10.加護は去ったけど(ぐぽは常駐)
カカポたちの加護ビーズがすべて回収されてから、しばらくが経った。
「なんか、人生がちょっと静かになった気がする」
朝の通勤電車。私は、特に何も起きないことにほんの少し寂しさを覚えていた。
スマホはちゃんとある。鍵もある。誰にも話しかけられない。水たまりを踏んだら靴下はぬれる。静かで、普通。
(ああ、これが……)
(『通常モードの自分』かあ)
職場も、もとどおり。
市川は相変わらず声がでかい(音量加護は切れた)。
山形は副業に戻った(投資じゃなくて、今度は家庭菜園ブログ)。
佐藤元課長は、発酵事業部でいまだに「漬物 is 最高」と言っているらしい。
「……なんか、全部が夢だったみたい」
私はコーヒーを飲みながらぼんやり思った。
でも、家に帰ると。
「ぐぽ~♪」
「ぐぽ!」
「ぐっぽ……(おなかすいた)」
リビングには、カカポたちが常駐している。
「……お前たち、加護、もう禁止じゃなかったっけ?」
「ぐぽ(そうだよ)」
「ぐぽーぐぽー!(加護なし、ゆるふわ常駐!)」
「ぐぽぽ(リンゴ受付中)」
弟いわく、“めずらしいペット”としての登録に切り替えたらしい。
つまり、加護はもう使えないけど――私の家には、カカポがいる。
週末のベランダ。
遊びに来てた茜さんが、TVの前でゴロゴロするカカポに目をやりながら、缶ビールを飲む。
「……結局、いなくならなかったのね」
「うん。加護は消えたけど、カカポは残った」
「アレね。恋人と別れても猫は置いていくパターン」
「それそれそれ! 感覚が近い!!」
次の瞬間、ベランダの洗濯カゴからカカポが顔出して「ぐぽーーー!!!」
「ほんとにやかましいわ!!!!!」
これにて完結、お付き合いありがとうございました!




