第9話『封じられし“第三の眼”』
──その夜。
クロノの部屋、静寂の中で懐中時計が淡く光を放っていた。
銀狼(瞳)、紅姫(悠貴)、セレナが見守るなか、
クロノがゆっくりと語り出す。
「お前たちには、まだ話していなかったことがある」
彼は懐から、焦げたような黒い指輪を取り出す。
「これは、かつて俺が契約していた《第三の眼》──オブリビオン・リングだ」
「……え?」
「俺もかつて、“契約者”だった。
だが──俺は、自分の“心の色”に呑まれたんだ」
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回想:7年前──“失敗した契約者”の記憶
クロノはまだ15歳。
家族を失い、全てに怒りと諦めを抱えていた少年。
そんな彼に現れたのが、
異形の黒き眼──“忘却の心眼”だった。
《視ることを拒絶せよ。全てを忘却し、痛みを消せ》
その力は、強すぎた。
人の心を“視る”どころか、“抹消”することができたのだ。
それは──“視る力”を持つ者にとって、最も禁忌な力。
彼は暴走し、仲間をひとり……失った。
その時、彼は契約を“強制解除”し、代償として《記憶の一部》を失った。
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現在:クロノの決意
「俺は今、監視者として、契約者たちの導き役を担っている。
だが……再び“その目”が目覚めようとしている」
その瞬間、部屋の空気が変わった。
外から、重くゆっくりとした足音が近づいてくる。
「来たな……」
扉が開く。
現れたのは──
■新たなる契約者:鷹月 玲司
黒髪に赤い目、無表情で立つ少年。
だがその右手には、封印の紋様が浮かぶリング。
「……君が、銀狼か」
声に温度はなかった。まるで感情そのものを閉ざしているようだった。
クロノが静かに言う。
「彼の“心の色”は、完全に測定不能だ。
色を持たない心──無彩」
玲司の指輪の名は、《ネザーレンズ》
──“虚無”を視る眼。
「視ることすら許されない、心の奥底がある──
それが、彼の中にある“第三の眼”だ」
玲司の眼が、銀狼を捉える。
「君の炎は……まだ“甘い”。
情に流される“心の色”では、これからの戦いでは生き残れない」
銀狼は、ぐっと拳を握る。
「だったら……見せてみろよ、アンタの“心”ってやつを──!」
玲司は、一歩前に出て言った。
「……心を捧げ合う時代は、もう終わった。
これからは、“視る力”そのものが──裁かれる」
その言葉の意味を、彼らはまだ知らなかった。
──だが、“裁き”は確かに始まっていた。