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12、《6歳》悪役令嬢、怒りに任せて就職先を作る

 クロエの口添えで、誘拐グループに所属していたミロジ兄弟も罪に問われずに済んだ。

「それで、今、二人はどうしているの? ちゃんと暮らせてるの?」

 クロエが聞くと、アーヴィンは、「難しいでしょうね。」と答えた。

「罪に問われなかったと言っても、犯罪に加担していたことは確かですから、就職は難しいかと。」

「う~ん。……例えば、弟の方だけでも、孤児院に戻ることは?」

「年齢的には可能だと思いますが……。風評被害で他の孤児たちが今後辛い目に遭うのでは?」

「ああ、そっか。そういうことも考えなきゃならないのか。」

 クロエがずっと考えていた孤児たちの就職先問題は、ミロジ兄弟のおかげで解決待ったなしの状況になっている。

「可哀そうですが。難しい問題ですので。」

 アーヴィンも同じ孤児院出身だけに、思うことは多いのだろう。静かな言葉に陰りが見える。

「う~ん。でもなあ、就職先がないと、また最後は犯罪方向に走っちゃうんじゃない?」

「その可能性は否定できないですね。ですが、本人のしでかしたことですので、責任は本人にあります。」

「まあ、責任とか言われちゃうとね。でも、もし犯罪に走るようなことがあれば、もう本人だけの問題じゃないよ。それって結局、社会のためにも良くないと思うんだよね。」

「社会のため、ですか?」

「だって、犯罪だもの。誰かが被害者になるよ、あの誘拐の時の私たちみたいに。」

 クロエの言葉に、アーヴィンの表情が硬くなった気がした。

――あ。この話題はダメだ。

 騎士団に助けられたから良かったものの、アーヴィンは侍従としてはふがいない思いをしたのだろう。

 どうやら、あの誘拐事件で心を傷めていたのはクロエだけではなかったようだ。

――空気を変えねば。

 クロエは言った。

「少し早いけれど、トレーニングに行きましょう。」


◆◆◆


 公爵家騎士団の訓練場に着くと、二人は勝手知ったる様でトレーニングを始めた。

 少し前までは、毎回たくさんの騎士たちが剣の指導者となり、喜んで嬉々としてクロエに教えようと列をなしていたくらいだが、最近は訓練場に騎士がいないことが多い。

「ごめんごめん。待たせたね。」

 数人の騎士が現れた。

「最近、忙しくてね。クロエちゃんと一緒に練習できなくて。ごめんね。」

「忙しい、とは?」

 騎士は簡単に、領内に悪党が増えたとだけ答えた。

 もちろん、怖がらせないようおどけて、「訓練の時間が減って、まあ楽はできてるけどねえ。」なんて付け足していたけれど。

 悪党と聞いて、クロエは一瞬誘拐の時のことを思い出してぞっとした。あんな小悪党どもだったけ

れど、あんな小悪党でも、体が大きく、すごく怖かった。ああ、もう少しでクロエは死んでしまうところだったのだ。

 町の人たちもあんな思いをしているのかと思うと、クロエは黙っていられなかった。

「町の警護団を作りましょう!」

 まったくの思い付きを、クロエはきっぱりと言った。

 騎士たちが聞き返す。

「け、警護団?」

「ええ。うちの騎士団への入団は厳しいと聞いておりますわ。腕っぷしだけでなく、家柄も問われると。ですが、私立警護団であれば、少なくとも家柄などの外的要因は外せます。そうなれば、やる気と実力がある人であれば、誰でも目指すことができる仕事になります。……例えば、孤児でも。」

 クロエは言いながら、頭の中で構想を描き始めていた。

――そうよ。町を守る警護団よ。日本で見た警察みたいな役割やお年寄りや子どもの安全を守るような仕事内容にして……。

 その日から、アーヴィンとともに、細かいところまで資料にまとめ始めた。まとまったところで公爵に提出すると、公爵が手を加えて事業の形にした。

 広く募集がなされ、ミロジも受験したという。

 合格発表は一週間後だが、ミロジは、

「今年落ちたとしても、また来年受ける。それがダメならまた次の年。オレは絶対諦めないから。」

と、いい顔で笑っていたそうだ。


◆◆◆


 久しぶりにクロエは王城に来た。誘拐事件以来の登城だ。

 あの日、自分も含め、みんなでわんわん泣いたので、顔を合わせるのが少しだけ恥ずかしいクロエだったが、王子は以前と変わらない笑みで警護団のことを尋ねてきた。

「クロエのところでおもしろいことを始めたそうだね。」

「はい。町の安全を町の人が守るのですわ。ですから、町の人たち誰でも受けられる試験制度にしましたの。腕っぷし重視ですのよ。だって、町を守るって気持ちさえあれば、家柄なんて必要ありませんでしょう?」

「なるほど。」

 孤児たちも就職できるとあって、サイラスたち側近候補の三人も、興味深げに聞いていたが。

 話しているうちに、クロエが段々興奮してきた。

「うん?どうしたクロエ?」

とユーリが尋ねる頃には、クロエは絶好調に語った。

「これで町のことは町の人に任せられるから、騎士団は誘拐事件の犯人探しに没頭できるのですわ!」

「え?そっちが目的?」

「当たり前ですわ。あんな卑怯な犯罪が未解決なんて、国の沽券に関わりますわ。」

「ええ?町の人のためでは?」

「町の人のためでもありますのよ?町の人も助かるし、事業としても成り立ちますので、今、他の領地にも広めているところですの。収入になりますのよ。」

 ユーリは、がっかりした顔を見せたが、王子は、

「良かった。クロエ、少し元気になったんだね。」

と頭を撫でてくれた。

 子どもと言えど、王子は異性。異性からのボディタッチにクロエは全身真っ赤だ。

 けど、悪い気はしない。

 悪い気どころか、小言の多い悪役令嬢にまでちゃんと友情を示してくれる王子に、ときめきに似たものまで感じてしまう。

――さすがは人気第一位の攻略対象。前世、喪女だった私でなければ勘違いしちゃうところだわ!

 王子のおかげで、あの日からずっとクロエの心を占めていた隠しルートとアステッド帝国の陰が和らいだ気がする。

 王子はそれ以上何も言わなかったけれど、国でも、誘拐についての捜査は継続している。

 ただ、まだ結果は出ていないという事実が、やはりクロエを焦らせるのだった。

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