カゴの中の一索
パルケンからしばらく山道を行き、中腹にさしかかった辺りにその塔はあった
入り口の扉は閉ざされている
「正面から突入するか?」
暗がりに身を隠しながらガイアが言う
「いや、罠があるかもしれない、それに見張りがいる」
ウィリンが視線で示す
確かに、入り口付近に見張りなのか2人ほど男がうろうろしている
「でも、ずっとここにいても仕方ないだろ」
ガイアの言葉に苛立ちが混ざる
「私が行くよ」
黙ってやりとりを聞いていたユーリが口をひらいた
◇
話は数時間前にさかのぼる
純一達はパルケンの村で宿をとったが、買い出しに行ったはずのエレノアが夕ごはんの時間になっても帰ってこない
「何かあったのかもしれない、俺、探してくるよ」
出て行こうとする純一をウィリンが制す
「お嬢に何が起こったのかわからない以上、ひとりで行動するのは危険だ、みんなで探しに行こう」
◇
「お前らの仲間もやられたのか?」
酒場に聞き込みに行くと、バスタードソードを下げた大柄な少年がいきなり話しかけてきた
「どういうことだ?」
ウィリンが聞き返す
「俺の連れがさらわれたんだ」
彼は苦々しく吐き捨てる
「ごめんなさい、私、見ていたのに、何もできなくて」
酒場のウェイトレスが震える声で言う
彼女の話によると、男が冒険者の少女を連れ去るところを偶然見かけたが、恐ろしくてずっと物陰に隠れていたらしい
「君は悪くないよ、話してくれてありがとう」
ウィリンはそう言うと、酒場のマスターの方を向く
「マスター、犯人に心当たりは?」
「おそらくはギガント、このあたりで悪さをしてる盗賊団だ」
「盗賊団!」
話を聞いていた少年が忌々しそうな顔をする
「今までは村の中にまで入ってくるようなことはなかったんだが」
マスターによると、盗賊団は山の中にある塔を根城にしているらしい
「俺たちの仲間も盗賊にさらわれたのかもしれない、助けるために協力しないか?」
ウィリンの提案に少年は頷く
「俺はガイア、そうと決まったら早く行こうぜ」
「ユーリはパルケンで待ってて、絶対に宿屋から出ないように」
ウィリンの言葉にユーリは首を横に振る
「私も行く、お嬢を助けるんだ」
◇
冷たい床の上でエレノアは目を覚ました
牢屋なのか、施錠された鉄格子で閉じ込められている
まだぼんやりする頭で、エレノアは状況を整理する
買い出しから戻る道中、人気のない道で小柄な男とすれ違った
すれ違いざま、彼が片目をつぶったのを見た瞬間から記憶が飛んでいる
「首痛っ、寝違えたー」
後ろから急に声がしたのでエレノアは驚いて振り返る
◇
牢屋には、冒険者の少女も囚われていた
「あたしはルナ、冒険者なの、お姉さんは?」
「エレノア、わたくしも冒険者よ、あなたも連れてこられたの?」
ルナは悔しそうな顔で頷く
「やられたわ、妙な魔法を使われた、ユニークスキルってやつね」
ルナによると、あのウインクも魔法の一種らしい
「ガイア、助けに来てくれるかなあ、あのね、ガイアって一緒に冒険してるんだけど、幼なじみなの
戦士なんだけど、背高いし力も強くてめちゃくちゃかっこよくて
それでね、あたしガイアのこと好きなんだけど、向こうには全然通じてなくって、なんかもう鈍感っていうか、何考えてるのかわからないっていうか」
エレノアが適当に相槌をうっていると、いつの間にか恋愛話になっている
「やっぱりエレノアみたいに美人でおっぱい大きいほうが男の人は好きなのかなあ
あ、そうだ、あたしの話ばっかりごめん、エレノアはどんな人と冒険してるの?」
どんな人?どんな人かと言われるとなかなか難しい
「そうい」
「まって、何か足音が聞こえない?」
◇
塔の入り口で、ユーリが見張りの男に話しかける
「あの、道に迷っちゃったの、モンスターが出るかもしれないし、怖くて」
「お嬢ちゃん、ここがどんな所だかわかってるのか?悪いことは言わないからさっさと山をおりるんだな」
