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20、《15歳》悪役令嬢、早速悪役令嬢の地位を得る?!

 ヒロインに王子を攻略してもらうために、クロエは今まで努力してきた。『王子のお茶会』で王子とヒロインを出会わせることが出来なかったから、クロエは今日、かなりどきどきしていた。

 だが、どうだ!

 たかが入学式だけで、もうヒロインは王子を攻略終了したようだ。

 さっきまで「ゲームと同じだ!」と喜んでいたクロエもあまりのあっけなさに、ぼんやりとヒロインと王子の二人を見つめていた。

 入学式は終わったが、王子がヒロインと話しているので、クロエも動きづらいのだ。

 普通に考えれば、二人を置いて勝手に教室に移動しても良さそうだが、クロエは一応王子の婚約者だし、悪役令嬢としては、まだ二人に付き合って、恋のスパイスになった方がいいのかもしれないし。

 少し困っていると、ユーリがクロエを小声で呼んで、

「あまり言いすぎるなよ?」

と言ってきた。

「は?」

 クロエは心から分からないという顔をした。

 ユーリは構わず続ける。

「クロエ、お前の気持ちは分かる。でも、王子の気持ちも考えなよ。男ってのはあんまりガミガミ言われると逆に気持ちが冷める生き物だからさ、適当なところで切り上げるのがオススメだよ。」

「はあ?」

――ユーリは一体何を言っているのだ?

 クロエはイライラを抑えて言った。

「ユーリ。あなたさっきから一体何をおっしゃっているんですの?」

 ユーリが答える前に、クロエの後ろから王子が顔を出した。

「二人で何をしてるの?」

「で……殿下。」

 驚いて振りかえると、いつの間にかヒロインのソフィアと王子の会話は終わっていたようだ。

 ソフィアはクロエに気付くと、満面の笑みでクロエに話しかけた。

「わ!あの時の優しいお姫様だ!ねえ、私たち、子どもの頃、会ったことがあるんだよ。覚えてる?」

――覚えてる。

 現世のクロエの人生は、ほとんどソフィアのために費やされていた。あの頃は、もしかしたらアステッド帝国に行ってしまったのではないかと恐怖し、ソフィアを探す日々だった。そうして『王子のお茶会』で初めてソフィアを見つけた。その後は今日まで見たことはなかったけれど、クロエがソフィアのことを考えない日はなかった。

――ちゃんと覚えてる。

 ソフィアを王子と結婚させて、この国を戦争から守る……そのために今のクロエの人生は費やされている。だから、クロエがソフィアを覚えていないわけがない。

――ちゃんと覚えてるよ。……でもね、私は悪役令嬢だから……。

 クロエはソフィアを睨んだ。悪役令嬢ムーブの出番だ。

「あ、あなた、何ですの?」

 悪役令嬢なのに、クロエは緊張でどもって声もひっくり返ってしまった。

 ソフィアは、てへっと笑った。

「あ。やっぱ覚えてないか。」

「覚えているとかいないとか、そういう話ではございませんわ!あなた、今日は入学式ですのよ!ですのに遅刻して、あんな大声で騒いで!しかも殿下のお隣りに座るなんて非常識、考えられませんわ!それに初対面の王族に、なんて軽々しい態度をお取りになったかご自覚ございまして?それにもう子どもでは……。」

 クロエの言葉はそこまでだった。

「ああ、やっぱり覚えていてくれた。」

 ソフィアがクロエの手を取り、両手で握った。クロエは顔を赤くして、口をぱくぱくさせている。もう言葉も出ないという感じだ。

「ああ、お姫様、変わってないなあ。優しいまんまだ。」

 ソフィアこそ昔と変わらずマイペースだ。

 とはいえ、今、男爵令嬢に過ぎない立場で、公爵令嬢の手を握るというマナー違反も甚だしい行動をとっているのだ。

 ユーリが慌ててソフィアを止めようと一歩踏み出した。

 しかし、その前に、王子が言った。

「そろそろ教室に行く時間じゃないかな?」

 王子の言葉を聞いて、ソフィアが「そうか」とばかりにクロエの手を離した。

 ユーリの安堵のため息が聞こえる。

 王子はいつもの王子スマイルでソフィアに尋ねた。

「ソフィア嬢。私たちは皆、同じAクラスなんだ。君は?」

 ソフィアは両手を挙げて「さあ?」というジェスチャーをした。

「なんせ、さっき来たばかりですので。」

――A組よ。

 クロエはゲームで知っていたが、黙っていた。

 ユーリが資料を調べて「同じクラスだ」と教えてあげた。

「では、行こうか。」

 そう言った王子が手を伸ばしたのはクロエだった。

 クロエは驚いた。

――もうヒロインのソフィアに攻略されているのに、まだ婚約者として立ててくれるの?どれだけ完璧王子なの?

 少し迷ったけれど、クロエは王子の腕に手を置いた。

 ソフィアがどう思うか気になってソフィアを見ると、なぜかソフィアは嬉しそうにクロエに近寄って、王子とつないでいる手と反対側に並んだ。

――違うでしょ!あなたが近寄らなきゃならないのは王子!

