第8話『凍る心と、氷の瞳』
──吹雪の記憶。
それは、セレナの心に刺さったままの“凍った棘”。
「あの夜……私の“心の色”は、氷に染まったの」
目を閉じ、セレナは語り始める。
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回想:4年前・北の辺境都市
雪の夜。
当時10歳だったセレナは、事故で両親を失い、孤児院にいた。
静かで、よく笑う少女だった。
けれど──
彼女の心には、ある“異常な感覚”があった。
> 「私、他人の“嘘”が見えるの」
それは、心眼能力《心読》の初期兆候だった。
施設の大人たちが、優しく接しながら裏で「金になる」「研究所に渡す」と話していたこと。
それを知ってしまった時──
「……私の心が、凍り始めたの」
ある夜。
彼女はブレスレット《アイス・レイ》と出会う。
そこから、氷色の目が現れた。
《凍結せよ。我ガ契約者ヨ。汝ノ痛みヲ──世界ヲ封ゼ》
その瞬間、彼女の周囲は氷に包まれ、
孤児院は全壊。生き残ったのは、彼女ひとりだった。
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現在:戦場の屋上
「セレナ──目を覚ませ!」
ダール=ネヴァルの黒い鏡が、視界を歪める。
特殊能力《視界封鎖》──
契約者の視覚・心眼・記憶を操作する、視る者殺しの力。
「やめろッ!!」
銀狼が炎の拳で鏡を叩き割ろうとするが──跳ね返される。
「心の色は、脆い。
そして君たちは、それを“信じ過ぎている”んだよ」
「お前に──心を語る資格なんてないッ!」
紅姫の鎌が、黒鏡を裂こうとするが、
ダールはあざ笑う。
「なら、凍らせてみろよ。セレナ──君自身の“迷い”をな」
その言葉に、セレナの氷色の瞳が揺れる。
「……やめて、私の心に──勝手に入ってこないで……!」
その瞬間、空気が震える。
《凍てついた瞳が、怒りに染まる》
「やっと出たな。君の“真の色”──」
──《心眼解放──コード・ゼロ・アイス:雪華結晶》
氷の花が、セレナの周囲に舞い始める。
風ではなく、記憶の粒子が実体化しているのだ。
セレナの両手が、静かに広がる。
「……これが、私の本当の“視る力”──
人の“心の痛み”を、凍結する力よ」
彼女の手が、ダールの鏡を掴む。
「──凍れ」
バキィィンッ!!
黒鏡が砕け、ダールは苦悶の声を上げて後退する。
そこに銀狼が、炎を纏って突っ込む。
「連携だ、セレナ!」
「いくよ、銀狼!」
《フレイム+フロスト・コンバイン──》
《氷炎斬・双極連牙》!!
銀狼の拳とセレナの氷刃が、同時に交差する。
ダール=ネヴァル、戦闘不能。
クロノが静かに告げる。
「君たちの“心の色”──
その強さが、初めて《アイ・ハンター》を退けた」
セレナは銀狼に向き直り、少しだけ微笑む。
「ありがとう……わたし、また人を信じてもいいって思えた」
銀狼が照れ臭そうにうなずく。
「……俺もさ。お前がいてくれてよかった」
そのとき、クロノの懐中時計が震える。
「……また、次が来るぞ」