其之一
――翌朝――
――内城門前――
「で?源四郎様??」
「あん?」
「何で私だけ小県に先に帰らされるんですか?」
「…昨日から言ってんだろ?やって欲しいことがあるって。」
そう、話は昨晩の宴の時まで遡る。
――昨日――
――内城、広間――
ワイワイ
島津四兄弟に又七郎、家中の者達がやいのやいのやっている中…
「おう、弥五郎食いもんが美味くて最高だな♫」ドカッ
「そうですねぇ源四郎様ぁ♪」
弥五郎の隣に来た源四郎が声をかける。
「これからこんな美味いモノが毎日のように喰えるなんて楽しみですね!」
「あ〜…それなんだがなぁ……」
歯切れの悪そうな物言いをしだす源四郎。
「?どーしたんですか??まさか!自分たちの食い扶持は自分達でどうにかしろと!?」
「いや!それはねぇよ!!」
「じゃあ何なんですか源四郎様??」
なおも歯切れの悪い物言いを続ける源四郎に詰め寄る弥五郎。
観念した源四郎が続ける。
「………わりぃな弥五郎。お前先に小県へ帰れ。」
「は?」
――そして現在――
――内城、城門前――
「そもそもそのやって欲しいこととは何なんですか…だいたい島津の皆様の見送りも断って。」
「………人に聞かれては少々まずい【命】を下すからよ。」
「!!!」
そう言う源四郎の纏う空気が一瞬で変わる。
いつもの【人懐っこい若人】から…まるで【戦場を知り尽くした古強者のそれ】へ。
「(ホントにこの人は!なんで齢十の若君がこんな空気出すかなぁ!?)…なれば源四郎様、その【命】とは?」ザッ
内心感心半分、呆れ半分しながら立膝をつき【拝命】の態勢へ入る弥五郎。
「よろしい。では弥五郎…郷の俺の寝所に【目録】を書き置いてある。」
「【目録】…ですか?」
「あぁ…【レンジャーを育てる為】のな。」
「!!!!!!」
「察しがついたか?ともなれば後は言わずとも分かるな?」
「はい!この弥五郎…源四郎様がお戻りになるまで…出来るだけ多くの【練者】を育てまする!!」
「大変な鍛錬を郷の者に課す事になろう。佐助…いや、最悪出浦様の手勢の手も借りるといい、喜んで貸してくれようぞ。」
「は!」
「1年で【二十】育てばよい…それほど苛烈極まる鍛錬を課せ!!!」
「承知!!!」
「ならば行け弥五郎!!!」
「はっ!しからばこれにて……源次郎様、ご武運を!!」ザッ
信濃へ向かうべく源四郎へ一礼しその場を去る弥五郎。
「ご武運…ねぇ。ま、上手くやりますよっと。」
――数刻後――
――薩摩領、谷山――
「うっほぉ♫硝煙の匂いがプンプンすっぞ♬」
「がはははは!そうじゃろ源四郎!!これぞ薩摩、島津が戦の要よ!!!」
「ほんにのぉ!なんかこう…不思議と昂るものがある匂いじゃのぉ!」
「分かるぜ又七郎!【炎の匂い染み付いてむせる】ってな!」
「…またなんぞ訳の分からんことを言いよるな源四郎ぉ。
」
弥五郎、その後に家久を見送り(又七郎は予定通り本家預かりに)又七郎共々義弘に連れられやって来たのは内城より南、谷山。
ここは南北朝の世に島津が谷山氏を討ち滅ぼして以来、刀工集団波平衆が拠点となり更に種子島伝来以降は【火薬技術の最先端の地】と化していた。
「硝煙の匂いに混じって鍛冶屋の槌の音も聞こえるな!なんつーか【匠】の街って感じだな!!」
「その通りよ源四郎♫なんならいずれはお主もここで刀を打ってもらうとよかっど♬」
お膝元が【匠】の街と評されたのが嬉しいのか上機嫌になる義弘。
そこへ又七郎が続くが…
「おいもここで刀ば打ってもらうかのぉ〜…」
「おん?又七郎、おはんは【打刀】じゃのぉて【太刀】じゃっど?」
「いっ!?叔父御殿、【太刀】は扱いが難しゅうござりますれば…」
【打刀】ではなくより大型かつ扱いの難しい【太刀】を使えとの義弘からのお達しに少し尻込みする又七郎。
そこへ源四郎が言う。
「あっ、でーじでーじ♫明日から俺と一緒に毎日【空挺体操】と手首の鍛錬と走り込みと【柔軟】やってりゃ【太刀】なんて軽く扱えるようになるって!」
