3.加護と弟とプリンの攻防
私は普段アパートに一人暮らしだけど、たまに高校生の弟が転がり込んでくる。大方親と喧嘩したとかバイトで遅くなったとかそんなとこだと思うけど、あんまり詳しく聞いたことはない。
カカポが住み着いてから初めて弟が来た翌日。
「お前さぁ……」
朝っぱらから開口一番、弟の声がこれである。私はまだコーヒー一口目だ。優雅な朝の時間に不機嫌な面突っ込んでこないでよ。
「なに」
「俺の財布の中に入ってたビーズなに?
“加護:ゲームでレアドロップが出やすい” って書いてあったんだけど」
「あー、それ昨日カカポたちが夜なべして作ってたやつ。あげるって」
「いや、なんで俺限定!? なんでピンポイントでオタク趣味狙われてんの!?」
さすが若いというかゲーム脳というか、この弟は私の弟のくせにカカポの存在にはあんまり疑問持ってないな?
台所の奥では、カカポたちが「ぐぽ♪」と機嫌よさそうに歌いながらビーズ細工を一個ずつパウチに詰めている。もはや量産体制。
「ぐぽぐぽ~」
「ぐぽ(袋詰め完了)」
「ぐぽ!(これ!推し!)」
「もうなにが推しなのか分かんねぇよ……」
弟はビーズを持ってじっと見つめる。
「でもこれさ……昨日、確かに一発でレアドロップ出たんだよね」
「でしょ? だから言ったじゃん。カカポ製加護、効果はあるんだってば」
「いやいやいや、信じたら負けじゃん」
「もう出てる時点で負けてるよ」
「ぐぽ(勝ち)」とカカポ一羽が小さくつぶやいた。なんか悔しい。
その日の午後、私はリビングの机の上で謎の光景を目撃した。
「……なにこれ」
弟がスケッチブックを広げて、何やらビーズ加護の設計図みたいなものを描いている。
「“加護:授業中に当てられない”……って、えっ、そんなの誰が使うの」
「高校生の俺の気持ちになって考えてみろや!!」
弟は謎の情熱を発揮して、『カカポに“作ってほしい加護リスト』を提出していた。きったねえ字の手書きで。カカポたちはそれを真剣にうなずきながら読んでいる。
「ぐぽぐぽ(なるほど、これは重要)」
「ぐぽ?(メガネが曇らない加護は?)」
「ぐぽ!(おにぎりの具が絶対好み)」
「会話が成立してんのかこれ……」
馴染みすぎてる弟にちょっとイラっとする。
その夜。
冷蔵庫に入れておいた弟のプリンに、例の“加護:冷蔵庫のプリンを食べられない”札が立っていた。
正直に言おう。プリン、食べた。弟のものは姉のもの。姉のものはもちろん姉のもの。
その結果――
「腹痛!? いやマジで加護っていうか呪いじゃんこれ!!!」
私はトイレから出られず、カカポはドヤ顔でビーズをかざしていた。
「ぐぽ(自業自得)」
「お前たち……ぐぽっとか言ってるけど、わりと怖い存在だからな……!」
【今日のワンポイント加護カカポ】
・みかんの皮がスルッとむける
・スーパーのレジで“いいタイミング”に並べる
・なんか鳥に懐かれる
今日はここまで。明日は朝夕投稿します。