1.ユズと魔石と、へんてこ鳥カカポ
「……ユズって落ちてるもんなんだっけ?」
冬の夕方、会社帰りの商店街から公園の途中、私はふと足を止めた。そこには小さいけど黄色くてごつごつしたユズが一個、ぽつんと落ちている。
「……まあ、かわいいし。拾っとこ」
そうつぶやいてコートのポケットに入れると、背後で「ぐぽ?」という、聞いたことのない鳴き声がした。
「……ん?」
振り返ると、そこにいたのは――どう見てもカカポだった。しかも三羽。
なんかSNSとかで見たことある緑色の丸っこい鳥。太ってて、ちょっとへんな顔。
しかも、全員、私の動作をまねして、地面のガムの包み紙とか、小石とかを拾っている。
「いや、それはユズじゃないし、落ちてても拾わなくていいやつ!」
カカポたちは私の声なんてお構いなしに、「ぐふふ」と鼻歌みたいな声を出してついてきた。
その晩。
「……まあ、洗っとこか」
拾ったユズをシンクでごしごし洗っていたら――突然光った。
「うわっ、なにこれ!? なにその異世界導入テンプレ展開!?」
眩しい光が収まったあと、私の手の中には透きとおる薄金色の魔石。ユズはどこいった。
そして、また背後で「ぐぽ?」という声。
「……いやな予感……」
振り返ると、カカポたちが全員洗面器に突っ込んでセルフ水浴びしていた。しかも一羽がボディソープに手(羽?)を伸ばしてる。
「やめてえええええ!!!」
約10分後、部屋はびっしゃびしゃ。
カーペットもびっしゃびしゃ、私の靴下は無事死亡。
そして――
「……カカポ、洗っても魔石にはなってないな……」
カカポたちは床でくつろいでる。魔石どころか、ふわっふわのままだった。
「ぐぽ?」
「ぐぽぽ?」
「ケケケケ(ぐで~)」
そして翌朝。
私の枕元に、小さなビーズ細工が置かれていた。一緒に置いてある紙切れをよく見ると
『加護:雨の日でも靴下が濡れない』
「……うん、地味だけどありがたい」