プロローグ:桜の根本で出会ったものとは?
春は出会いと別れの季節だとよく言われるが、俺は全くそうは思わない。
親の転勤で毎年のように転校している身だから、春に限らずどの季節でも出会いと別れの季節だ。
そんな俺、勅使河原淳の、二十回目の転校先は櫻坂市の栄櫻学園に決まった。
栄櫻学園は、小学校から大学まで通える超マンモス校。
――もう俺を転校させたくないっていう、親の“願望”の表れだろうな。
入学式の前日。俺は愛犬ブラッドハウンドのオリヴァーと一緒に市内を散歩していた。
櫻坂市では、市の木に桜を指定しているらしく、市内の至る所に桜の木が植えられている。
せっかくだから、少し足を伸ばして、その中でも特に桜が美しいと評判の櫻坂高台公園へ向かうことにした。
『ワンワン!』
「そうか、嬉しいか」
オリヴァーも上機嫌らしい。
頂上には桜の木がずらりと並んでいて、そのすべてが満開だった。
しかも、花見客はふもとの櫻坂公園に集まっているのか、こちらは貸し切り状態。
「こりゃ、すげぇな……」
俺は、あたりを見回す。ベンチの周り、公園の入口、物陰になってるあたり……。誰かの気配がないか、念のため軽く確認しておく。
「……よし」
誰にも見られていないことを確認して、俺は左の耳たぶをそっと触りながら、オリヴァーに話しかけた。
「なぁ、オリヴァー。この町、桜がきれいで、おもしろそうだな」
『へへっ、オイラこの町、好きだぜ!』
「親父ももう転勤する気はないって言ってたし……。今度こそ落ち着けるかもな」
『へへっ、それならもう、ジュンの情けない泣き顔を見なくて済みそうだな』
「うるせぇーな……ちょっと目にゴミが入っただけだっての」
『それよりなんで下の公園でコロッケ買ってくれなかったんだ? オイラ、精一杯アピールしただろ?』
「あんな人前で喋ったら、また厨二病認定されるだろ!?
もう……人に見られたくないんだよ…」
『けど、そこにも人がいるぜ』
「……は?」
唐突なオリヴァーの一言に、一瞬思考が止まる。
言われた方向――桜の木の根本を振り返ると、同い年くらいの女の子が立っていた。
満開の桜が風に舞い、彼女の髪や服にひらひらと降りかかっている。
顔はよく見えなかったが、それでも分かる。めちゃくちゃ綺麗だ。
――ていうか、完全に聞かれてた。オリヴァーとの会話、まるっと全部!
「……やっちまった……ッ!」
俺はその場で頭を抱えてしゃがみ込んだ。
この流れ、見覚えある。転校するたび、何回やらかしてきたことか。
まただ。また“そっち系の痛い人”扱いされる未来が見える。
「あの……」
「わ、わぁあああああああっ!? き、気にしないでくださいっ! さようならァ!!」
ろくに顔も見ず、俺はオリヴァーを引き連れて、全力で坂道を駆け下りた。
「てめぇ、気づいてたんなら早く言えよっ!」
『いやいや、“聞かれなかったから言わなかった”だけだろ?』
「屁理屈かよ……!」
オリヴァーに文句言っても、もう手遅れだ。
(バレてませんように……同じ学校じゃありませんように……)
俺はそう心の中で祈りながら、深いため息をついた。
ここまで読んでいただきありがとうございます!
『~ようこそ栄櫻学園便利屋へ~』、略称「よう栄」です。
転校生・ジュンと、ちょっとクセのある仲間たちが巻き起こす、
学園ドタバタ便利屋コメディをどうぞお楽しみください!
本作は【毎週6話更新】を予定しており、全60話完結を目指して連載中です。
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次回は【5月4日(日)】に更新予定です。よろしくお願いします!