奴はみおの事となると見境がなくなる!勢い余って室賀のガキ共を…」

「兄上!そう思われるのでしたらすぐに向かわねば!!兄者!!」

「くっ!室賀のガキどもめ!この間源四郎にノされたのをまだ根に持っておったか!その上みおまで拐かすとは…」

「ですから兄者!ここは我らが落ち着かずに如何なさいます!?今一番懸念すべきは源四郎です!!」

「!そうであった!!あ奴の気性を考えれば源三郎殿の言う事が現実になりかねん!急ぎ参ろう!!」

「「はい!」」

源三郎と源次郎が声を揃える。

「(源四郎…早まるな、早まるなよ!!)」

――同刻、郷境の里山付近――

「気をつけぃ!」

源四郎の号令が飛ぶ。

みお(と取り残された子どもたち)奪還の準備を整えた郷の子どもたち総勢十二名が二列横隊で並ぶ。

基本教練を含め普段からよく源四郎の指揮の下(子供たちの間での)通称『超戦ごっこ(と言う名の自衛隊式新隊員教育)』に喰らいついてくる精鋭だ(ちなみに他の子供たちは『戦ごっこ』ではなく『超戦ごっこ』と聞くとその子供がやるにはあまりもキツイ内容、苛烈さ故に裸足で逃げ出す)

「各員、装備の点検は済んでいるか?」

「はっ!『(つぶて)』、『木刀』、『荒縄』、『口火筒(小さい火種を入れた鉄製の筒に細い縄を巻いたもの、源四郎考案)』、そして『閃光式焙烙玉』、各員必要数揃っております!」

前列最右翼の子が報告をする。

「よろしい…敵の総数は十六…二十四はいた我が方が追いやれるのはちと口惜しいが今はそれを言っても始まらん。敵のおおよその位置は把握しているな?」

「はい!把握済みです!敵は我らの構築した塹壕、タコツボを占拠していると見られます!」

「タコツボ、及び塹壕の総数は八…間違いないな?」

「は!間違いありません!!」

「よろしい。では各員、これより状況を開始する。最終目標はみおの奪還、および敵の無力化とこれの拘束。警戒を厳とし各組ごと前進せよ。なおこれ以降は【静粛管制】を敷き事後の意思疎通は手信号(ハンドサイン)を用いるものとする。以上事後の行動にかかれ」

※これ以降『』内をハンドサインのやり取り内容とします。

了解スッ

『事後の行動にかかります!(スッスッス)』

タタタッ

前列最右翼の子供が横隊に並んだ子供たちの前に踊りでる(無論見事な基本教練を以て)

『事後の行動にかかれ、分かれ(スッス、スッ)』

『分かれます(スッ)』

見事なハンドサイン、及び敬礼をする子どもたち。

あっという間に三組(うち一組は源四郎の直接指揮下)に分かれ前進の準備を整える。

「(みお…安心して待て。今我らが敵に鉄槌を下してやる)」

心のうちでそう言う源四郎。

恐ろしくも齢八才ながらこの時既に…後にその勇名を日ノ本に轟かす【真田特務隊】の原型を作り上げていたことをこのとき当の本人は知らなかった。

今源四郎の胸にあるのは【みおの奪還】、【敵の()()】なのである。

――同刻、郷境の里山内――

「はっはっは!いやぁ笑いがとまらんなぁ!」

「そうだなぁ〜!奴ら蜘蛛の子を散らすように退散しよって!それに…」

今回の一件の首魁とみられる体格のいい(有り体に言えばデブ)痴れ者(ガキ)とその金魚の糞じみた痴れ者(ガキ)が里山の広場に陣取りその隅に目をやる。

無論そこには…

「…」

みお(そして取り残された子供たち)が座っている、()()()()()()()()()()()()()()

「可愛げのない娘だがいい人質になるだろう?なぁ??」

「そうだな!…おい!!」

金魚の糞がつかつかとみおに迫る。

「少しはしおらしくしたらど…」

プッ

「!」

「「「「「みおちゃん!?」」」」」

みおが勢いよく唾を金魚の糞に飛ばす。

郷の子ども達はその行いにただただ驚くばかり。

「…私を小山田が娘と知っての狼藉ですか?ならば悪いことは言いません、兄茂誠の耳に入らぬうちに去りなさい」

毅然とした、だが言葉の端に凛とした【気高さ】を以て金魚の糞に問うみお。

だが…

「このっ!」

パンッ!

金魚の糞の平手がみおの左頬に入る。

「「「「「みおちゃん!」」」」」

「……」

みおは気丈にも声一つ挙げず金魚の糞を見据える。

それも怒りの眼差しではなく哀れみの目で。

「なんだぁ?その目は…」

「それに…」

「「?」」

首魁と金魚の糞が訝しむ。

「私の兄以上に【怒らせてはならない方】が恐らく私を取り戻すべく向かっています。逃げるなら今のうちですよ?」

一瞬の静寂がその場を包む。

が…

「はっはっは!これは面白いことをいう!どうせ【真田の三男坊】の事よな?先日は遅れをとったが今日は既にお前という人質がおる!あ奴とてお前がいたのではどうしようも出来まい!!」

首魁のデブが豪放に笑う。

みおは黙ってそれを聞く、そして郷の子供たちも。

「(源四郎様、みおは泣きませぬ。みおは源四郎様を信じておりまする…)」

「(ですから…どうか……どうか………()()()()()()()()()()()()()()()()()()())!」

みおは胸の内でそう願った。

みおには分かっていたのである。

源四郎が心の底に抱える【家族を想うが故の苛烈さ】を。

その時であった。

バンッ

やや乾いた【音】が里山に響く?

「なっ!?なんだ!?雷か!?!?」

「ち…近いぞ!?」

デブと金魚の糞が狼狽える。

そうこうしていると…

「あ゛っ…あ゛あ゛あ゛あ゛!!!」

目から絶え間なく涙を流し、額を割られ血を流しながら前が見えているかも怪しい他の痴れ者(ガキ)が斜面を這い上がって来た!

「「なぁああああああ!?」」

デブと金魚の糞が口を揃え情けない声をあげる。

「…!」

みおは察した。

()()()()()()()()()()()()()()

さてさてさて…

始まりました源四郎の(戦国における)初の実戦!

兄源次郎、そしてみおが懸念するような事態は起きてしまうのでしょうか!?Σ(・∀・;)

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