其之四
――佐土原出立より二日――
――大隅街道――
「うひぃ〜…。」
「なんじゃあ弥五郎、これくらいの道行きで音を上げたとか?」
「はぁ〜…相変わらず行軍は苦手ってか?」
街道を征く一行の中、へばる弥五郎に又七郎と源四郎が声をかける。
「い、いや…皆様歩くのが早くて早くて……」
「当たり前じゃ。戰場では速さを尊ぶものじゃっど。」
「ははは!若様の言う通りぞ弥五郎!そもそもお主の主の真田の若君は息一つ上がっとらんぞ?」
「それに真田が主家たる武田家の家訓【風林火山】にも【疾きこと風の如く】とあろうが、ははは。」
「あ〜やだ。この武辺者の集まりめ。」
「うだうだ言うなよ、ほら見ろ!内城見えてきたぞ!!」
そういう一行の眼前に…
【島津本家】、島津四兄弟長兄【島津義久】が居城【内城(鹿児島城)】が見えてくる。
「遂に来たなぁ!」
「小県から本当に長かったですねぇ♫」
「おはんらにとっちゃそうじゃが…はぁ〜。」
「つーか天守ねぇのな又七郎。義久公の意向か?」
「んにゃ違うど。確かに義久叔父は常々【質実剛健】を尊ぶ御仁じゃが…普請したのはわしの爺様よ。ま!それにしたって綺羅びやかな天守など島津にゃ不要じゃ!」
「なるほどなぁ〜…なんにせよ島津家は皆いくさ人ってか。」
「そういうことじゃ。」
「これこれおはんら、そろそろ城ば着くど。話はそこまでにしもうせ。」
「そうですよ二人とも、城に着いたら早々に島津家の皆様方と御目通りなのですから。」
緊張感なく話す二人を家久と弥五郎が諭す。
「「わかりました家久公」」
――かかる後――
――内場内、謁見の間――
「(遂に薩摩は【島津本家】か…さっすがに緊張すんなぁ)」
謁見の間へと通され流石に緊張する源四郎。
何せこれから御目通りを果たすは【戦闘集団島津】を束ねる当主達…【島津四兄弟】なのだから当たり前ではある。
「はぁ…。」
そんな源四郎を尻目にこの期に及んでまだ気乗りしない又七郎。
「あんだよ又七郎?まだ【鬼島津】殿と会いたくねぇの??」
「まぁの。」
「覚悟決めましょうよ又七郎様ぁ?」
源四郎と弥五郎が煮え切らない又七郎を諭す。
「ほんに気楽なもんじゃのぉ、おはんらは…。」
気だるそうに答える又七郎。
そうこうする間に…
「殿の御成にあらせられまする。皆殿、お控えめさよ。」
(恐らく)義久の近習が言う。
そして…
「久しいのぉ又七郎!そして…其奴が真田の小僧か!!」ズカズカ。
まずはズカズカと「これぞ武辺者」な漢が入ってくる。
「お、お久しゅう御座います…義弘叔父。」カチーン。
「「お初にお目にかかりまする。」」
一瞬で硬くなる又七郎。
それを尻目に頭を下げその男…【島津義弘】を迎える源四郎と弥五郎。
島津義弘。
【鬼島津】の名を欲しいままにする島津を代表する武辺者であり島津家の軍略、その全てを取り仕切る剛の者である。
「あにょどん、又七郎が硬くなっておりますれば…久しいの又七郎。そしてお初にお目にかかるな真田の。」
「お久しゅうございます、歳久叔父。」
「「お初にお目にかかりまする。」」
次に現れたるは【島津歳久】。
武辺者揃いの島津にあって知略に長けた知将であり真田家で言えば父昌幸と叔父信尹を足して2で割ったような男である(それでも島津家らしい苛烈な人物でもある)
そして…
「家久、おはんが文にあった【信濃より来たる面白き小僧】とは此奴じゃな?」
「はい、あにょどん。」
「(おぉ、他の兄弟の【濃さ】に負けてない…これが薩摩の盟主!)」
最後に島津家当主【島津義久】が現れる。
戦闘集団島津家を率いる抜群のカリスマを持つ鹿児島の領主たるその威容に源四郎は目をみはる。
「さて…」ドガッ。
