英雄
「え〜、では皆さん。今年の成夜祭にお集まりいただき、有難う御座います。司会はこの司祭長リウィツィが担当させて頂きます。」
「いいぞー!」
ガヤガヤと皆が騒ぐ中、ルーファは緊張しながら話を聞いていた。漂う料理の匂い、響く歓声、吹き荒れ聞こえる風の音。ルーファは、風の音以外感じられなかった。姉もそうなのだろう。複雑な顔で音を聞いていた
「今年十六歳を迎えたのは、ルーファとトル。そしてシフィです!」
おおー!っと、歓声が響く。その声を聞いて、少し身体に体温が戻ってきた。横を見ると、トルが誇らしげに笑っていた。そして、もう一人の男の子。楽しげな雰囲気の特異点。1人だけ俯いているのは、シフィだ。彼は、11年前ダンジョン方面から一人でやって来た。なぞの孤児だったが、村の皆は温かく迎え、今はリウィツィといっしょに暮らしているらしい。
「では3人共前へ!」
トルはこっちをちらっと見、少し笑う。
「お前、緊張しすぎだろ!」
「う…うるさい!仕方ないでしょ!」
ぎこちない歩き方で、ルーファは前へ出る。並んだ机に村の皆が座っている。教会の一番前へルーファ、トルとシフィは並んだ。皆の目線が刺さるような気がした。
「この3人は晴れて十六歳になりました。神の加護と創造神フィリシアに感謝し、3人に祝福と更なる加護が与えられるよう此処に祈ります。………」
リウィツィの言葉は耳に入っていたが、言葉としては入ってこなかった。村の英雄となって散っていった両親。2人に見合う働きをできる自信がない。村の皆がどう思っているかが、怖い。
「いや〜、皆ありがと、ありがと。」
トルは浮かれ、皆の拍手にヘラヘラしながら笑顔で返す。しかし、ルーファは素直に喜べなかった。
「ルーファさん。」
「はい!?」
急にリウィツィに話しかけられ、ルーファは素っ頓狂な声を出してしまった。
「貴方、大丈夫ですか?あまり嬉しくなさそうですね。」
何故リウィツィはこうも鋭いのか。見事に図星を突かれたルーファは驚いた。
「何か言いたいことがあるなら、皆に向かってちゃんといいなさい。」
「そうだぞ!どうしたんだ?」
先程までのガヤガヤはどこへ行ったのか、響いたのはタールの声だけだった。その状況が、タールの純粋な心配がより一層ルーファの不安を煽る。
「私…」
心臓が痛い。血液は身体に回っているはずなのに、呼吸が薄い。
「お母さん、お父さんになれる自信がない。皆に期待されてるって思うと、怖くて。」
沈黙が流れる。自分の鼓動だけが耳に響く。沈黙を破ったのは、リウィツィだった。
「あっはっは!なんだそんなことですか!良いですか?私たちは、人に英雄を押し付けるほど薄情じゃないです。ですから、皆あなたの両親に、感とても大きな感謝と、少しばかりの後悔を持ってるんです。」
「え?」
薄情、という言葉に少し引っかかる。それを察したかのように、次はシャラが口を開く。
「いい?ルーファちゃん。私たちは、人に犠牲を強要してまで生き延びようなんて思わない。でも、自分から人を救うために英雄になってくれた人もいる。その人には感謝しなくちゃいけないけど、それをあなたに強要はしないわ。」
その言葉を聞いて、今までの自分が救われたような気がした。
それと同時に、この心配は両親や姉、そして皆を侮辱しかねない心配だったと反省する。皆は自分のことを、そしてほかの皆の事を家族のように大切に思っている。
英雄になれるかなどと心配するのは、自分が犠牲になると宣言してるのと同じだ。そう考えると、ルーファは少し複雑な顔になる。
その言葉を聞いて、顔を見て、より一層父さんと母さんに問いかけたくなる。
あなた達が、私達が犠牲になる意味って?
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