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20:『完璧な市長』

翌朝、ミラとソーレンは新駅舎の完成披露式典に足を運んでいた。

駅前広場では屋台が出ていたり、地元学生たちのブラスバンドによる軽快な音楽が響いていた。

風船をもらって走り回る子どもたち。

その平和で賑やかな光景からは深夜に発砲事件があった場所だとはとても思えない。


会場を見回しているとモロー夫婦の姿があった。


「二人とも、おはよう」


にこやかに声をかけてくるアレックスはいつもと変わらない。

しかし、いつものハーブとレザーの匂いに混じって消毒液の臭いがする。よく見ると薄っすらと目の下にクマが残っていた。

朝までヴィンセントに付き合って病院にいたのだろう。


「おはようございます、アレックスさん、ルシアンさん⋯⋯それでロウ市長は?」


命に別状はないとはいえ、あの大怪我だ。

流石に今日は欠席するのだろう、そう思ってミラが市長の名前を出した瞬間、アレックスはその眉間にクシャリと皺を寄せて不機嫌そうな顔をした。


「⋯⋯出るわよ、式典に」

「昨日あれだけの事があったんだから、と説得したんですが、聞かなくてね」


苦笑いでやれやれと首を振るルシアン。

徹夜で疲れてというより、兄妹喧嘩の仲裁で草臥れているらしい。


「だから、無理しないように見張ってないとね」


妙に拳に力を入れて招待状を握るアレックスと、それを宥めるルシアンが来賓席に向かっていくのを見送る。


「俺はこの一日であの三人の関係がちょっと分かってきた気がする」

そうソーレンと二人で話していると今度はイーライに声をかけられた。


「やあ、さっき裏で聞いたが市長、式典で出るんだってな。いくら重傷じゃないとはいえ、大したもんだ」


イーライも昨夜事件が解決したとあって機嫌良さそうに笑って警備班に戻っていった。




時間通りに式典が始まりロウ市長が登壇する。


『素晴らしい今日この日を、市民の皆様と一緒に迎える事が出来る事をとても嬉しく思います。』


マイクを通した声ははっきりしていて、いつもと同じ自信に満ちた表情で話している

風にのってくる消毒液と血の匂いはミラの鼻でなければ気が付かないだろう。


「消毒液の臭い⋯⋯でも大怪我をしているようにはとても見えないわ」

「うん、よく見れば左手を動かさないようにしてるけど⋯⋯聞いてなければ俺も気が付かないかもしれないな」


『この絵画に描かれたようにアルテリオ市がこれからも美しく発展できるよう、市民の皆様が安心して暮らせるよう、私も尽力してまいります。』


スピーチの終わりには笑顔で白い歯を覗かせ、市民からの拍手に軽く手を振って舞台を降りるヴィンセント。

昨夜の痛々しい姿とはまったく違う、完璧な市長の姿にミラもソーレンも驚きを隠せなかった。



式典が終わった頃、再びイーライから声をかけられた。


「市長からの伝言でな、俺達に少し話があるらしい。ルシアンのギャラリーまで来てくれだと」


聞きたかったことは、たくさんある。

二人は、静かに頷いた。

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