上座に【島津四兄弟】が座りいざ御目通りが始まる。
「小僧、面を上げぃ。」
「はっ。」
源四郎が顔を上げ義久を見据える。
「ほほぉ…良き眼じゃ。おいが甥御の又七郎にも引けば取らん…さて、おはんの素性は文にてしっとっが今一度名乗り申せ。」
「はっ!それがしは武田家家臣真田喜兵衛が三男、源四郎にござりまする。そしてこれなるは伴の弥五郎にござりまする。」
「真田家家臣、弥五郎にござりまする。」
義久に言われ源四郎(と弥五郎)がハキハキと答える。
「ふっ。流石【武田に真田あり】と評される喜兵衛殿の倅か、物怖じせず堂に入った名乗りじゃ。」
「ほんにのぉ歳久!家久ぁ、おはんが気に入るのも分かるわい!!はっはっは。」
「ふふっ、左様でござりまするかあにょどん。」
「そうじゃのぉ義弘、歳久、家久。だが…まずは此奴が何用にて遠路はるばるこの薩摩、いや我が島津家ば訪れたか聞かねばの…さすれば源四郎、申してみよ。」
島津四兄弟が源四郎の堂に入った名乗りに感心しつつ源四郎の【目的】を問う。
「は!さすれば…それがしは島津が【兵法】と【火薬の調合の技】を盗みにまいりました!!」
「ちょ!?源四郎様ぁ!すこしは捻りましょうよ!?」
「かぁ〜…そのまま言いよったどコイツ…やはり馬鹿なんかおはん?」
どストレートに技術と兵法を盗みに来たとあっけらかんと言う源四郎に呆れる弥五郎と又七郎。
それに対し四兄弟の反応は…
「「「「…ぷっ。はっはっはっは!!!」」」」
皆大爆笑。
揃いも揃って大爆笑である。
「いやはや恐れ入る!流石は【表裏比興の者】と評される真田喜兵衛殿の倅よ!!」
「がはははは!武辺者で知られる我が家中にもかように大胆不敵な者はおらんど!!家久!おはんほんに面白か男ば連れてきたのぉ!!!」
「ははは!左様ですかあにょどん♫ですがあにょどん達ならきっと気に入ると、この家久確信がありました故♪」ニヤリ
ニヤリと笑い家久が答える。
「(なんだかんだ食えない人だよなぁ家久公…)」
胸中でそんな事を思っていた源四郎にひとしきり笑い終えた当主義久が再び問う。
「ははは………しかしな源四郎、儂らも九州に覇を唱える武門の者。無論………タダで教わりに来たなどと虫のいい事は言わんよな?」ギロリ
「「「…。」」」
瞬間四兄弟の纏う空気が変わる。
九州を統べんとす島津家、その兵どもを束ねるだけありその威容は相当なものだが…
問われた源四郎はあっけらかんと答える。
「無論でござりまする皆様方♫手前にはとっておきの手土産がござりますれば。」
「!!!源四郎様、まさか!?」
ここでこの旅始まって以来の【読み】鋭さを見せる弥五郎。
それを特に気にも留めぬ源四郎。
義久が更に問う。
「とっておきの手土産、とな?」
「はっ。ここ九州が修羅の巷なればこそ輝く手土産でございまする!」
「あ〜!勿体つけるでない源四郎!!してその手土産とは何じゃ♫」
「義弘あにょどん、急かしても仕方がありませぬぞ。」
痺れを切らした義弘が催促し、それを歳久が制する。
「ふふふ、それがしも佐土原ば城でそれとなく聞いとりますが…源四郎よ、そろそろ明かしてくれてもよかでないか???」
そんな兄たちを見て家久が促す。
「は。なれば………お教えしましょう!我が手土産………禁呪【古土法】を!!!!」
「あ〜〜〜!やっぱり!!!!」
「「「「「【古土法】ぉ???」」」」」
ここに来て初めて島津に【古土法】を伝授するのを知り呆気に取られる弥五郎。
そして聞き慣れない【古土法】と言う言葉を訝しむ四兄弟(+又七郎)。
そこから源四郎の【古土法】講座が始まり…
――しばし後――