「くうて…何じゃそいは?そいに【柔軟】??」
「身体を強く柔らかくする鍛錬よ♫風呂上がりに毎度やんの!」
「あ?風呂上がりに動き回ったらまた汗かくじゃろうて。」
「そこまで激しい動きはしねぇよ。」
「はっはっは!なんぞ面白い鍛錬を知っておるようじゃの源四郎!よか、又七郎の鍛錬ばおはんに任せっど!!」
「はい♫まぁ又七郎…楽しくやろうぜぇ?」ニヤリ
とんでもない悪い笑顔をして又七郎を見る源四郎。
かつて格闘錬成隊時代に後輩たちに【地獄のシゴキ】を課した血が騒ぐのであろう、又七郎をしごく気満々である(そのシゴキのおかげで師団主催の格闘競技会では自身含め優秀な成績を納めたのも事実ではあるが。)
「な、なんかよぉ分からんが…お手柔らかに頼むど源四郎ぉ?」
「うんうん、わーってるって♫」
「ほれおはんら、もう着くど!ここが島津ば【硝石蔵】ぞ!!」
――硝石蔵内――
「おぉ…」
「中々薄暗かじゃ。」
「当たり前よ、下手に灯りなど使って引火などしようものならここら一帯吹き飛ぶんじゃからの。」
ゴリゴリ、シャリシャリと茶臼や薬研の擦れる音が静かに響く硝石蔵。
荒くれ者の多い薩摩のこと、ある程度の喧騒を想像していた源四郎はその静けさに目を丸くし又七郎は薄暗さに気取られる。
そんな二人に目をやりつつ義弘がある男を呼ぶ。
「おぅ!権左ぁ!!権左はおらんとかぁ!!!」
「ん?…おぉこれは義弘公!久しいですなぁ。」グッ
権左と呼ばれた職人風の男が顔を拭いながらやってくる。
流石木炭の粉を扱うだけあり顔だけでなく全身煤けて黒くなっていたが。
「うむ、息災であったとか?」
「はいお陰様で!…時に義弘公、そこな童どもは??」
「おぅ!こいはおいが甥御、又七郎!」
「家久が子、又七郎じゃ。」
「おぉ!家久公の!!おはつにお目にかかりまするな!手前この硝石蔵の一切を取り仕切る権左と申しまする、以後お見知りおきを。」
「うむ。」
「して…そちらの童は?」
「お初にお目にかかる権左殿、それがしは信州信濃は小県が国衆、真田喜兵衛が三男源四郎と申しまする。」
「はぁ〜…信濃………聞いたことない国衆じゃな。」
ズルッ
「(あっれぇ〜、義久公達は【武田に真田あり】って言って父上の事知ってたのになぁ…やっぱり【上田合戦】辺りを経ないと父上の勇名は天下に轟かないのかな???)」
昌幸の知名度がこと現場レベルともなるとまだまだ低い事に呆気に取られる源四郎。
そんな源四郎を尻目に、義弘が続ける。
「でな権左、こやつらをここに連れて来たるは…こやつらを修行も兼ねてここで【丁稚】扱いで使って欲しいのよ。」
「「あ〜やっぱり。」」
力仕事もあるであろう硝石蔵、ある程度筋トレも兼ねてそういうことをやらされるだろうと感づいていた二人が口を揃える。
「は!?信濃の小僧はともかく、家久公の若君も!?」
「(そらそういう反応よなぁ…)」
どこの馬の骨とも分からぬ自身の扱いはともかく、分家筋とは言え大名家たる島津の嫡男な又七郎まで【丁稚】扱いで使って欲しいと言われれば驚くのも無理はないと権左を見ながら思う源四郎。
「なぁに、こやつらも剣の修行や身体の鍛錬もある故朝から晩までとはいかぬ。が、どのように使うかはおはんに任せるでの♫」
「わかり申した義弘公…ですが又七郎様はともかく、この信濃の小僧に【秘伝の調合】ば教えるのは…」
「それはおはんの胸三寸ば任せる。こん童、源四郎にその価値ばなかば叩き出せばよか。」ニヤリ
「!(かぁ〜これ見よがしに目配せしやがって!…『お前の価値を示してみせぃ!』ってかぁ義弘公!)」
義弘がニヤリと笑い源四郎に目配せをする。
そしてその表情から義弘の腹の中を読む源四郎。
「…分かり申した義弘公。なれば若!それと源四郎!!明日からはおいが面倒ば見るじゃで早う来い!!」
鼻息荒く権左が言う。
「「分かったぜ権左!(殿)」」
「蔵長と呼ばんかぁ!」
こうして源四郎(と又七郎)の丁稚奉公、もとい【修行】が始まった!
