其之三
―先の「肥桶話」から幾月か過ぎたある日―
「肥桶話って言うな!肥桶話って!!」
「???…源四郎様?」
「はっ!?いや、何でもないぞ♪みお」
今日も源四郎はみおを伴って郷の子供たちと遊んでいた。
みおも常々源四郎について遊ぶうちに随分と郷の子供たちとも打ち解けていた。
「(仲良きことは良きことかな、うんうん)」
「何一人しみじみしてんだ源四郎様?」
「そうだよ、今日は沢山集まったんだから早く何して遊ぶか決めようよぉ」
「だぁあ!せっかちだなオメーら!こんだけ集まったんだ…今日は『想定戦』やるに決まってるだろ?」
「「「「「えー!『戦ごっこ』ぉ!?」」」」」
郷中から集まったであろう子どもたちがガックシと肩を落とす。
『想定戦』。
子ども達がいうように言ってしまえば『戦ごっこ』である。
普段は西軍、東軍に分かれて合戦の如く木の枝や木刀でチャンバラをやる(無論、だいたい源四郎指揮下の軍が勝つ。現代戦術を知っている源四郎がいるのだから当たり前だが)
しかし郷の子ども達にはすこぶる不評だ、何故ならば…
「だって源四郎様のやり方…ちょっと卑怯なんだもん」
「そうだよ、人が名乗り挙げてりゃ「死にたいんか阿呆が」って遠慮なく打ち込んでくるし」
「そうそう!あと反転して逃げたか…と思ったら丘の向こう側に溝っつーか落とし穴っつーかを掘ってて皆そこに落ちたと思ったら上から泥玉落としてくるし!」
「あぁん!?常々言ってんだろおめーら!『戦は最後に残った奴がものを言う』って!尾張の織田がそうだろうが!!」
「「「「「しー!」」」」」
「何言っちゃってんのさ源四郎様!(ボソッ)」
「一昨年、長篠って所で武田の御殿様が織田にやられたばっかりなの知らないの!?それで大人たち今でもピリピリしてるんだよ!(ボソボソッ)」
「あれは勝頼公がもうちょっと待ってりゃ良かったんだよ、あの後雨降ったんだろ?種子島なんざ雨が降って口薬に着火出来なきゃ使えねぇんだから!…とにもかくにも『想定戦』やるってんだ、今から想定状況説明すんぞぉ」
「えー?」
「有無を言わせねぇのかよ!」
「いつも源四郎様側しか勝たないからつまんなーい」
子どもらが口を揃える。
普段なら先にも書いた通り『源四郎側が勝利』がお約束だ。
だが今回源四郎が提示した想定はいつもとは一風変わったものだった。
「まぁまぁ聞けって皆。今日の想定は『奪還戦』だ」
「「「「「『奪還戦んん〜???』」」」」」
「そう!奪われた陣地、人員を奪い返すって勇ましき漢の戦いよ♫」
「すげー面白そう!」
「なんか普段と違う!やってみたい♪」
「源四郎様は当然奪い返す側だろ?おいらそっちぃ!」
「あ!ズルいぞお前ぇ!」
子どもたちもいつもとは違う『想定戦』と聞いた瞬間俄然やる気を出し始める。
「まぁまぁまぁ!お前ら落ち着け?さて…みお!」
「はい?」
「お前は今日は敵方に囚われの人質役だ、良いな?」
「はい、源四郎様がおっしゃるなら。でも…」
「でも、なんだ?」
「必ず、みおを救い出して下さいまし。源四郎様なら容易いとみおは信じております」
「…!!応よ!!任しとけってんだ!!!みおはおとなしくまってりゃいいのよ♫」
「「「「「(ははーん)」」」」」
子どもたちがニヤニヤしながら皆顔を見合わせる。
「まーたみおちゃんの前でええかっこしたいんだ(ボソッ)」
「わっかり易いよな源四郎様って(ボソボソッ)」
「この間、お昼の握り飯食べてる時にも「源四郎様、頬にお米がついておいでです(パクッ)」ってみおちゃんにやられてて顔真っ赤にして「お、おう。すまんなみお」なんてやってたもんなぁ(ボソボソボソッ)」
「源四郎様が元服したらすぐ夫婦だろうなぁ(ボソボソボソボソッ)」
そんな感じで源四郎とみおの仲の良さは最早郷中で周知の事実であった。
家にいても…
「みお、洗濯か?重かろう、俺が持とう」
「いえ!源四郎様のお手を煩わせる訳には…」
「いや気にするな?これも腕の鍛錬のうちよ!」
などとやっており、松にとりに薫は「「「(源四郎はもう良き嫁御を見つけてきて…ほんに果報者じゃ)」」」
と三人とも二人の仲の良さに太鼓判を押し、源三郎に至っては「源四郎…お前の歳で『お手付き』は早いぞ?」などと言う始末である(無論源四郎が「何言ってんだ助兵衛兄上!」と口走ってまたしても源三郎を怒らせたのは言うまでもない。そしてそれを尻目に源次郎、茂誠は「「助兵衛はなかろう源四郎!」」と腹を抱えて大爆笑していたが…ていうか助けろよ。)
「…なーにボソボソ言ってんだお前ら?ほら、とっとと別れろ?防衛側…人質取ってる側はそーだな?今日は三十人くらい集まってるからうち二十四人でいいや。さっ、早くみお連れて山ん中入って陣構築しろぉ」
「「「「「………はぁああああ!?」」」」」
子どもらがまたしても口を揃える。
「いや余裕こき過ぎでしょ源四郎様!?」
「てことはこっち、攻め込む側は源四郎様入れて七人!?」
「しかも敵が陣構築して待ち構えてる場に!?犬死しに行くの!?」
「あ゛ん?…俺の指揮の下動いて負けたことがあるかオメーら??馬鹿言ってねぇで作戦会議だ、こっち来い」
「「「「「「はーい」」」」」」
自身の手勢となる六人を手招きし作戦会議に入る源四郎。
…これより一刻の後、早くも後の【信濃の修羅】の片鱗を見せることになるとは源四郎自身、この時は知る由もなかった。
※このあと少々血なまぐさい描写が入りますので閲覧注意。




