ダンジョンへ
今回は、登場人物がコロコロと変わるので、少し読みにくいかもしれません。
成夜祭の後。リウィツィは、深く考え込んでいた。皆の熱気、そして料理の残り香が部屋の中に充満している中で。
「カヤ、窓を空けてくれるかい?」
「えぇ。」
夜の風が東から西へと向かう。リウィツィはダンジョンの方へと目を向けた。
(あの娘は…)
肉親をダンジョンで亡くす悲しみは、痛い程判る。それに加えあの娘の両親は、英雄として死んでいる。今日の成夜祭を見てはっきりと分かった。
あの娘は、自分の背負う物に耐えられるだろうか。
もう二度とあの娘に肉親を失う悲しみを与えてはならない。そうなると本当に彼女は、私のようになってしまう。
「はは…」
思わず苦笑が溢れる。
「カヤ。落ちこぼれた司祭長は嫌いですか?」
何度も自問自答してきた言葉。何度も慰めに使ってきた言葉。
「またそんなこと言って。私がそう思うとでも?」
「神は救いでなければならないのに。私はもう、何も信じられない。」
「そうね…。」
カヤは台所を出て、リウィツィの横へと歩み寄った。
「創造神も、風の神も。もう私の祈りはすべて嘘でしかない。
それに、敬虔な彼女は、私と違って神を信じ切っていた。裏切られて尚、微かに心の頼りにしている。彼女の苦しみは私の比ではない。」
ほぅ、とリウィツィは溜めていた息を窓へ吐き出す。今もう、風は止んでいた。
「成夜祭、見てくれているかい?リカ。」
リウィツィは、名残惜しそうに、亡くした子の名前を呼んだ。
「窓、開けておくわよね?」
「はい。そうしてください。」
そしてリウィツィは奥で複雑そうな顔をしているレスタンに、向き直った。
「レスタン。貴方は絶対に、死なないでください。」
食器の片付けをしながら、カヤはレスタンを気にかけていた。約12年前、ダンジョンの方から歩いてきた4歳の男の子。子を亡くした私達が引き取ることになり、リカの供え物のために毎日作り続けた料理を、久々に子供に振る舞った。
それから今まで、実の子どものように愛情を注いできた。もう子どもを死地に送りたくない。リウィツィも同じ気持ちなのだろう。
神を信じ、未来を見据えていたリウィツィにとって、今の現状はとても苦痛だ。私に出来ること。それは今まで通り軽口を叩いてリウィツィに寄り添ってやる事。そして、レスタンになるべく重圧を感じさせないことだ。カヤは洗い物の手を止め、レスタンに歩みよった。
「レスタン。貴方は私達の子よ。神を気負うことも無い。リウィツィは少し病んでしまってるの。許してあげちょうだい。」
そういうと、レスタンは少し顔を上げてから、迷うように頷いた。
日が昇ると同時に、ルーファは布団から飛び出て、外へと出た。今日は初仕事、初めてダンジョンへ向かう日だ。
「待って!ルーファ!」
後ろから姉の声がした。
「どうしたの?お姉ちゃん」
リーファの顔には、得も言えぬ不安が張り付いていた。
「気をつけて行ってきて。絶対に、死んじゃだめだよ。」
「大丈夫だって!それじゃあ行ってきます!」
「あ、ちょっと!」
そう言うとルーファは家から飛び出していった。実りの季節。青が橙色を侵食し始めた空は、東からの風に流され雲一つなかった。
「おぉ!ルーファじゃねえか!」
そこには戦闘服に身を包んだトルがいた。そしてその奥からはカールが出てきた。カールは、ルーファの身を包んでいる戦闘服にチラと目をやった。
「おぉ、懐かしい服を着てるなぁ。リルのか。」
「あ、気付いた?これ、お母さんのなの。」
「気付くも何も、俺らは一緒にダンジョンに言ってたんだぜ?それくらいわかるぜ」
ルーファの身を包んでいるのは、実の母リルの形見であった。これを着る覚悟ができるまで、4年かかった。昨日の成夜祭で、皆に後押しされて、ようやく着る覚悟で決まった。この服を着るということは英雄になることでは無く、皆と共に戦い、皆と共に帰ることだと。
「そんじゃ行くか。トル、ルーファ。今日は俺とシャラが手取り足取りを教えてやる。あと、レスタンな。ダンジョンで皆と合流するぞ。」
トルとルーファは、大きく頷いた。
ダンジョンはこの村シアトルから西に行ったところにある。それまでの道のりは平坦だが、時々魔物が出るという。トルの武器は短剣、ルーファの武器は母の使っていた槍である。しかし扱いには慣れ居ない。軽々と武器を持っているカールとシャラがとても頼りがいがある。
50分ほど歩き続け、徐々にダンジョンの塔がはっきりと見え始めた。
ようやく戦える。皆と一緒に。私も両親と同じ地に立てる。そう思うと、何故か足がすくんだ。
最後まで読んでいただき、ありがとうございます。もし誤字脱字や設定の矛盾、不備等あれば、教えていただけるとありがたいです。