――明朝、日の出前――
――谷山より半里、鉄砲衆宿舎前――
「で…でぇ源四郎ぉ!?(ハァハァ)」
「んだよ又七郎ぉ?(ハァハァ)」
「この飛んだり跳ねたりは何じゃあ!?」
「あ?これが【空挺体操】よ!!!」
朝ぼらけの中二人が息を切らせながら跳躍する。
空挺体操。
自衛隊唯一の落下傘降下部隊【第一空挺団】。
【狂ってる団】とも揶揄される彼らが教育隊時代にやる体力向上、及び筋トレを目的とした物凄く運動強度の高い体操、それが空挺体操である。
「こ、こんなんやって意味があるがか!?(ハァハァ)」
「つべこべ言わずやれ!ほら次【エビ反り】用意!」
「い、いち…にぃ(はぁはぁ)」
「準備姿勢がちがぁう!その場に腕立て伏せの姿勢を取れぇ!」
「いぃぃ!?」
「唸ってねぇでとっととしろぉ!俺もキツイんだよぉ!」
「いっち!にぃ!」
この空挺体操、各動作に移る前に【準備姿勢】と言うのを取るのだが…
その姿勢を間違えるとこのように【反省】と称して追加で【腕立て伏せ(orかがみ跳躍、有り体に言えばジャンピングスクワット)】をするのである…【連帯責任】で全員で。
つまり又七郎が間違えると源四郎もやる羽目になる。
「おらぁ行くぞ!今回は…二十回だぁあ!イッチ!」
「い、イィチ!」
「声が小さぇぞぉ!」
「「「「「うるさいわお前らぁあ!」」」」」
朝っぱらからの筋トレ、しかも大声をだして。
眠ってる人間からすればたまったもんではない。
こうして二人揃って鉄砲衆の皆に怒られるのであった。
――朝餉後――
――硝石蔵――
「若ぁ!木炭一俵運んでくだせぇ!!」
「お、おぅ…」
「おい信濃の小僧ぉ!それ運んだら炭焼きの火ぃ見とけ!!」
「へ、へ〜い…」
朝の【空挺体操】が終わると朝飯を掻っ込み硝石蔵へ。
そこからは【丁稚】としての仕事が待っている。
「(そりゃ最初から火薬の調合なんて見せてくれないだろうさ…ま!いい筋トレとかになるからいいか。)」
火薬の材料たる木炭の運搬、及びその木炭を作るべく火を焚べているかまどの番、蔵の整理や掃除、火の始末と丁稚の仕事は多岐にわたる。
そして肝心の【火薬調合】は…
「早々やすやす見せる理由なかろが!【三日、三月、三年】てのを知らぬか!」
と蔵長に怒られ見れずじまい。
「げんしろぉ…あ、足ば攣りそうじゃあ。」
「気合入れろや又七郎ぉ!」
――昼餉後――
――硝石蔵併設の湯殿――
「ふぃ〜♫湯殿ば近くにあるち言うのはええのぉ♬」
「は?何くつろいでんだ??風呂出たら【柔軟】だぞ??」
「だからなんじゃその柔軟ち言うのは!?」
「やりゃ分かるよ♫」
かかる後…
「いててててててて!?げんしろぉ!もう少しそろりとやれんのかぁ!?」
「やってんだろそろり…となぁ!」ギチギチ
「いでででででで!こいな事ばしてほんに【筋】ばやわこうなってケガばしにくくなるちかぁ!?!?」
「なるってんだろぉがぁああ」ギチギチ