「ふむぅ…土中のばくていりぁ?なるカビに糞尿を食わせるとそのカビ共が糞として【硝石】を出す、か。」
「【硝石】を糞として出すカビなどがいるとは到底思えませぬな。」
「源四郎ぉ…わしも様々なモノを戦場でみてきょったが…流石ににわかには信じられんのぉ。」
「ぬぅ…わしもあにょどん達と同じじゃ源四郎。この半月ほどお主を見てきた故嘘ば言っとるとは思えんがのぉ…。」
「そうじゃ源四郎!おはんが嘘ば言う奴とは思えんが流石に話が突飛すぎじゃぞ??」
「(まぁそういう反応よなぁ…)ってあんだ又七郎?オメェ突飛って言葉しってんの♫」
「はぐらかすんじゃなかっど!」
案の定、とでも言おうか…バクテリアなんてモノが存在すると認知されていない戦国の世、やはり島津家の面々は源四郎の言うことに懐疑的である。
「ほらぁ源四郎様ぁ、皆様疑ってますよぉ???」
「みなまで言うんじゃねぇよ弥五郎!そこは考えてらぁ。…なれば皆様方、その【古土法】、実践して差し上げましょう。」
弥五郎にみなまで疑いの目を向けられていると言われるも何のその、【デモンストレーション】を行うと言う源四郎。
「はぁあああ!?【種床】もないのにどうするってんですかアンタは!?」
「ばっ!【種床】の話はすんなって!!」
「「「「「【種床】ぉ?」」」」」
「「こっちの話にございまする!」」
突然の源四郎の【デモンストレーション】発言につい真田の郷の【種床】の事を話しそうになる弥五郎を押さえ島津家の面々へ取り繕う源四郎。
「…え〜、コホン。つきましては人手と物が入ります故…又七郎を貸して頂けませぬか家久公?」
「あん?」
「わしは構わぬが…」
「ありがとうございまする♫では皆様…ひとまず厠の近くへ移って頂けまするか?」
「「「「やっぱりか。」」」」
【糞尿】云々と言われていた手前、やはりそうなるかと薄々は気付いていた島津四兄弟であった。
――かかる後――
――内城、厠近く――
「源四郎様ぁ、タライ持って来ましたよぉ。」
「おし弥五郎はその上に木ぃ組めぇ。又七郎ぉ、桶の底抜けたかぁ?」
「分かりました。」
「おう。そったらここに木綿布ばしけばよかとか?」
「あぁ。敷いたらそこに…」
「源四郎ぉ。鶏ば骨焼いた灰仕度出来たど?」
「ありがとうございまする義弘公。なればその木綿布を敷いた桶に…」
「おぅ♪」
「…全く義弘の奴め、嬉々として手伝いおって。」
「「まぁまぁあにょどん。」」
源四郎の指示のもとで弥五郎、又七郎、そして「面白そうじゃ、おいも手伝ったっど♪」と加わった義弘が【デモンストレーション】の準備を整える。
それを「やれやれ」と言った目で見る義久と歳久に家久。
「しかし丁度良かったのぉ源四郎!おいと歳久が昨晩喰った鶏の骨ばあって!【生き物の骨】ばいる言うた時は何に使うか思ったが。」
「えぇ♫これから少し【水】を濾さねばならぬ故。」
「源四郎様ぁ、木ぃ組めましたよぉ。」
「よし。したら弥五郎、もう一枚この【骨灰】の上に木綿布敷いて組んだ所に吊るしてくれ。又七郎は【厠】の汲取口開けてその周りの土掘っておいてくれ。」
「うへぇ、ばっちぃのぉ…」
「ばっちぃとか抜かすな。」
そうしてテキパキと進むデモンストレーションの準備。
「源四郎様ぁ、【骨灰】の上に木綿布敷けました。」
「では義弘公、次はその上に砕いた【竹炭】、その上に更に木綿布を。」
「おぅ!」
「源四郎!土はこんくらいでよかとか?」
「あぁ、桶の半分くらいだな。したらそこに土から指先一節分くらいの【木灰】を被せてヒタヒタになるくらいの水も入れてかき混ぜてくれ。」
「へぇへぇ…うっ!少し臭うとじゃ。」
「さっさとやれ!」
流石に便所周りの土ともなると少し臭うのか顔をしかめる又七郎。
