序章:【修羅か童か。源四郎、信濃の地に誕生すの段】
「(…?ここがあの世って奴か??俺は訓練中の滑落事故で………)」
『俺』は自衛隊員。
入隊してからこれまで(自分で言うのは何だが)そこそこ良好な勤務態度、結構優秀な体力と頭脳で真面目にやって来た。
そのおかげが念願の部隊レンジャー訓練に参加、そして無事地獄の教育課程を修了しレンジャー徽章を得てこれから…って時に演習場整備中に斜面を滑落、打ち所が悪く死んでしまったようだ。
「(運がねぇもんだなぁ…時に本当にここは何処だ?あの世にしては妙に日本家屋っぽいしそれに…)」
ふと横に目をやるとそこそこ美人な女の人がフーフーと息を整えながら今で言う産褥椅子?だろうか、竹で編まれたであろう出来のいい椅子に座っていた。
「(歳の頃は20歳くらいか?ずいぶん若いママさんだなぁ…つーかそんな出産現場になんで俺寝かされてんだ??)」
すると突然『俺』は抱きかかえられた!
「(は!?俺成人男性だぞ!それを抱きかかえ…)」
「ほれ、薫。あなたの四人目の子ですよ…あらもう目が!なんと凛々しい顔立ちでしょう」
「(四人目の子!?俺………赤子かぃいいい!?)」
理解が全く追いつかないが…薫と呼ばれた女性(おそらく今の『俺』の母)の腕に抱きかかえられた『俺』はそれだけは理解出来た。
「まぁ本当に!お義母様、この子は何か大きなことを成す子かもしれませんよ♪」
「薫、過分な期待は子を押し潰します…健やかに育ってくれればよい、その位の心持ちでいるのが吉というものです」
「(ひとまず情報収集…は無理かぁ。生まれたての赤子だからなぁ)」
自身で歩くこともままならない今の状況に絶望する『俺』。
すると…
「薫ッ!無事四人目を産んだか!!大義である!!!」
ズカズカと(おそらく)今の『俺』父であろう和装に袴姿の男が障子を開いてやって来た。
「殿!甲府からわざわざ…」
「うむ!おぬしが身重なのは『御館様』も承知でな、是非郷へ帰れと数日暇を貰って参ったわ!」
「これ源五郎、まずは薫をもう少し労ってはどうです」
「これはばば様、この四人目の取り上げありがとう存じまする」
「(源…五郎??どこかで聞き覚えが)」
「さて!」
そう言うと男はお包みに包まった『俺』を抱き抱えて言う。
「お主は今日よりこの真田喜兵衛が三男『源四郎』じゃ!健やかに育てよ!!」
一瞬にして全ての思考が一時停止、後にフル回転しだす。
「(真田………喜兵衛………はぁあああああ!?真田安房守!?この人がぁ!?)」
真田喜兵衛、後の真田【安房守】昌幸その人である。
「表裏比興の者」と評される智将であり後の天下人徳川家康が最も警戒したとされる男…
その腕のなかに『俺』は抱かれている。
「(異世界…いや、過去に転生?でも真田に子女は三人のハズ………並行世界って奴か???)」
そんなことを考えていると…
「「「母上!ばば様!!生まれた!?」」」
元気のいい子供の声が三人分、重なって聞こえてくる、そしてドタバタとした足音も。
そして『俺』の眼前に二男一女の三人の子供が現れる。
おそらく昌幸の長女松、長兄源三郎(後の【伊豆守】信幸)、そして…『日ノ本一の兵』と称されることになる次兄源次郎(後の【左衛門佐】信繁)だろう。
「(うわーーー!本物の真田源次郎だぁああああ♫)」
何気に歴史オタクな『俺』…源四郎は開いたばかりの眼を輝かせる。
だがそれを制するように祖母(おそらく俗に言う、おとり様)が言う。
「これ松!源三郎!源次郎!!薫の身体に障ります、少し静かになさい」
「「「はーい」」」
三人そろってシュンとする。
この家のヒエラルキートップはもちろん家長たる昌幸だろうが、普段家を空けている分実質的なトップは三人の反応をみるにこの『ばば様』なんだろう。
「まぁまぁまぁ…ばば様、子供たちも新たな兄弟が生まれたこと、喜びたいのじゃ。大目にみてやらいでか」
「「「あーー!父上!!」」」
三人が昌幸に気付き近寄ってくる。
「三人とも、これがお主らの末の弟『源四郎』じゃ。可愛がってやるんだぞ?」
「まぁもう目が!」
「真田の男としてこの源三郎、しっかり面倒をみまする!なぁ源次郎?」
「ええ。時に父上…源四郎と言うのは山県様から頂いたのですか?」
「ほぉ…源次郎、よく知っているな。確かにかつて山県殿も源四郎を名乗っておったが此奴の名はそこから取ったのではない」
「ではどこから???」
「わしの四人目の子だから源四郎じゃ」
(ズルッ)
そんな音が聞こえそうなほどその場にいた全員が(出産を終えたばかりの母、薫すら)滑ってしまいそうになる。
「(テキトーか!このオヤジ殿は!?)」
思わず突っ込む。
「(しっかし…なんの因果か真田家に生を受けるとはな…この家族が後々敵味方に分かれちまうなんてな。)」
そう、史実通りであればこの後信繁と信幸は豊臣と徳川に分かれそして信繁は大坂の陣にて死去する事となる。
「(けど……………そもそも『俺』、源四郎ってイレギュラーが生まれて来てるんだから史実をぶち壊しても良いんじゃねぇか???したらやってみっか。兄様、俺があんたを死なせねぇ………大阪の陣は起こさせねぇぞ!!!!)」
父昌幸の腕の中で眼の奥に野望の炎を灯す源四郎。
それを後に『表裏比興の者』と評される昌幸は見逃さなかった。
「ん?………(ふふ、此奴め。赤子のくせに野心を秘めた眼をしよる。流石わしの子と言う訳か。得体の知れん部分はあるが今は我が新た子の誕生を祝うとしよう。)」
かくして元亀元年。
後に【信濃の修羅】、【真田のキ●●イ】と称される豪傑…真田源四郎信良が誕生した。
※真田昌幸には信繁の下に信勝、昌親と言う二人の男児がいますが…
『生母不明』という観点から本作ではこの二人を「養子」として扱い主人公源四郎は『嫡流(山手殿こと薫)との間の三男坊』として扱いますので悪しからず




