勇者降臨
短いですが読んでいただけたら幸いです。
アレス王国は大いに盛り上がっていた。朝から屋台が立ち並び、国民は未来の王国に期待し談笑をしている。歌劇団の踊りと歌唱も相まって、騒がしくも居心地の良い雰囲気にあふれていた。
「おいおい、待ち遠しいぜ。はやく勇者様のお顔を見てみたいな!」
「これで七人目、協会の予言によれば最後の勇者だ。きっとだれよりもやさしい勇者さまに違いない!」
「いいえ!きっとだれよりも勇ましく勇敢な勇者様に違いないわ!」
アレス王国の兵たちが訓練場にて各々の理想を語り合う。
「お前ら、期待するのはいいが、訓練はさぼるなよ。それに必ずしも理想の勇者が生まれるなんてことはないんだ。後悔したくないならあまり期待しないことだ。」
ラルク騎士隊隊長ラルク・ブランドは冷静に注意を促す。楽しいムードを壊された隊の皆が苦笑を顔に浮かべている。いつものことなのだろう、慣れた面持ちで会話を続けた。
「隊長はいいですよね。勇者様の降臨を目の前で見れるんだから。」
「そうですよ!いくら神聖なことだからって僕たちみたいな一般兵は立ち会えないなんてショックですよ。」
「そうだそうだ!!」
兵たちからは不満の声が上がっている。ラルクは不満の声を無視して口を開けた。
「私は準備があるためもう行く。わかっていると思うが降臨の際に襲撃される可能性を考慮して警備を厚くするよう指示があった。お前らの大好きな勇者様を守るためにも最後まで気を引き締めろよ。」
そういって背を向けると兵たちはため息を漏らして苦い顔をしていた。
時は進んで夜。降臨の間にて勇者降臨の儀が執り行われる。降臨の儀は神聖であるために限られた者のみが立ち入りを許可されている。そこには神官や王に王妃、王子や王女。宰相や大臣。騎士隊のラルクを含めた隊長核の者や王宮に仕える宮廷貴族の中でも最も影響力を持つ四大貴族がいた。降臨の儀の最中は神聖であるためにたとえ王であったとしても必要な時以外声を発することも許されない。許されているのは神官のみである。それゆえに重苦しい雰囲気が漂っている。外のお祭り騒ぎと比べると雲泥の差だ。
「時間です。皆さまお祈りを」
重苦しい静寂のなか、神官が口を開いた。それを聞くとこの場に立ち会っている者全員が膝をつき手を合わせた。すると空気が変わる。重苦しい雰囲気からピリピリとした嫌な雰囲気に変わった。
「顔をあげなさい」
静寂の中で耳に刺すような、しかしどこか心地の良い声が響き渡る。顔を上げるとそこには神・スペルビアと布に包まれた乳児がいた。しばらくの沈黙の後スペルビア神が言う。
「出迎え感謝いたします。お伝えしていた通りわたくしの子を授けます。名はプライド。不自由のないように育てなさい。アレス王国の王、エルド・アレスよ、前へ来なさい。」
エルド王は立ち上がりスペルビア神の前へ緊張した面持ちで歩く。前に立つとすぐさま膝をつき口を開いた。
「わたくしがエルド・アレスであります。スペルビア神より御子を授かれることを心から感謝いたします。必ずや不自由のないように育てるつもりであります。」
それを聞くとスペルビア神はほんのりと笑みを浮かべている。
「ええ、頼みました。神官よこちらへ」
神官はスペルビア神に近づき乳児を抱き上げるとエルドに授ける。不安げな表情をする乳児を眺めているといつの間にかスペルビア神は姿を消していた。エルドは立ち上がり声を大にして言う。
「勇者プライドを授かった!しかし我々がやることは何も変わらない!これまで通り国民のために考え、戦い、そして守ることを再び私に誓え!!」
一同は奮い立ち、誰よりも王に誓うという思いを胸に、これまた大きい声で言う
「はっ!!我々は誰よりも民を思い、守り、戦うことを王に誓う所存であります!!」
「おぎゃああああああああああ」
勇者プライドは驚いて泣いていた。
読んでいただきありがとうございます。一応確認はしたつもりですが、誤字脱字があったら報告してくださると助かります。また感想等もお待ちしております。こんなところが良かった。逆にここが駄目だったなど、辛口な意見もお待ちしております。