それを諌め急かす源四郎。
「混ざったど源四郎ぉ。」
「したらそれを…タライの上に吊るした穴あき桶に注いでくれ。こぼすなよ?」
「おぅ。」トクトク
タライの上に吊るされた穴あき桶へ木灰を混ぜた泥水を注ぐ又七郎。
「終わったど?」
「したら…待ち。」
「待ちと言えども源四郎、どのくらい待つんじゃ?」
「ん〜…一刻ですかな。」
「「「「「何ぃ!?」」」」」
突然の待ちの発生に驚く島津家の面々。
「そんなに待つものであるか源四郎?」
「はい、義久公。こればかりは…」
「むぅう。」
「なればあにょどん…めしにするちうのは?」
「…そうじゃの、飯ばするか。」
「しからばあにょどん、今朝方カツオ船が入ったと聞き申した故…」
「おぉ、よかよか♫なれば源四郎、又七郎、弥五郎喜べ!初ガツオじゃ、共に食おうぞ!!」
「「「ご相伴にあずかりまする!」」」
義弘から飯の提案、そして歳久から【初ガツオ】の情報がもたらされ是非もなく昼餉は初ガツオとする義久。
その相伴にあずかれるとなりウキウキしだす三人。
やはりこの時代でも初ガツオは人気なのである。
――昼餉後――
「いやぁ美味かったな初ガツオ♪」
「本当ですねぇ♫」
「ほうじゃろほうじゃろ♫薩摩は海の幸も山の幸も美味かぞ♬」
昼餉に出た初ガツオ(一人一尾!)と桜島大根の古漬けを平らげ厠のそばに戻ってきた一行。
「かっかっか!良き食いっぷりだったぞ三人とも。」
「うむ。若武者たるものこうでなくてはな。」
義弘が豪放に笑い義久が続く。
「さて源四郎よ、泥水は首尾よく濾せたかの?」
そんな中歳久が源四郎に問う。
「そうですねぇ〜…おぉ丁度体よく濾せておりますな♫」
吊るしてあった穴開き桶の下、タライに【琥珀色の液体】が溜まっている。
「ほぉ、あの黒か泥水からこんな綺麗な水ばでるとな?」
家久が源四郎の後ろから覗き込みながら言う。
「えぇ家久公、ここまでくればあとほんの少し。では皆様次は厨へ…あ、弥五郎。片付けよろしく♫【澱】は捨てるなよ?竹炭と骨灰とに混ざらんようにな。」
「わかってますよ。」
そう言う弥五郎を残し一行は厨へ…
――内城厨――
「では先ほど濾したりまするこの水を鉄鍋で灰汁を取りつつ煮詰めまする。」
厨につくなり鉄鍋で琥珀色の水を煮詰め出す源四郎。
「源四郎よ、これはまるで【塩】を作っておるじゃな。」
これまでの工程を見てきて察するものがあったのか義久が言う。
「えぇ義久公、硝石を取りだしたりまする工程は確かに塩作りと似ております…生み出されるのは似て非なるものでありまするが。」
手を動かしつつ答える源四郎。
そして…
「おぉ!源四郎!鍋の中の水気が飛びよったらほんに塩のごたるもんが!!」
「はいはい見てりゃ分かるよ又七郎、落ち着けって。」
鍋底にまるで水分を含んだ、いや塩の塊を水で溶いたような【白い粉】が現れだす。
「むぅうう…。」
「ぬぅ…これが硝石、とな?」
歳久と家久が唸りながら事の次第を見る。
「なぁに歳久、家久!これで終わりという訳ではなかろうよ!なぁ源四郎?」
「はい義弘公♫では皆様方、最後に…」
――内城謁見の間――
「で…最後は火鉢か。」
「口動かさねぇでとっとと火ぃ起こせよ又七郎ぉ。」
謁見の間に戻り持ってきた火鉢に火起こしをする又七郎。
源四郎は水分を飛ばした【硝石】を持ち今か今かと火が起きるのを待っている。
「あ〜急かすなげんしろぉ!それ、もう火ぃば起きたど!」
「よぉし良くやった又七郎ぉ!したら危ないから離れとけ!!…皆様方、長々とお付き合いありがとうございまする♫それでは最後に………それっ!」バッ!
言うなり火鉢に【硝石】を撒く源四郎、当然…
パチパチパチパチパチ!
