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湯けむりイフリート

街道を歩いていると「この先 温泉のまち ヘルハンマー」と書かれた看板があった


それを見てエレノアが浮かれる


「温泉!温泉があるのね!」


「お嬢は温泉が好きなのか?」


純一が聞くとエレノアが楽しそうに答える


「ううん、わたくし温泉に行くのは初めてなの

温泉に入ると、お肌はツルツルになって髪はサラサラになるし風呂上がりの一杯は最高なんでしょう?楽しみだわ」


エレノアの話を聞いてたら純一も楽しみになってきた


「言ってるうちに着くんじゃないかな、ほら町が見えてきたよ」


ウィリンが言うとおり、温泉街のような町並みが遠くに見えた





『ただいま温泉は利用できません』


宿屋に下げられた看板の前で、エレノアはションボリしていた


「ごめんなさいね、温泉が出なくなってしまって」


宿屋の女将さんが申し訳なさそうにしている


「お嬢、仕方ないよ、温泉はまた今度にしよう」


なぐさめるようにウィリンが言う


「あの、冒険者さん、もしよかったら火の山に行って火口の様子を見てきてくれませんか?」


「火の山?」


女将さんの申し出にウィリンが聞き返す


「はい、この町の温泉は火の山の神様の力で湧いているんですが、ここ数日、出なくなってしまったんです

もしかしたら、何か異変が起こっているのかもしれません

もちろん正式な依頼ですのでお礼はお支払いします」


「みんな、どうする?」


ウィリンが純一たちに意見を求める


「行きたい!」

「私も」

「俺もいいと思う」


「俺たちは戦闘員ではないんですが、モンスターは出ませんか?危険がないならお受けします」


「サラマンダーがいますけど、人を襲ったりはしないので大丈夫だと思います、よろしくお願いします」


こうして純一たちは山登りをすることになった





火の山はのどかだった


「いきなり仕事を依頼されたからびっくりしたよ、こういうことはよくあるのか?」


純一はウィリンに聞いてみる


「冒険者なんて便利屋みたいなものだからね、普段は酒場を通すことが多いけど」


そんなもんか、純一は思った


「異変なんてなさそうだけど、どうしたのかしらね、わたくし、早く温泉に入りたいわ」


エレノアは山歩きに慣れてるのかすたすた歩きながら言う


鳥なのかモンスターなのか、山にはいろんな生き物の声が響いていた





サラマンダーがあらわれた!