「いでええええええ!?」
「…若と信濃の小僧は何ばしよっとか?」
「さぁ?」
権左や他の鉄砲衆が訝しむのも何のその。
柔軟に勤しむ二人であった。
――夕餉前――
――内城城下――
「げ、げんしろぉ…。」
「んだようっせぇな!夕餉に間に合わなくなるぞ!?」
「じゃ、じゃあなんで三里(約12キロ)ある内城まで走ってきたんがじゃあ!?」
「鍛錬♫」ニコリ
「なんなんじゃこいつ…」
――夕餉後――
――鉄砲衆宿舎前――
「てりゃあ!」カン
「だぁああ!」カン
夕餉を掻き込みしばらくすれば今度は剣術の稽古。
二人は激しく打ち合う。
「しっかし源四郎ぉ!」カン
「んだよ!」カン
「おはん【素手】ならば…なかなかばってん【剣】の腕はからっきしじゃの……そりゃ!」カン
「ッ!」カラン
そう言われつつ放たれた又七郎の一閃に木刀を弾き飛ばされる源四郎。
「ってめぇ…人が気にしてること言うなよぉ。」ザッ
「ははは!相手ば【揺さぶる】のも兵法じゃ!そうじゃろ?」
木刀を拾いつつ言い合う二人。
確かに源四郎は前世において【徒手格闘】は師団競技会で優秀な成績を納めるも、そこは自衛官。
警察官と違い【剣道】は教育隊などでも必修科目ではない為心得などない。
まして自衛隊のメインウェポンは【小銃】である。
郷においても兄三人に後れをとることは度々あった。
だが…
「はん!言ってろ!!今にいい師匠がやって来らぁ!」
「あん?アテでもあるちうか??」
「教えねーよ♫」
「あん!?」
そう、源四郎は知っているのである。
来年、天正九年に【剣聖】丸目蔵人佐が【タイ捨流】を広めに来るのを。
「(けどそれは来年の【閏七月】以降…果たして一年ちょっとでどこまで)…。」
「そりゃ♫」コツン
「でっ!?」
物思いにふける源四郎を又七郎が小突く。
「…てめぇ又七郎おおおおおお!」
「はん!稽古中にボケっとしよるおはんが悪かっ!」
「言ったなコラあああああああ!」
「「「「「うるせーぞテメェら!とっとと寝ろぉ!」」」」」
こうして二人の修行の日々は過ぎていくのであったが…
そんな、修行開始から幾日か過ぎたある日。
――内城城下――
「さぁて…修行始めて初めての【丁稚仕事】の休みだ!何する又七郎ぉ?」
「そう言われてものぉ…」
修行の途中報告も兼ね内城を訪れ、その後義久への報告を済ませた二人は城下へ繰り出していた。
「薩摩は湯が湧いてるとこ多いんだろ?だったら浸かりにでも行くか?」
「おはん年寄りみたいなこと言うのぉ〜。」
「ばーか!こういう時に疲れ取る事しねぇといきなり膝や足首に腰痛めたりすんだよ♫」
「そんなもんかの、ならいっちょ行って………」ピタッ
突然足を止め立ち止まる又七郎。
「あん?どーした又七郎??」
「源四郎………あれば見ろ!!!」
「あ?…………ってあいつは!!!」
又七郎が指さす先、飯屋の軒先に忘れたくても忘れられない男がいた!!!!