爆ぜる【硝石】。
それを見た島津家の面々は…
「おおおおおおおお!」
「た、確かに【硝石】!厠ば土から【硝石】が出おった!!」
「な、なんと言うことか!」
「ははっ♫源四郎、ほんにやりおったのぉ!」
「ひゃあ!こりゃ見事じゃあ!!」
皆一様に目を見開く。
「へへへっ♪これが【古土法】にございまする♫」
これには源四郎も鼻高々である。
が、間を置かずに義久が問う。
「が…源四郎よ?」
「はい?」
「これのどこが【禁呪】なのじゃ?」
「「「…。」」」ピクッ
「んぁ?…そういえば確かにのぉ。肥溜め周りの土なんてどこにでもあるからのぉ。」
義久の問に眉を上げる他の兄弟三人。
そして又七郎もまた当然の疑問を投げかける。
「…やはりそこは気になりまするか、義久公。」
「当たり前であろう、してこの【古土法】をお主が【禁呪】などと申した訳はなんじゃ?」
「…フゥー。」
深呼吸する源四郎。
そして…島津家の面々にこう問い返す。
「しからば皆様…神 仏 を も 恐 れ ぬ 覚 悟 は お あ り か ?」
「「「「!?」」」」
「なっ!?おい源四郎、おはん!?!?」
「はぁ〜…やっぱりこうなってますか。」
源四郎の纏う空気が一瞬で【やんちゃ坊主】から【死を纏う者】のそれに変わる。
それに気圧される四兄弟。
それを知る(それと対峙したことがある)又七郎は驚愕し、片付けを終え戻ってきた弥五郎は「ヤレヤレ…」と言った体でその場に加わる。
「し、神仏を恐れる覚悟…とな?」
「おはん、何を言うつもりじゃ源四郎!?」
「………。」
少々狼狽え気味な歳久に家久。
反面、押し黙る義弘。
そして義久はと言うと…
「神仏を恐れぬ覚悟?…これは奇なることを言う。小僧、ここを何処と心得る?修羅の巷九州…その更に先、生きながらの冥府魔道を征く薩摩ば島津家ぞ?かような覚悟…すでにしておるわ!!!!」
「!(そうだよなぁ…そうこなくちゃなぁ!義久公)」
源四郎を一喝する義久。
その堂々たる威容、そして覚悟に感服する源四郎。
「がっはっは!流石あにょどん!源四郎ぉ!おぬし少し島津ば舐めとったな!のぉ、歳久!又七郎ぉ!」
「ふっ…その通りよ源四郎。我ら島津、端から神仏を崇めるものの言う【死後の安寧】など求めておらぬ!!」
「そうじゃあ源四郎!島津ば武士が求めるは敵の首のみよ!!」
「ふっ…言いたいことは全てあにょどん達と又七郎に言われてしもうたわ!ま、そういう家じゃど島津は。分かったか源四郎?」
島津家の面々が各々の【覚悟】を示す。
それに対し源四郎は…
「はっはっはっは!この源四郎、一本とられました!いやはや島津家がかように…かように!いい意味で!!皆いくさ人とは♫」
この旅路で一番の笑いでもって答える。
「「「「「当たり前よ!これが薩摩隼人の心意気よ!!」」」」」
声を揃える島津家一同。
「ははっ!感服いたしました!なれば話を続けましょう♫…それがしが【古土法】を【禁呪】と称する所以………それは糞尿と共に【屍肉】を埋めバクテリア共の食欲を促し普通数年かかる【硝石】の取り出しを一〜二年で済ませることにありまする!」
島津家の心意気に感服しはっきりと【屍肉】を使うと言う源四郎。
「【屍肉】とな?…!読めたぞ。」
「かぁ〜!お主は人を笑わせたり頭抱えさせたりと忙しい奴じゃのぉ!喜兵衛殿も頭抱えたんじゃなかか?」
「全くよ…お主の兄弟たちの苦労が目に浮かぶわ。」
「はぁ〜…弥五郎、お主知っとったのか?」
「はい、家久公…知ってるどころか郷では思いっきり加担させられておりました。」
「お主も苦労するのぉ…。」
「…御心遣い、痛み入りまする。」
「?さっきから何を言うとるんじゃ??」
各人が源四郎の言葉の【先】を読み、家久に至っては弥五郎の苦労を慮る。
そんな中、又七郎だけは何が何だかと言った感じで困惑する。
「「「「又七郎ぉ〜…。」」」」
「かぁ〜!だからオメェはノータリンだってんだよ又七郎!!」
「あぁん!?きさん、またおいをノータリンち言うたか源四郎ぉ!?!?」
「ノータリンだろうが!」
「また言うたなこんダボぉ!」
「あんだやんのか!?」
「上等じゃあ!」
今にもまた取っ組み合いを始めそうな二人。
すると…
「やめんかこのバカモン共が!」ゴツン!
