第3話『わたしが、わたしを殺す夜』
「逃げるなよ、銀狼──!」
紅姫が大鎌を振り下ろす。
軋む空気。夜を裂く断絶の一撃。
銀狼は咄嗟に飛びのき、拳に炎を宿す。
「……っ!! やっぱ本気なんだな……お前!!」
息が荒れる。
だけど、胸の奥は静かに燃えていた。
「お前も、“変身”したかったんだろ?」
「だったら……っ!」
──拳が、火花を散らす。
「その本音、叩き返してやるよッ!!」
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大通りの真ん中で、二人はぶつかり合った。
拳と鎌、炎と闇。
夜空が燃え、ビルの窓が軋む。
しかし──次の瞬間。
「目を逸らさないで。銀狼……あなたの“心の色”を見せて」
──鎌の目玉がギラリと光る。
『スキャン開始。対象:銀狼。心の色──解析中……』
「くっ……やめろッ……!」
ズキリ、と胸の奥に痛みが走る。
──その時、銀狼の額の“第三の眼”がゆらりと赤から紫に染まった。
『心の色:紫──恐れ、自己否定、葛藤』
「あなたも、わたしと同じじゃない……!
“本当は、自分が嫌いなんでしょ──?」
紅姫の声が刺さる。
痛いほどに、深く。
「……ああ、そうだよ」
銀狼は、拳を握りしめる。
「誰かになりたかった。
男になりたいわけじゃない……
“女の子”が似合わない自分が、
誰かの役に立てる“存在”に、なりたかっただけなんだよ!!」
叫びとともに──
銀狼の炎が、爆発する!!
「だけど、それを恥じるつもりはない!」
「これが、俺の心の色だ!!」
──灼熱の拳が、紅姫の大鎌と激突した。
爆風が街を包み、二人は吹き飛ばされる。
──しばしの静寂。
倒れた銀狼が、荒い息を吐きながら立ち上がる。
紅姫もまた、ドレスを揺らしながら姿勢を正す。
「……面白いわね。銀狼」
「わたしたち……、似てる、だけじゃない。鏡なのかも」
その瞬間、銀狼の指輪がつぶやいた。
『共鳴率上昇──心のリンク、発生中。敵性未確定』
───
そして、戦いは突如として中断された。
黒い影が、空を覆う。
空間が裂け、“何か”が、世界の境界を越てくる。