カエルとお茶会
純一が目を覚ますと、エレノアが彼に寄りかかって寝ていた
ウィリンは静かに寝ていて、ユーリは猫のように丸くなって寝ていた
昨日は明け方に村に着いて、宿屋が開いていなかったので木陰で休憩していたはずが、そのまま眠ってしまったようだ
日はかなり高くなっている
純一はエレノアを起こさないように気をつけて立ち上がった
◇
純一が歩いていると、ゴーダとカマンベールがいた
「あ、昨日のおじさんだ!」
「こんにちは!おじさん」
彼らは次の冒険の計画を立てているという
あんなに怖い目に遭ったのに懲りないやつらだ
「冒険するのはいいけど、女の子を危ない目にあわせたらダメだからな」
そう言って純一はその場をあとにした
「まだおじさんって歳じゃないと思うけどなぁ」
ぼやきながら純一が歩いていくと、パン屋さんから美味しそうなにおいがしたので、朝ごはん用のパンを買って戻ることにする
◇
休憩していた木陰に戻ると、ユーリがひとりで短剣を研いでいた
「おはよう、リーダーとお嬢は?」
「おはようジュンイチ、リーダーは宿をとりにいって、お嬢は村の子どもと遊んでるよ」
2人でパンを食べることにした
「ユーリの父親ってどんな人なの?」
純一はユーリの旅の目的である父親について聞いてみた
「母さんが言うにはすごくまじめな人なんだって」
子どもと妻を置いて蒸発するような男がまじめとは思えないが、純一は黙っていた
「母さんはどんな人?」
「ちょっと抜けてるところがあってマイペースな感じ、でも怒ると怖いよ」
「うちの母さんと似てるな、ユーリの母さんは家にいるのか?」
「うん、母さんは家を離れられないから、私が父さんを探してるの」
「父さんが見つかったらどうするんだ、家に帰るのか?」
純一の問いにユーリは少し考えてから答える
「そうだね、母さんのところに帰るよ」
◇
エレノアはノビタ、サイレンスと一緒に野原で花冠を作って遊んでいた
「あ、ジュンイチ!おはよう」
純一に気づいて振り向くと、花冠をつけた栗色の巻毛が陽の光に透けて金色に輝く
こうして見るとまだ少女のようなエレノアが、婚約者の心変わりに深く傷ついていることを思うと純一は複雑な心境になる
「サイレンスのお母様が昨日のお礼にケーキを焼いて下さったの、これからユーリと一緒にお茶会に行くのよ」
エレノアが楽しそうに言う
「ええ、お嬢とユーリだけ?」
純一が不満げに言うとエレノアが笑って答える
「お茶会は女の子だけの特権ですもの」
◇
ウィリンは村はずれの池のほとりで地図を広げていた
「リーダー、パン食べる?」
「ありがとう、もらうよ」
純一はパンを食べながら先ほどのことを話した
「お嬢とユーリだけケーキ食べに行ってさ、ずるいよな」
「いいよ、俺は甘いものは好きじゃない」
そのとき、純一の近くのしげみからとてもデカいカエルが飛び出してきた
「うわぁ!カエルだ」
ビビる純一を見てウィリンが笑う
「池なんだからカエルくらいいるだろ、ジュンイチは虫が苦手なの?」
「苦手だ、リーダーは虫平気?」
「俺が育った村は、ここよりずっと田舎だったからな、虫なんてそこらじゅうにいたよ」
「ここより田舎なの!」
純一が聞き返すと、ウィリンが故郷の話をしてくれた
「ここみたいな街道沿いの村と違って、冒険者を受け入れてないから宿屋も酒場もないんだ、そんな田舎にずっといるのが嫌で冒険に出たけど、結局こうやって自然の中にいるのが一番落ち着くな」
さっきのカエルが池に飛び込んでドボンと大きな音がする
「初めて町に来たとき、村とは何もかも違ってて衝撃的だったな、酒場を見つけたんだけど、最初は入りづらくてさ」
ウィリンが懐かしそうに話す
「そこで声をかけてくれたのが…」
そこまで言って、ウィリンの言葉が止まる
「ああ、これ以上はやめておこう」
前のパーティーメンバーのことを思い出したのかもしれない
「そろそろ宿に行こうか」
そう言ってウィリンが立ちあがる
◇
「ジュンイチがうるさいから、もらって帰ってきたわよ」
宿屋でエレノアがケーキをくれた
この地方の家庭でよく作られるというサクランボのケーキは、酸味が強めで素朴な味だった
◇
「酒場に行かないか?」
夕ごはんのあと、ウィリンの誘いで4人で飲みに行くことになった
酒場には情報が集まると言うけど、ただ単に飲むのが好きなだけかもしれない
ふと空を見上げると、一面の星が広がっていた
明日は出発だ