「うわあモンスターだ!」


「大丈夫だよジュンイチ、彼らは大人しいからほっとけば何もしない」


初めて見たモンスターにビビる純一にウィリンが笑って言う


火口が近づくにつれて周りをサラマンダーがうろちょろするようになってきた


「山にはサラマンダーくらいいるわよ、可愛いじゃない」


エレノアもユーリも普通にしている


純一は田舎の爺さんにクマンバチくらいで騒ぐなと笑われた時のことを思い出した





火口についた


「火口に神様がいるって言ってたけど、それらしいものはいないね」


ウィリンがあたりを見回して言う


「様子を見てこいって言われても、いないものは仕方ないわね」


エレノアも火口をのぞく


純一はこんなに火口に近づいて、まさか噴火とかしないよな、と心配していた


そのとき、火口をのぞきこんでいたエレノアが足を滑らせた


「うおあああああああああああああ!!」


お嬢様らしからぬ悲鳴を上げながら吸い込まれるように火口へ落ちていく


「お嬢!」


純一が叫んだ


「ユーリ、短剣かして」


ウィリンがユーリから短剣を受け取ると、冷静に言った


「俺は火口に降りてお嬢を回復するから、ジュンイチとユーリは町に戻って助けを呼んできて」


「わかった」


純一が答えたとき


「なんか女が落ちてきたけど、なんだこれ、生贄か?」


火口から声が聞こえてきた





火口から筋肉質の赤黒い肌をした大男がエレノアをお姫様抱っこしながら上がってきた

エレノアは驚きと恥ずかしさが混ざったような顔をしていた


「お嬢!無事だったんだね、よかった」


ウィリンが安心したように表情をゆるめる


「生贄とかそういうのやめようぜ、女の子が可哀想なのは好きじゃねぇんだ、やっぱりさ、こういうのは愛がないと」


「あなたが、火の山の神様?」


ユーリの問いに彼が答える


「神様?俺はイフリート、この山に住む火の魔神だ」


彼はエレノアを地上に下ろすと、ぐるりと周囲を見まわした


「ここ数日いろんな山を回ったけど、やっぱり自分ちが一番だな」


「助けて下さってありがとう、あなたが戻ったら、ふもとの温泉にはまた入れるようになるの?」


エレノアがわくわくしながら聞く


「ん、おそらくはそうなるかな、お嬢ちゃんは温泉が好きなのか?」


「わたくし、温泉って初めてなの、今から楽しみだわ」


イフリートが少し考え込む


「うーん、実は今引越しを考えててな」


「え?」


「もう何千年も住んでるんだ、そろそろ違うところに住むのもいいだろ」


イフリートはニヤニヤしている


「そんな」


エレノアはションボリする


「そんな顔するなよ、そうだ!お嬢ちゃんが結婚してくれるならもう千年くらいここに住んでもいいぜ?」


「け、結婚?」


イフリートの言葉にエレノアが驚いた声を上げる


このエロ魔人め、純一は思った

そもそもさっき自分ちが一番とか言ってたじゃないか


「そんな、結婚は無理よ、今日会ったばかりですもの」


「じゃあ、お嬢ちゃんのキスで手を打とう」


「キス?」


だまされちゃダメだ、純一は思った

これは確か最初に無理難題を出してから本来の要求を通す、ナントカ効果とかいう交渉術だ


「キス、キス、キス、キスかぁ」


エレノアはしばらく悩んでいたが、


「私のこと助けてくれたし、よろしくてよ、キスだけなら」


そう言って目を閉じた


イフリートはエレノアにそっと口づけをすると、するりと舌をすべりこませた


「んむっ、んっ、んー、んんんんーっ」


エレノアは声にならない声を上げる


純一は何か見てはいけないものを見てる気分になった

ウィリンがあわててユーリに目隠しする


イフリートの隅々まで味わい尽くすような丁寧で優しく濃厚なキスからようやく解放されると、エレノアは荒い息をしながらへたり込んでしまった


イフリートは満足そうにエレノアを眺めたあとに言った


「じゃあな、続きがしたくなったらいつでも来てくれ、今日はサービスでふもとまで送ってやるよ」


次の瞬間体がふわっと浮くような感覚があり、純一たちはふもとの町に戻っていた


ウィリンが酔ったのか気持ち悪そうにしていた


エレノアは宿に着くまでひと言もしゃべらなかった





「お嬢、温泉行こうよー、楽しみにしてたじゃん」


ユーリがエレノアを誘うが、エレノアはベッドに引きこもって毛布をかぶっている


「あの、わたくし、そんな気分にならなくて、ごめんなさい」


町に戻ると温泉が再び湧いていた

ウィリンが事情を説明すると、宿の女将さんから感謝の言葉と共に報酬を受け取った


純一とウィリンは温泉を楽しんだが、エレノアは火口での出来事がショックだったらしく、ベッドから出てこなくなってしまった


ユーリはエレノアを心配していたが、ほかほかしながら温泉から上がった時は嬉しそうにしていた

いつの間にか売店で温泉まんじゅうと謎のイラストが描かれたストラップまで買っている


「気持ちよかったー、あとでもう一回入ろう」





その夜は町に温泉が戻った記念で祝宴が開かれたが、エレノアはベッドから出てこなかった


持ち帰り用に料理を包んでもらっていると、風呂上がりらしい濡れた髪をゆわえたエレノアがふらりと現れた


「お嬢、大丈夫?」


ウィリンが心配そうに聞くと、エレノアは静かに笑った


「ええ、温泉っていいわね」





「今日の目標はパルケンの村だ、日が暮れるまでに到着できるようにがんばろう」


朝になってウィリンが次の目的地を伝える


エレノアは少しの間切なげな表情で火の山を見ていたが、無言で前を向いた

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