「「いっでええええええええ!?」」
義弘の拳骨が双方の頭に落ちる!
「全く…元気がよいのも困りものよ……源四郎、続けよ。」
半ば呆れながら義久が言う。
「ははっ、してここで言う【屍肉】とは…【敵兵の骸】にござりまする。」
「「「「やはりか。」」」」
「………………は?」
源四郎が【敵の骸】を使うと言うとそれを予見していたかのように納得する四兄弟と全くそれを予見出来ていなかった又七郎。
ここは経験の差とでも言うべきか…
「やはり察しはついておられましたか、皆様方。」
「薄々は…の。厠周りの土を使うと言うところで何ぞ【穢れ】を用いるとは思っておったがよもや【敵の骸】まで使うとはな。」
「わしも同じじゃっどあにょどん。」
「それがしもです…全く恐ろしき男よ、真田の三男は。」
「して源四郎、何故【敵の骸】、【屍肉】を用いると【硝石】ば取り出せるのが早まるとじゃ?」
「分かりやすく言えば人が【酒】を飲むと食欲が増すのと一緒でありまする。」
島津家の面々が困惑する中、家久が源四郎に問いそれに嬉々として答える源四郎。
「はっはっは!人の骸を酒代わりとは恐ろしいカビもいたものよ!!」
「確かに…時に源四郎よ、無論【敵兵の供養】はした上でその骸、埋めて火薬にするのよな?」
「無論、首は取り洗い清め供養した上で首から下を使う所存であります歳久公。」
「ふむ、なれば良い。」
歳久からの問いにもしっかりと答える源四郎。
「さて…義久公。」
「む?」
「先に言った通り【古土法】は時がかかり、かつ下手をすれば【屍肉】用いる禁呪なれど…伴天連共から高い金を払い【硝石】を買うよりはよっぽどマシかと存じまするが?」ニヤリ
戦には金がかかること、そして修羅の巷九州の戦乱が二年そこいらでは終わらない(特に高橋修繕正親子、及び戸次家のせいで)ことを知る源四郎がとびきり悪い笑顔をして義久に問う。
「みなまで言うてくれるな源四郎…わしとて戦に金がかかること、そしておぬしが言う二年…【硝石】が取れるようになる時までにこの九州の戦乱はとても終わりはせぬことも分かっておる。…よってこれより島津家はお主よりもたらされた【古土法】!存分に使わせて貰うど!」
「!…なれば!!」
「うむ!今日より真田源四郎!お主は島津ば【客人】じゃ!島津が【火薬調合】、【兵法】盗めるものならば盗んでみせい!!」
「は!ありがとうございまする!!」サッ
義久の言を聞き即座に平伏する源四郎。
「良かったのぉ源四郎!…なればあにょどん!」
「わかっておるわ義弘!歳久、家久ぁ!宴ぞ!!」
「わかり申したあにょどん!」
「ははは!見事やりおったの源四郎!さて宴じゃ♫存分に楽しむんじゃぞ♫」
「ありがとうございまする家久公♫」
「で…いつまでほうけとるか又七郎!」コツン
「でっ!?」
源四郎の【敵の骸】を使う発言辺りからほうけていた又七郎を小突く家久。
「ててて…しっかしまっことおはんにゃ驚かされるのぉ源四郎。まさか敵ば【骸】使うとは。」
「お?ほうけてた癖にちゃんと話は聞いてたか♫」
「当たり前じゃ。全く…叔父御達じゃなかっどが…おはんは面白き男じゃの、一緒にいて飽きんど。」
「へへ、そうかよ♫」
「お二人とも!宴は広間でやるそうですよぉ♫さぁ早く早く!!」
「「なんでテメェがいの一番に向かおうとしてんだ弥五郎ぉ!!」」
こうして源四郎は晴れて【島津家客人】となったのである!
「(みお、やったぞ!島津の懐に入り込めたぞ!!お前の【剣】に…いや【妖刀・魔剣】になるべく俺頑張るからな!!!俺………絶対に強くなってやるからなぁ!)」
はるか遠く小県に残してきた愛妻みおを想う源四郎。
これより源四郎の厳しくも熱き【薩摩修行】が始まる!!
――第二章、完――
さて【島津本家】にて自身の立場を確立させた源四郎!
ここから厳しい修行が始まります!!
次回を刮目して待て!!!