「ふぅ〜喰うた喰うた♪薩摩は美味いモノが多くていいもんだのぉ♫」
「「た・か・は・し・む・ね・と・らぁあああああ!!」」
そう!二人をボコボコにノシた若武者、高橋統虎こと弥七郎その人である。
「あんちくしょー!大友の手の者の癖しくさりおっとに堂々と内城ば城下彷徨きおって!!叩きのめしちゃる!!」ダッ
「…まぁ待て又七郎。」グッ
「ぐぇ!?」
そう言いながら弥七郎へ向け走り出そうとする又七郎の首根っこを引っ掴む源四郎。
「げほげほげほ!…なんばしよっとか源四郎!」
「正面きって殴りかかっても勝てるわけねぇの分かんねぇか?」
「ぐぬぬぬ…じゃあおはん何か【策】があるとか!?」
「あ?佐土原の城で言ったろ?【奇襲】だ【奇襲】。」
「じゃからその【奇襲】とやらをどうやるんじゃと聞いとっと!」
「………とりあえず今は泳がせる。」
「あぁん!?」
――しばし後――
――谷山への街道――
「いやぁ薩摩は飯は美味いしおなごはめんこいのが多いしいいところだの♫…少し気がつよいのがたまにキズじゃが♪」
「「(けっ!浮かれやがって!!)」」
草むらに身を伏せながら弥七郎を尾行する二人。
そんな二人を尻目に弥七郎はルンルンで先を行く。
そして道行くおなごに声をかけられることかけられること。
弥七郎は所謂【美形】なのか見ていると結構綺麗めなお姉さん方からも声をかけられていた。
「ふん!いくら見目麗しい姉さん方に声かけられても…俺のみおの方が百万倍可愛いってんだ!!(ボソッ)」
「おぅ源四郎…今それをいうと負け惜しみにしか聞こえんど?みお殿にゃ悪いが(ボソッ)」
「うるせぇ馬鹿!はっ倒すぞ!!(ボソッ)」
「………………♫」
やがて弥七郎は奇しくも谷山の鉄砲衆の宿舎の半里(約二キロ)手前、街道から少し外れた古寺へ入って行く。
「おう又七郎、ここ人が住めるとこあんのか?ボロっちぃけど??」
「おん?確か結構な歳の和尚がおったの、この間見かけたど。」
「ほーん…とりあえず入って野郎がどこにいるか探ってみっか。」ザッ
「おぅ。」ザッ
そう言って山門をくぐったその時だった!
「……………………バレバレじゃ阿呆どもが。」バコン!ゴツン!
「だっ!?」
「でっ!?」
山門の脇、藪から回り込んだ弥七郎の拳骨が二人の頭に降る。
「はっはっは!しばらくじゃのお主ら♫息災じゃったか源四郎!そして島津の若君よ!!」
豪放に笑う弥七郎。
それに対し二人は………
「…………っくそがぁああ!やってくれたなぁ!!」ダッ
「…………なぁらぁ!舐めやがってこんダボぉ!!」ダッ
奇襲話はどこへやら。
完全に頭に血が上り正面きって向かってゆく。
「はぁ〜………懲りんガキ共じゃ。」スッ
前と同じく適度な脱力をし身構える弥七郎。
そしてしばし後………
「「…………。」」チーン
やっぱりボコボコにされる二人。
「全く…学ばぬ童共じゃ。」パンパン
着物のホコリを払いながら弥七郎が言う。
「ち、ちくしょー…。」
「なんち…なんちデタラメな強さじゃ。」
地に伏しながら呻く二人。
そこへ弥七郎が続ける。
「ははは。まぁ先の石崎川でコテンパンにノシたと言うにまた向かってくるその性根…この弥七郎、気に入ったぞ♫」
「んん?」
「あぁ?」
訝しむ二人をよそに更に弥七郎は続ける。
「そういう訳で…俺はここの奥の庵で寝起きしておる。なればこの首…取れるものなら取ってみせよ。」
「「!!!!!」」
【殺気】を滾らせ弥七郎が言う。
それは【絶対の自信】から来るものであろうか。
「(ま、この位言えばこ奴らも懲りるじゃろうて)。」
とは言え当の弥七郎、実は腹の底ではこの【小さな襲来者共】を諦めさせる為のひと言であったが…
これがいけなかった。
そう…
この一言が馬鹿ガキ二匹の闘志に火をつけてしまう!!!!!
「「言ったなテメェ!!!!!!」」
「な!?」
「よっしゃ!ともなりゃ又七郎、とっとと帰って【夜襲】の準備だ!!」ザッ
「おうよ!あ、それと高橋の!!おいの名は又七郎じゃ!!覚えとくんじゃの!!」ザッ
「又七郎ぉ!負け惜しみにしか聞こえねぇから早く来いってんだ!!」
「あぁん!?なんばいうとっとか源四郎ぉ!おはん喧嘩売っとんのか!?」
「さっきテメェも同じこと俺に言ったろうが!」
「はぁ!?そいはおはんが…」
「あんだてめ…」
やいのやいの言いながら古寺をあとにする二人。
それを見送り弥七郎がつぶやく。
「…やれやれ。自分から【夜襲】を仕掛けるなどと。まったく、血が昇ると前後不覚になると言うのか?【表裏比興の者】と評される喜兵衛殿の倅が聞いて呆れる…が面白い。」ザッ
言いながら庵へと向かう弥七郎がさらに呟く。
「この首は安くはないぞ?源四郎、又七郎…なんての♫」
そう言ったその日の夜から…
――古寺内の庵――
「「覚悟しろボケェええええええ!」」
「………本当にその日の夜に来る阿呆があるか…ふぁああ。」シュ
バコ!ボコッ!バキッ!
