第一章:この学園には便利屋というものがあるらしい?(1)
「ただいま」
「あ、お帰りお兄ちゃん。今日の散歩は早かったねって、汗くさっ!?」
「ちょっと帰りは走ったからな」
原因は言わない方がいいだろう。
「さっさとシャワー浴びたら? そんなんじゃ女の子にモテないよ?」
「はいはい、分かりましたよ、奈央」
妹の奈央の忠告通り風呂場に向かうのが懸命だろう。服を脱ぎながら、今日会った女の子のことを考えてみた。
「誰だったんだろう? この近くに住んでいるなら、同じ学校かもな……」
憂鬱な気持ちもシャワーで洗い流し、俺は風呂場を出た。
「ジュン、ご飯できるわよ」
「分かったよ、母さん」
俺の母さん、勅使河原由美は妹の奈央と一緒に配膳していた。そしてテーブルには、
「親父、今日は早いんだな」
「初日だからな」
「そうかよ」
俺の親父、勅使河原誠はどうも苦手だ。現実主義で、自分の目で見たものしか信じない。
「そんなことより、今度の学校ではもうボロを出すなよ」
「分かってるよ」
「もう引越しはごめんだからな」
「分かってるって」
「どうだか」
「さぁ、ご飯できたわよ」
「食べよー。お腹ペコペコだよー」
「ジュン、今日は高台公園まで行ってきたんでしょ。どうだった?」
「花見客は下の公園に集中してたから、ほぼ貸切状態だったよ」
「ってことは、下の公園には出店があったの?」
「あったけど、俺は一緒に行かないからな、奈央」
「いいもん。お兄ちゃんを彼氏と間違えられたら、私困るし恥ずかしいよ」
「ああ、そうかい」
「奈央、お前、今年は高校受験ってことを忘れるなよ」
「分かってるよ、お父さん」
「お前はバカだから心配だな」
「うるさい、お兄ちゃんのバカ!」
「明日は遅刻しないようにね。初日から遅刻するとは情けないわよ」
「分かってるって、母さん」
そんな感じで食事は進み、俺は自室に戻った。部屋にはペットのセキセイインコ、ジョンがいる。俺は左の耳たぶを触りながらジョンに話しかけた。
「おいジョン、もう秘密が一人にバレてしまったんだ」
『初日にバレるって最短記録だねー』
「同い年ぐらいだから、明日の入学式で会うかもな」
『それって女子? 男子?』
「女子だ」
『それって可愛かったの?』
「顔はあまり見えなかった」
『つまんねーの』
「いつも思うんだが、お前は本当にセキセイインコか!?」
『そんなことよりさ』
「俺にとっては大事件なんだが」
『明日からナンパするから開放してくれよ』
「……お前は本当にセキセイインコか!?」
『細かいことは気にするなって。明日は早いんだろ?』
「ああ」
『それなら早く寝ろって』
「お休み、ジョン」
俺は左の耳たぶから指を離した。
『ピロロ』
多分お休みと言ってくれているのだろう。俺は明日に備えて早く寝た。
ここまで読んでいただきありがとうございます!
『~ようこそ栄櫻学園便利屋へ~』、略称「よう栄」です。
転校生・ジュンと、ちょっとクセのある仲間たちが巻き起こす、
学園ドタバタ便利屋コメディをどうぞお楽しみください!
本作は【毎週6話更新】を予定しており、全60話完結を目指して連載中です。
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次回は【5月4日(日)】に更新予定です。よろしくお願いします!