軽く追い払われそうになったが、もうひとりの見張りが話に入る
「でも、一応女の子だぜ?」
「そうは言ってもなあ、まだ子供だし」
「いいじゃないか、とりあえず入りなよ」
男が扉を開けた瞬間、バスタードソードを抜いたガイアが切りかかる
「ルナを返してもらうぞ!」
◇
エレノアが耳をすませると、確かに下から階段を登ってくるような足音がする
「助けを待ってたって仕方ないし、2人で脱出しよう」
ルナが小声で提案する
「でも、どうやって?」
「色じかけよ!」
「色じかけ?」
意外な方面の作戦にエレノアは思わず聞き返す
「エレノアはおっぱい大きいし、2人でイチャイチャしてたら『うひょひょ♡けしからん、俺も混ぜてよ』って言って牢屋を開けて入ってくるはず、そこを私が魔法で攻撃するわ」
そんなにうまく行くかしら、エレノアは思う
こんな状況でイチャイチャしてたらやべー奴だと思われるだけな気もするけど、まあ、何もしないよりはいいのか
「魔法が使えるのね」
エレノアがつぶやくとルナはひとさし指を唇に当てる
「私が魔法使いなことは秘密にして、警戒されちゃうから」
◇
部屋に男が入ってくるやいなや、ルナはエレノアに抱きついて遠慮がちにキスしてきた
唇にも触れてないし、固いキス
慣れてないんだな、エレノアは必死で演技をする彼女が可愛くなってきた
「ねえ、おっぱい大きいね、触ってもいい?」
棒読みのルナの言葉には答えずエレノアは小さくつぶやく
「ずいぶん可愛らしいキスだこと」
「え?」
きょとんとするルナの下唇にそっと触れてから上唇を軽く吸って唇を開かせ、舌で優しく口の中を責める
「んっ、やっ、あんっ」
ルナが真っ赤になって反応する
「うひょひょ♡けしからん、俺も混ぜてよ」
男が牢屋を開けて入ってきた
エレノアはルナの耳元でささやく
「入ってきたわよ」
「ひゃあんっ!あっ、そうか」
ルナが叫ぶ
「タングルティーザー!」
ガシャーン
部屋の中に雷鳴がとどろき、男を直撃した
盗賊Aをやっつけた!
「やった!あなたすごいのね」
「うまく行ったね、早く逃げよう!」
2人は部屋を出た
◇
「ゴンゾウ!」
純一の魔法で火柱が上がる
「おいおっさん!室内でそんなデカい技使うなよ、こっちも食らったじゃねーか」
巻き添えになったガイアに怒られる
「あ、ごめん、俺これしか使えなくて」
「大丈夫か?エンタイトルツーベース!」
盗賊Aの傷が回復した!
盗賊Bの傷が回復した!
盗賊Cの傷が回復した!
「ヒーラー!お前はなんで敵まで回復してるんだ!」
「ああ、ごめん、本当にごめん」
「戦闘中に落ち込むな!ユーリちゃんが一番まともに戦ってるじゃねーか」
ユーリも短剣で応戦している
「とりあえず上の階に行こう!ルナ達を探すんだ」
◇
エレノア達は階段を下っていた
「なんか首が寝違えてたところ治ったみたい」
ルナが不思議そうに首を振る
「仲間が近くに来てるんだわ!」
「あなたの仲間ってジーザスかなんかなの?」
◇
エレノア達が階下に降りると、そこも牢屋だった
極彩色の鳥が檻に入れられている
「でっかい鳥だねー」
「きれいな鳥ね」
思わず見とれていると、後ろで盗賊の声がした
「お前ら、こんなところで何してる!」
「やばっ、逃げよう」
声がした方と反対の部屋に逃げこむと、エレノア達は大勢の盗賊に囲まれてしまった
◇
純一はウィリンにひのきのぼうで殴られて目を覚ました
「あれ、俺、寝てた?」
2階に上がったあたりから記憶がない
目の前に小柄な男がいる
「あいつの目を見ちゃだめだ!魔法にかかる」
ウィリンは眠ってるガイアもたたき起こす
「いってえ、なんで寝てるのを起こすのにひのきのぼうで殴るんだよ!素手にしろよ」
「あ、ごめん」
「男に殴られるとムカつくから次からユーリちゃんが起こしてくれ」
「ゴンゾウ!」
純一の魔法で小柄な男を倒した!