「ぶはっ!?」
「ぐえっ!?」
半寝ぼけでありながら殺気に逸る二人をいとも簡単に手玉にとる弥七郎。
こうして二人の日課に【弥七郎への夜襲】が加わるのであった。
そうして更に数日たったある夜…
――鉄砲衆宿舎前――
「てててて、あんにゃろー!今日も人のことおもしれーほどコテンパンにしてくれやがって…ってぇ。」ズル
「ほんにのぉ…いてててて。あれで【手加減してる】などと!………ってぇ。」ズル
今日も今日とて弥七郎にコテンパンにされ宿舎へ這々の体で這い戻る二人。
「そんだけあの野郎がいる【武】の高みが遥か高い頂にあるってことだろ?」
「確かにのぉ…って、げ。」
「ん?どーしたまたしち……げ。」
二人の眼前、宿舎の玄関口には権左が。
そそくさとその脇を抜け宿舎に入ろうとするも…
「明日も仕事ば言うに毎晩毎晩どこをほっつき歩いとるとじゃおはんら?」
「…。」ギク!
二人が無言で固まる。
が、続いて権左の口から出た言葉は意外なものだった。
「…がおはんらはもとより武家の子。夜ごと生傷や青痣こしらえてくるとはつまり修行ばしとる証。明日の仕事ば支障なくばそれでかまわんど。」
「「蔵長。」」
「ただし!汗臭かばってん身体ば拭いて寝ろ!!」
「「はーい。」」
そうして二人が井戸端で身体を拭き寝所に戻ると…
「んぁ?なんだこれ??」
「どしたんじゃ源四郎ぉ??」
行灯に火を灯すと机の上には見慣れぬ薬壺が。
「こりゃ…最近打ち身によく効くと評判の軟膏じゃなかっ!」
「はーん…そういうことぉ。」
「ん?なんじゃ源四郎、また一人だけ分かったような顔ばしおってからに。」
「…逆になんで分かんねーかなオメーは!蔵長だよ蔵長!!」
「あん!?なんで蔵長がわざわざこがな薬ば差し入れてくれっと?」
「さてな…まがりなりにも俺らを頭数として見てくれてるのか、それとも少しは認めてくれたのか……いずれにせよさっさと塗って寝ようぜ?ほら、背中出せよ??」
「そういうもんか……いって!おはんもっとやさしゅう塗れんのか!?」
「あん!?多少雑に塗ったってかわりゃしねぇよ!!」
「はん!なればとっとと貸せ!…うりゃ!!」
「ってぇ!?やりやがったなてめぇ!!」
「お返しじゃボケぇ!!」
そんな二人のやりとりを向かいの寝所にて聞く権左。
「やれやれやかましか童どもじゃ…じゃっど島津、そいと真田ば支えてく若武者、これぐらいでなかば務まらんの!かっかっかっか♫」
そしてあくる朝…
――硝石蔵――
「「おはようございます!(おはよーさん!)」」
「おっ?なんじゃ今日はヘロヘロじゃねぇじゃねぇか若、信濃の??」
「なんぞいいことでもあったか??」
鉄砲衆に問われる二人(無論いつも通り【空挺体操】はして来たのだが)
「いえ♫」
「じゃっど…蔵長ばはよ認めてもらおとおいもこやつも気ぃば入れなおしただけじゃ!のぉ源四郎?」
「おぅよ!」
昨晩の権左からの差し入れ(軟膏)を思い出し改めて気合いを入れ直したと話す。
「なれば今日もこき使うから覚悟しろよお二人さん?」
「「おうよ!」」
こうして二人の修行の日々はまだまだ続くのであった。
再び登場!弥七郎!!
そして不器用ながらも二人をひとまず頭数としてカウントし始める蔵長権左。
次回はそんな権左へのちょっとした恩返しを書く予定。
刮目して待て!




