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真夜中のマーチ

ウィリンの予告通り、その日は森の中で野営をすることになった


「俺とジュンイチが交代で見張りをするから、お嬢とユーリは暖かくして休むんだよ」


ウィリンが言う


「わたくし、野営なんてはじめて!なんだか楽しいわ」


焚き火を見てエレノアがはしゃぐ

ユーリは焚き火でマシュマロを焼いていた


なんかお泊まり会みたいだなと純一が思っていたら、ウィリンが小声で言った


「何か音が聞こえないか?」


がさ、 がさ、 がさ、 がさ、


純一が耳をすませると、確かにこちらに何者かが近づいてくるような音がする


「街道とは反対から聞こえる、モンスターか?」


言いながら、ウィリンがひのきのぼうを構える


がさ、がさ、がさ、がさ、がさ


「みんな下がって!」


ウィリンが言ったそのとき


森の中からまだ幼い少女が姿を現した


「お、お願い、助けて」





少女はノビタと名乗った

こわい思いをしたのか、震えている彼女にユーリがお菓子を渡しながら優しく話しかける


「ひとりで怖かったね、何があったの?」


「友だちを、助けて欲しいの」


彼女の話は数日前にさかのぼる

友人たちと森で遊んでいたら、古い箱に入った地図を見つけた

森の奥にある廃墟に印がついた地図を見て、子供たちは宝の地図だ!と盛り上がり、ついに今夜、大人が寝静まってから冒険を決行することとなった


「大人たちは、廃墟には絶対に近づくなって言ってたから、みんな内緒で出てきたの」


しかし廃墟に着くと、彼女は入り口で置いて行かれたらしい


「1時間たっても出てこなかったら、助けを呼びに行けって言われて、外でまってたの、それで、みんな出てこなくて」


「かわいそうに、怖かったでしょう」


エレノアが同情する


「とりあえず、その廃墟に行ってみよう、ノビタ、案内してくれる?」


ウィリンの言葉に、ノビタは強く頷いた





廃墟はレンガ作りの洋館といった佇まいだった

ツタの絡まった外壁が月に照らされて生き物のような影を落としている


錆びた鉄製の門をくぐった時、洋館の扉が勢いよく開いて男が飛び出てきた


「うわー、こ、こわい!助けて!」


男は恐怖が張り付いたような表情で、純一たちには目もくれずに逃げて行った


「びっくりした、なんだったんだ?」


ユーリが言う


「安心して、ノビタ、お友達はきっと見つけてあげるわ」


エレノアはノビタを怖がらせないように笑顔で言うが、声が震えている


そんなに怖いか?

純一は思った


モンスターとか人魚とかが普通にいる世界で、いまさらお化け屋敷が怖いものなのか?

純一は不思議だった


「中に入ろう」


ウィリンがドアを開けた





中に入ると、吹き抜けの大広間になっていた

ろうそくの明かりでははっきりとは見えないが、かなり豪華な作りの建物だ


5人が中に入ると、静かに音を立てて扉が閉まった


「きゃっ」


音に驚いてユーリが声を上げる


大丈夫か?


そう言おうとして振り向いたとき、純一は床板を踏み抜いた





「いてて」


暗闇で純一は目を覚ました

どうやら頭を打って気絶していたらしい

少し足も打ったようだ


怪我はあとでウィリンに治してもらうとして、明かりがなくなってしまったのは困った


手探りで近くに落ちていたろうそくは見つけたが、火種がない


レンガ作りっぽいし、火事にはならないよね?


「ゴンゾウ…」


小声で叫んだが、やはり勢いよく炎が上がる


「あちち!」


ろうそくに火をつけたらあわてて消火する


壁は石積みだったらしく、割とすぐに火が消えて純一は安心した


辺りを見回すとかなり小さな部屋で、ドアの近くにボロボロの台があり、割れた花瓶が置いてあった

さっきまでは気づかなかったが、遠くで子供が歌っているような声が聞こえる

とにかくみんなと合流しよう

純一はひとつだけあるドアに向かった





次の部屋もやけに小さな部屋だった

壁には肖像画のようなものが飾られていたが、なにやら不気味な笑みを浮かべている

さっきよりも子供の歌声が大きく聞こえる

よく聞くと複数人で歌っているようだ


「敵大将の首を刈れ♪進め、進め、血の雨を降らせ」


肖像画の表情が変わった気がした

純一は横を見ないようにしてドアを開けた





次の部屋にも、さっきと同じ肖像画が飾ってあった

なんとなく、目が大きくなっている気がする

純一と目が合うとニタリと嫌な笑みを浮かべた

次のドアはどこだ

さっき入ってきたドアは?

純一が前に進もうとするとぐにゃりと何かを踏んだ感触があった

下を見るとニヤニヤ不気味に笑う人形のようなものが落ちていた

子供の歌声はどんどん大きくなる


「えいゆうのお出ましだ♪てきたいしょうの♪首を刈れ」


純一は聞かないようにしてドアに手をかけた





ドアの先は真っ暗だった

自分で持っているはずのろうそくの火も見えない

子供の歌声が耳元ではっきりと聞こえてきた


「えいゆうのおでましだ♪てきたいしょうのくびをかれ♪すすめ、すすめ、ちのあめをふらせ♪」


なんなんだ


本当になんなんだよ


自分はこんな所で一体何をしてるんだ


結婚式に行くはずだったのに

あの日は


朝、起きて、そうだ、かなり寝坊してしまって

間に合わないと

確か、由美、由美に

メッセージを送って


そのあとどうした?

