第5話『瞳に宿る、真実の記憶』
──「君たちは、もう“目を逸らせない”」
静かな声だった。
けれど、クロノ=アインの言葉には、何よりも重さがあった。
銀狼(瞳)と紅姫(悠貴)は、その言葉に背筋を伸ばす。
「君たちが持つ“眼”──それは偶然与えられたものじゃない。
これは、“選ばれた魂に与えられる鍵”なんだ」
クロノは胸の《時の瞳》に手を当てる。
「過去、未来、そして“心の現在”。
それを視るための鍵──《心眼》」
そして、指輪が再び囁いた。
『銀狼──君の中にも、未だ開かぬ“扉”がある』
「扉……?」
『君はまだ、自分の“本当の記憶”を思い出していない』
その瞬間、紅姫が小さく息をのむ。
「……もしかして。わたしたち──」
「会ってたのか? 昔……どこかで?」
クロノが手を差し出した。
「過去を、視たいか?」
銀狼は、一度だけまぶたを閉じ、
そして力強くうなずいた。
「……ああ。視せてくれ」
「では、接続開始。
──心眼同調:《追想ノ眼》起動──」
───ギィィィィ……
目玉のような歯車が回転し始めた。
そして、視界が──光に包まれる。
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回想:8年前
そこは、児童養護施設だった。
少女(瞳)は、男の子たちに囲まれながら、泣きじゃくっていた。
理由は、男の子の服を着ていたから。
「へんなのー! 女の子なのに、なんでそれ着てんの!?」
「女装じゃん、変態かよー!」
──そのとき、彼女の前に立ちはだかったのが、悠貴だった。
「やめろよ。別に、いいじゃん……好きな服くらい、着たってさ」
「男でも、スカート履きたい奴だっているだろ……?」
その言葉に、泣き止んだ少女は、ぽつりと呟いた。
「……ありがとう、王子様」
──しかし、その記憶は瞳の中から、封じられていた。
「思い出した……!」
銀狼(瞳)の目に、涙が溢れる。
「わたし……お前に、助けられてたんだ……!」
「けどさ、変なのよ。あの時、“わたし”は確かに男の子だった」
紅姫(悠貴)は、自分の胸に手を当てる。
「なのに、今の“わたし”は……姫を名乗ってる」
「本当の“わたし”って、どこにあるのか……ずっと、わからなかった」
銀狼が、歩み寄る。
「わからなくてもいい。
わからないまま、進めばいい。
お前が姫になりたかったのなら……俺は、それを笑わない」
その言葉に、紅姫の大鎌が、少し震えた。
『共鳴度、上昇中──《同期進化》、可能性アリ』
──そのとき、クロノが顔を上げた。
「時間切れだ。……来るぞ。今度は“本当の敵”が──」
空が、再び裂ける。
“目玉のない怪物”──《視なき者》が、異界から現れた。
「……目を持たぬ存在が、心の色を喰らいに来る」
銀狼と紅姫は、視線を交わす。
「行くぞ、姫」
「ええ、“王子”」
───戦う時が来た。
今度は二人で。