◇
エレノア達は盗賊に囲まれていた
「魔法は?」
「だめ、数が多すぎる」
「話を聞いてくれれば手荒なことはしない」
盗賊の言葉にルナが声を荒らげる
「無理矢理連れてきてる時点で十分手荒じゃない!なんなのよ!」
「とりあえず、話を聞きましょう」
「あそこに座ってるのが俺たちのボスなんだが、ちょっと見てくれ」
奥の椅子にはオレンジ色のウサギがちょこんと座っていた
「かわいいー!」
「美味しそう!」
2人は同時に声をあげた
◇
盗賊の話はこうだった
ある夜のこと、盗賊団のボスは民家の庭に美しい赤いバラが咲いているのを見て、思わず盗んでしまう
そうしたら持ち主の魔法使いが怒ってボスをウサギに変えてしまった
呪いを解く方法は、彼を心から愛している女性のキス
それで呪いを解くために女性を集めている
またキスか、エレノアはうんざりした
「そのおとぎ話、うちの地方では思いっきり壁に投げつけたら呪いが解けることになってたけど、まずはそっちを試す?」
ルナがウサギをにらみつける
「こんな方法で連れてこられて、キスなんて絶対に嫌!あんたなんて丸焼きにして食べてやる!」
その時、ガイアが部屋に乗り込んできた
「ルナ!助けに来たぞ!」
◇
「ガイア!来てくれたんだ!」
「こいつら片付けるぞ、あれ頼む」
「オッケー!」
ガイアがバスタードソードをかまえると、そこにルナが魔法を放つ
「タングルティーザー!」
雷をまとった刀身で、ガイアが盗賊たちを薙ぎはらう
エレノアは慌てて部屋から逃げてきた
「よっしゃ!もう一発」
「タングルティーザー!」
盗賊達を倒した!
ボスは逃げて行った!
◇
部屋を出ると小柄な男と出くわした
「こいつ」
ガイアが剣を構えるが、小柄な男に戦意はなかった
「盗賊からは足を洗うんでもう許してください、ベビーシッターに戻ります」
「うるせぇ!そんなこと言いにきたのかよ!さっさとどっか行かないと殺すぞ」
ガイアが一喝して、小柄な男は逃げていった
◇
「ガイア!助けに来てくれてありがとう、怖かったよ」
「おい、人前だぞ離れろよ」
「わかったわよ、人前じゃなければいいのね!」
何やらイチャイチャし始めた2人を純一は微笑ましく眺めていた
「お嬢も怖かっただろ、危ない目に遭わせてごめん、無事で本当によかった」
ウィリンの言葉にエレノアが笑顔で応える
「なんでリーダーが謝るのよ、助けに来てくれて嬉しかったわ、みんな本当にありがとう」
◇
「そういえば、向こうの部屋に珍しい鳥がいたのよ」
エレノアの案内で鳥の部屋に入った
なんか麻雀の一索みたいだな、純一は思った
「さっき見張りから奪った鍵で開くかな」
ルナが鍵を開ける
「え、開けるの?」
純一は思わず声に出してしまった
かなりデカいし「ニンゲン、キライ」とかいいながら襲ってきたらどうしよう
鳥はゆっくりと牢から出ると、ぐるりと純一たちを見回して喋りだした
「私は伝説の鳥、イーソーと申します
捕まっていたところを助けて下さってありがとうございました、お礼に好きなところまで運んでさしあげます」
◇
ガイア達はイーソーの申し出を断った
「俺たちは歩いてパルケンに帰るよ、酒場のマスターにも報告したいし」
「ガイア高いとこ怖いもんね」
「余計なこと言うな」
2人は手を振って純一たちと別れた
「またどっかで会おうぜ!」
「ばいばーい!」
◇
純一たちは西の都まで運んでもらうことにした
朝焼けの中、塔の頂上からイーソーに乗って飛び立った
「すごーい!今まで旅してきた森がすごく小さく見えるわ」
「風が気持ちいいね」
エレノアとユーリは楽しそうだ
「ジュンイチ、大丈夫?」
ウィリンが心配そうに純一を見る
純一はひたすら怖かった
超高い!
超速い!
しかもめっちゃ揺れる!
つかまるところもないし、なんか羽がツルツルしてて滑るし
落ちたら100%しぬ
なんでみんな普通にしてるんだよ!
純一はウィリンにしがみついて震えていた
◇
山を越えると海が見えてきた
朝日に輝く海を囲むように街並みが広がっている
「見えてきた、西の都だ」
ウィリンが嬉しそうに言う
「すげえ」
純一も怖さを忘れて美しい景色を見ていた
「すごい、大きい町だね」
「わたくし、海をはじめて見たわ、すごく綺麗」
イーソーは、西の都の近くの草原に純一たちを下ろすと飛び去って行った