家をでるときに、指輪のことを思い出して、

指輪をつけようとしたけど


なかなかうまく入らなくて


イライラして


たしか、駅までバイクで、バイクに乗って


ついたのか?

駅に着いた記憶がない


何があった?


俺は


急に誰かに手を握られた


「ねえ、こんなところで何してるの?」





純一の手を取ったのは幼い少年だった


「俺、俺はちょっと迷っちゃって、君は?」


「僕はリコッタ、遊びに来たんだ」


彼は純一の手を強く握る


前方にドアが見えた


「行こう」


リコッタがドアを開けた





ドアの先はやけに広い空間だった

部屋の真ん中では思い思いに踊っている者たちがいて、部屋の隅には座り込んでる何かがいた

煙なのか霧なのか、もやがかかってはっきり前が見えない


「こっちこっち」


リコッタが手を引いて次のドアを開ける





ドアの外は森だった


リコッタに手を引かれるままに森を抜けると海に出た、長い階段が暗い海の中に続いている


やはり濃い霧のような何かがたちこめている


「落ち着いた?」


リコッタが歩みをとめて純一の方を向く


「え?」


「さっきはすごく不安そうにしてたから」


「ああ、大丈夫だよ、ありがとう」


「迷ったって言ってたけど、君はどこに行きたいの?」


「俺は」


純一は言葉につまる


「帰りたい、けど」


どこに帰るのか、仲間のもとか、現実世界なのか、そもそも自分が帰る場所なんて本当にあるのだろうか


リコッタはしばらく無言で純一の顔を見た後、小さく答えた


「わかった」


リコッタは再び純一の手を引いてドアを開ける


「帰り道なら、こっちだ」





ドアの先は食堂だった

誰も座っていないのに人の気配がする

そこここで話し声がする、なじみ深い言葉のような気がするのに、何を言っているのか理解できない


べたっ、べたっ、べたっ、べたっ、


後ろから何かが付いてきている


「振り返っちゃダメ」


リコッタが言う


粘っこいものに背中を引かれるような嫌な感触がする


ざらりと何かが純一の首すじを撫でていく


「振り返っちゃダメだ」


リコッタが純一の手を引いて、ドアを開ける


「ジュンイチ!無事でよかった」


ドアの先にはウィリンがいた





「リーダー!怖かったよー、エンタイトルツーベースしてぇ」


「おお、どうした?とにかく怪我したとこ見せて」


ウィリンに回復してもらう


「リコッタも、助けてくれてありがとう」


リコッタにお礼を言う純一を見て、ノビタが震える声で言う


「おじさん、誰と話してるの?」


「え?」


純一はおじさんというワードにダメージを受けつつリコッタの方を見る


リコッタはイタズラっぽく笑う


「ちゃんと、迷子は送り届けたからね」





「さっきは急にいなくなったから、心配してたんだ」


ウィリンが言う


「え?確か床が抜けて」


純一は床を見てみるが、どこにも穴は空いてなかった


「リーダー、怖いから手つないでてもいい?」

「ええ?」


ウィリンが本気で嫌そうな顔をしたので純一は少し傷ついたが、手をつないでもらった


「奥から子供の声が聞こえるんだ、行ってみよう」





奥の階段から地下におりると、子どもたちの歌声が大音量で聞こえてきた


「なんだこれ、うるせえ」


純一はもう歌詞を覚えてしまった


「あっちから聞こえる」


ウィリンが歌声のする方に進むと、曲がり角で男と出くわした


「誰だ!」


ウィリンがひのきのぼうを構えると、男は悲鳴をあげた


「いやあああああああああ!おばけ!」

「うわあなんだ急に」


いきなりの大声にウィリンがびっくりする


「さっきから怖いことばかり起こるし、あいつらはなんか気持ち悪い歌を歌うし、もう嫌!もう悪いことはやめるから許して!」


男は早口でまくしたてるとドタドタと逃げていった


「何だったんだ?」


再び声のする方に進むと、かんぬきのかけられた扉があり、子供達の歌声はその中から聞こえていた


なんと、子供達は閉じ込められていた!


ウィリンがかんぬきを外すと、中から子供たちが出てきた


「ゴーダ!カマンベール!サイレンス!」


ノビタが笑顔になる


彼らの話によると、洋館を探索中に男たちに捕まって閉じ込められていたという

怖さを紛らわせるためと、自分たちの居場所を知らせるためにみんなで歌っていたらしい


「おそらくは奴隷商人だな、宝の地図で子どもをおびきよせて、売ってしまうつもりだったんだろう」


子供たちに聞こえないようにウィリンが言う


子供たちを捕まえたあと、彼らはこの屋敷で何かとても恐ろしい目にあって、子供を残して逃げ出したのだろう


「とにかく助かってよかった、俺たちと一緒に村まで行こう」





純一が洋館から出ようとした時、リコッタの姿が見えた


「助かったよ、ありがとう」


「いいよ、君がこっちに来たくなったら、そのときは一緒に遊ぼう」





「すっすめー♪すっすめー♪ちーのーあーめをふーらせー♪」


子供達と一緒にミッドブルーの村まで行くと、空はもう白み始めていた

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