1 木霊する悲鳴
「あー、やば気持ちいぃ~」
ぐっと首を反らし、上を見上げれば満天の星。
少し熱いくらいの湯の水面に腰まである長い黒髪が揺れる。
「まさかこっち(異世界)で温泉に入れるとは…」
じっと夜空を見上げる。
空気がある。
空があり、太陽があり、星や月がある。
(まぁ何故か月は2つあったけど…)
ぱしゃりと顔を洗う、ちゃんと生きている。
「さて、上がろっと。」
ザバッと大きな音を立てて上がると後ろからバサリと音がした。
振り向くと、服を着ていない、仁王立ちのブルーの6つの目が此方を凝視してた。
「ぎ……」
「ぎ?」
「「「ぎぃやぁぁああああぁぁぁああっ」」」
悲鳴?は、びっくりするくらい野太かった。
夜の静けさにパチパチと焚き火の音と、グスグスと鼻を啜る音が響く。
「いいかげん、泣き止みませんか……」
「グスっ」
「スンッ」
デカイ男二人がハラハラと涙を流しながらグスグス、スンスンと泣くのを横目に、目の前のさらにデカイ男と向き合う。
「……どちらかと言うと、泣くのは私の仕事かなと思わないでもないんですが……。」
「まぁ……普通であれば……なぁ……」
何故か憐れみの目で今だグズる二人をみる男を見ながらつい先程の事を思い出す。
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「ぎ…」
「ぎ?」
「「「ぎぃやぁぁああああぁぁぁああっ!!!」」」
この世の終わりとも誤解されかねない悲鳴(?)を上げる男三人に思わず耳をおさえる。
突然の騒音にバサバサと鳥たちがとびたった。
「うわ、うるさっ!?」
バッと後ろを向き此方を見ないように、わぁわぁと未だに悲鳴?を上げている三人にどうしたものがと考える。
3人とも裸で、タオルを手や首にかけている。
多分温泉に入りに来たんだろうなぁ……
ええっと……
「よろしかったら一緒にどうですかー?」
とりあえずお誘いして見る。
「「ぎゃーー!!!???」」
「服を!!服を着てくれっ!!」
なるほど?
立ち上がったままの自分を見る。真っ裸である。
ゴシゴシと体を拭き、キャミソールとショートパンツを穿く。
「着ましたんで、どうぞー。」
「あ、ああ、すまな……」
「「っ、ぎゃーーー!?」」
安心したように振り向いた男の言葉が途中で途切れ、残り二人も振り返るとまた悲鳴をあげた。
騒がしい男達である。
「そんな肌着だけじゃなく、ちゃんと服を着てくれ!!」
「え、イヤですけど。」
「はぁ!?」
「だって暑いし。」
「若い娘が肌を見せるものじゃない!!」
若い……まぁ、確かに。
此方を見ないようにしながら叫ぶ男を見ながら近くに置いていた大きめの布を肩に掛ける。
「いいよー。」
「……、はぁ。……おい、大丈夫だ」
声をかけられた二人が恐る恐る此方を見ると、安堵したように大きく息を吐いた。
「でもさ、私が言うのもなんだけど、そちらこそ御立派なもの隠さなくて大丈夫?」
「「ぎゃぁぁああああ!!!」」
この数分で何度目かも分からない悲鳴が響いた。