6 1つ目の村 (1.5)
私がこの世界に来て最初の頃は本当に何も分からなかった。
知っていたのはこの星の名前、ステータスの見方。
何処を見ても木ばっかり。まぁこれは私が頼んだからいいとして。
メルディスが全属性にしたとは言っていたけど魔法の使い方(イメージよ〜)すらよく分からなかったし、最初はそれは大変だった。
「とりあえず水は確保しないとね…、水、蛇口っ!?」
ドバドバドバドバッ。
「ぎぁ!?っちょ、まっ、え!?これ、っ止まってぇ!!」
そのまま体感的に十分くらい大量に水を出し続けた。
服はビッショリに濡れ、足元は泥だらけ、なんとか蛇口を閉めるイメージで水が止まったのはよかったが、酷い目眩に襲われ近くの大きな石にへたり込んだ。
「……ステータス。」
ブンッと表示された画面を見ると魔力が切れかけていた。
「なるほど、だから体が。」
にしても十分程度水を出し続けただけてコレか。
まぁ普段あんなに水を出し続ける事も早々ないか…が言うには魔力回復は上げてあるって言ってたし。
使ってれば魔力は上がってくって言ってたからボチボチやってくしかないかなぁ。
「さて。少し戻ってきたかなぁ。とりあえず服なんとかしないと…」
イメージ、イメージ……温風?……乾く…
「ドライ。」
ブオン。
足元から頭上へ乾いた風が通り過ぎるとびしょ濡れだった服や髪はしっかり乾いていた。
「うーん、やっぱり汚れはそのままか」
足元は乾いた泥がしっかり残っていた。
汚れ落とし…キレイキ○イ(笑)……
「クリーン。」
スルンと全身を撫でた感覚があり足元を見ると泥がキレイに無くなっていた。
「?全体的にさっぱりしたかも。」
これはいい。どう見ても森?の中だし、お風呂も入れないなんて日本人にはメッチャ辛い。
イメージと言った通り、特に何か言わなくてもイメージする事でも魔法は使えた。
ひと通りやってみて使えたのは火、水、土、風、木、聖、闇
ステータスには使える様になった物から属性欄に増えて行った。
聖魔法は擦り傷なら治せたが、深い傷は治すのに数日かかった、闇魔法はいまいち使い方が分からない、影が伸びて、1メートルくらいのでっかいウサギが呑み込まれたのを見た時は呆然とした。
そこで初めてアイテムボックスの存在を知った。
時間経過が無いことも、混ざらず出したい物を思い浮かべるだけで取り出し可能なのも、寧ろ元の世界より便利なのでは?と戦慄した。
「さて……ステータス」
眼の前に現れた画面に目を通す。
あれから203日過ぎた。
暦が分からないから正確ではないがこちらにも一応四季があるらしい。
私が来た時、程よく暖かかったら油断してたら20日後にいきなり真冬の寒さになった。
結界の中で寒さで目覚めた時に自分の息が真っ白な事に驚いたが、中に温風を出して冷えた体を温めた。
ドライヤー代わりに覚えた火魔法の応用が役にたってよかった。
体温が戻った所で結界を全身に纏わせたま洞窟から出ると、一面の銀世界になっていた。
「…まるで別世界…………いや、そういえば異世界だった。」
それから二月ほど雪が降ったり止んだりし、冬に入る前に使えるようになった、鑑定のおかげで食べられる物とそうでない物、毒がある物を避けることが出来たのは本当に良かった。
手当たり次第、食べ物を集めていたおかげていきなりきた冬にも対応出来た。
冬の間は生き物はあまり活動しないのか、雪うさぎ(サイズはそんな可愛らしくはない)を時々狩って探索途中で見つけた岩塩や、醤油の実で簡単に味付けをし、焼いて食べたり干し肉にして凌いだ。
4ヶ月程たった頃、初めて人を殺した。
多分盗賊、もしくは人攫い。
冒険者風で人の良さそうな6人組が近づいてきた。
久しぶりに見る人に少しほっとしてしまったのだろう。
あまり警戒せずに適当に話して、油断していた。後ろにいた7人目の男に殴られ、気を失ってしまった。
「……っ、…あ…?」
「お?起きたぜ」
鈍い頭の痛みに、眉をしかめながら目を開けるとさっきまで話をしていた男が円に跨りながらニヤニヤと見下ろしていた。
「起きたのかよ、騒ぐとうるせえから口縛っとけ」
「いいじゃねぇか、こんな森じゃいくら騒いだって一緒だろ?どうせ売っちまうなら楽しもうぜ」
ガンガンと痛みを訴えだした頭のお陰で少し脳がはっきりしてきた。
うる?
売る?
何を?
ビッ
服を胸元から裂かれて、ブラが露わになる。
ヒューっと男達の口笛が聞こえ、一人が腕を頭の上に拘束してきた。
「なんだぁ?こりゃ」
「燃えろっ」
「あ?…っうあ!?なっ、」
ボウッと下半身の衣服から炎が勢いよく上がり、一瞬にして全身を覆い尽くした。
ぎぁぁぎゃぁと叫びながらのたうち回る男を見つめ
「燃えろ燃えろ燃えろすべて燃えてしまえっ!!」
「っ、ひぃっ!!!」
「魔力持ちだっ、」
「っクソガキがぁっ!!ウィンドカッター!!!」
「燃えてなくなれ!」
逃げ回っていた残りの6人にも一瞬にして炎が身を包み一瞬の悲鳴とともに崩れ落ちた。
わたしの記憶もそこで途切れた。
どのくらいたったのか、目をあけると地べたに倒れ込んでいた。
ぼうっとする頭で周りを見渡す。
なんでこんな所で寝てるんだっけ…
起き上がり何となしに自分の体をみる
ぞわりと駆け上がった気持ち悪さと共に、記憶が蘇る。
思わず裂かれた服を寄せて周りを見ると誰もいない。
ホッと息をつくと近くに灰色の砂があった。
『燃えろ燃えろ燃えろすべて燃えてしまえっ!!』
『燃えてなくなれ!』
服をよせた手が震える。
周りの確認は出来なかった。
殺した。
私が、燃やして、殺した。
迫り上がって来たものを何度も何度も吐き出した。
長い時間、何度も何度も吐いて泣いて。
水分も枯れたのか体に力が入らなくなり、どさりと横に倒れた。
何時間たったのか、何日たったのか、
このまま、死ぬのかな。
グーーーーーー。ギュル。
「は。……ははっ。」
「ふっ、うぅっ。っお腹、すい、た。」
涙は出た。
お腹が鳴った。
吐きすぎて胃が収縮しただけかもしれない。
でも
生きてる。
生きたいって言ってる。
私は生きていたい。
割り切れ。ここは平和だった日本じゃない。
生きたいなら、死にたくないなら、戦う事をちゃんと覚えろ。
ここは小説の中じゃない。
異世界だけど現実の世界だ。
危機に現れる勇者や王子様なんていない。
相手が殺しにくるなら、殺されたくないなら、覚悟をもて。
視界の端に、飛んでくる石が見えた。