 クロエがソフィアをキッと睨むと、王子がクスクス笑った。

――いや、ここ、笑うところでもないし!

 クロエが恨めしそうに王子を見上げると、王子はますます笑うから、クロエがますます怒りで赤くなる。

 クロエは、しばらく王子の腕につかまって歩いていたが、ふと後ろを振り返った。そしてぎょっとした。

 後ろで、ソフィアがユーリの耳元に口を寄せて、何かを耳打ちしていたのだ。

――ええ??なんで?王子を攻略してくれてるんじゃないの?ユーリも攻略するの?

 単純にこのヒロインが人との距離が近いだけだと思いたかったが、すぐに違うと理解した。なぜなら耳打ちされたユーリが真っ赤なのだ。

――ユーリ、分かりやすく攻略されてるね?!しかも、早速、堕ちてるよね、これ。……ユーリ、あなた、チョロ過ぎない?

 教室まで来ると、ソフィアが入り口の貼り紙を見てはしゃいだ。

「ねえ!自由席ですって!窓側の明るい席を取りましょうよ!」

 言うが早いかクロエの手を引こうとしたが、クロエがすり抜けたので、ソフィアは王子の制服を引っ張って、

「お姫様の席を取りましょう!早く早く!」

と、連れていってしまった。

 クロエはあまりの展開の早さに呆気に取られたものの、

――ううん。王子攻略として、正しい行動だわ!

と気持ちを切り替えた。

 気持ちが切り替わらなかったのはユーリだ。

 何を耳打ちされたのか知らないが、まだ赤い顔でぼうっとしている。きっとこれは教室に着いたことすら気付いてないだろう。

 何だかカチンときて、クロエは悪役令嬢の顔で言った。

「ユーリ。あなた、顔が赤くてよ?」

 はっとユーリの意識が戻ってきて、周りを見た。どうやら本当に教室に着いたことすら気付いてなかったようだ。

 クロエはおもしろくなかった。

「何なんですの?ちょっと可愛い女の子に微笑まれたからって、王子の側近がそんなことでうろたえるなどあり得ませんわ。」

 言われたユーリは反省でうなだれたが、クロエは止まらない。

「だいたい、今、あの子、殿下を引っ張って連れていったのに。側近が殿下をお守りしなくてどうするんですの?」

 ユーリはますますうなだれた。

――あ。やり過ぎた。

 クロエは瞬時に反省した。

――これなのよね……。

 『王子のお茶会』でユーリに「意地悪」と言われたことは、ずっとクロエの胸に突き刺さっている。あれからは気を付けて、「意地悪」を払拭しようと常に気を遣っている。なのについつい言い方がキツくなってしまうから不思議だ。

――それでも、あのお茶会以前に比べたら、断然マシなはずよ!だから、大丈夫!!

 クロエは自分で自分を鼓舞した。それで少し浮上できた……と思ったところだった。近くの生徒たちの声が聞こえた。

「怖っ。なんだ、あの高飛車女は。」

「しっ。聞こえたらまずいぞ。公爵令嬢クロエ様だからな。」

「ああ、あのキツいって有名な!」

――え?私、キツいって有名なの?

 クロエがショックを受けていると、教室の中からソフィアが「こっちこっち。」と呼ぶのが聞こえた。

 ユーリが、

「クロエ、教室に入ろう。」

と肩を優しく押したから、クロエはユーリと一緒に教室に入った。

 教室に入ると、ヒロインがクロエの席を指差して「こっちこっち。」と手を振っている。

 ものすごく目立っている。

 けれども、周囲から聞こえる囁き声は決して彼女を悪く言うものではなかった。

「あのキレイな子、元気でかわいらしいわね。」

「さっき、王子と手を繋いでなかった?」

「王子の恋人じゃないのか?可愛い!うらやましい!」

「本当だ!めちゃくちゃ可愛い!」

 男女問わず、ソフィアはかなり好意的に見られているようだ。

 彼女が立つ窓側の席は、ソフィアに似合う明るい陽光と爽やかな風とで、彼女を特別な存在として彩っているようだ。彼女の横にいる王子は、彼女に向けられる好意に嫉妬でもしているのか、笑顔の奥に別の微妙な色が見えるような気がする。

 それを見ていたら、クロエは訳もなくしょんぼりした気持ちになった。

 そう、クロエはしょんぼりしただけなのだ。なのに、また周囲からひそひそ声が聞こえてきた。

「おい、公爵令嬢があの子のこと睨んでるぜ。」

「本当だ。怖っ。」

――ええ?睨んでないよ?

 クロエは悲しくなった。前世で慣れてるとは言え、現世も嫌われているというのはやはり堪える。

――しかも、現世で周囲から嫌われるってのは、命の危険なのに。

 ユーリがクロエの肩に手を置いた。

「クロエ。席に着こう。」

 昔からの優しい微笑みで肩を押してくれる。

――私のしょんぼりに気付いたのかな……鈍感ユーリのくせに。

 クロエは、何だかどぎまぎしながらユーリと一緒に席へと歩き出した。


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