79.ハヴェルさんって……。
「お、美味しいですーーー」
「…………よかったですね」
身綺麗になったハヴェルさんとエル、ノアと私でお昼ご飯です。
ハヴェルさんが食べながら号泣してます。
お昼はカルボナーラもどきとサラダもどき、チキンコンソメスープもどきです。あくまでもどきなんだけど、ランチセットみたいだよね!
ハヴェルさんの話を聞けば王宮で働いていた時は日本で言う社畜以上の勤務時間で、それは仕事の出来ない貴族の所為。仕事を終えれば手柄は上司のもの。黒持ちと蔑まされ、心が病んでいったらしい。
辞めたくても辞められなくて、エルが助けてやっと辞める事が出来たらしい。
でも辞めてしばらくはぼーっと過ごしたが、王都にいたくないと宛てもなくふらふらしていたらしい。これからどうやって暮らしていこうかと思っていた所にエルから手紙が飛んできて、そのままツィブルカにやってきたみたいです。
食べるのにも苦労していたようで、飲まず食わずでどうにか乗り合い馬車に揺られながらやってきたとの事。
でも王宮でそんなに働いていたのにお金がないって……どう見ても散財しているようには見えないし。王宮で虐げられたりもしたみたいだし、なんか王宮での勤務のアレコレがあやしい気がするのは気のせいだろうか?
「ちゃんと働いてくれるなら衣食住保障します。美味しいご飯も。小腹がすいたら厨房に行けば何かあります。住む部屋ももう用意されているでしょう」
ううう……とハヴェルさんがマジ泣きしている。
「エル……」
「ハヴェルの事は気にするな」
エルは気にしないでバクバクとご飯を食べ、おかわりしている。マイペースすぎじゃない!?
「泣き落としみたいな真似をしているが図太いししぶといから大丈夫だ」
エルが私の方を見て苦笑いを浮かべている。
「リーディア様のお役に立てる様頑張りますね!」
あ、……本当に大丈夫そうっぽい。よよよ……と泣いていたのがキリッとした。演技懸かってるわ。
「しかし、本当に美味しいです。食べた事のない見た事のない料理……それに見た事のないリーディア様の隣の……」
「あ、ノアです。よろしくね」
「ノアでーす」
ノアが口をあけて喋ったが勿論ハヴェルさんには聞こえていないはず。
「エルー。王都に行く? っていつー?」
ノアがエルに直接聞いていた。
「…………二日後、位……かな」
「うん? 何が?」
「一度俺は王都に行かなきゃならないんだ」
ハヴェルさんが聞き返していたが、別にノアと会話している様には聞こえてないよね?
「何日位? どれ位? ディアが寂しい寂しいって言ってるのにー」
「あ?」
「ちょっ! ちょ……ノアっ!」
やーめーてー! いや、本当の事だけどー!
「な、なんでもないですー! エルも! 今日の午後はソーセージ作りだから! バッグにいっぱい詰めてって!」
「ああ」
くすりとエルに笑われた。
そのエルと私をハヴェルさんが驚愕の表情で見比べている。どうかした?
「エル…………まだリーディア様は子供の年だぞ?」
「知っているが? 洗礼式まで二年ある。それが?」
「エルはリーディア様を嫁に……あ、いや、エルが婿になればいいのか?」
「は? なんでそうなるの!?」
「お前は何言ってるんだ?」
なんかもうわちゃわちゃだな!
そしてテオドルがささっとハヴェルさんの側に寄って行って耳打ちしている。一体何を話しているのか?
「あ、リーディア様、私の事はハヴェルと呼んで下さいね」
「あー……うん、分かりました」
エルも呼び捨てだしね。ハヴェルさんも使用人、になるの? うーん……エルのお友達が使用人かー。
「私は何をすれば良いのですか?」
「ツィブルカの表ではなく裏の管理、かなー?」
「…………は?」
あはは……意味分からないよね!
「まだ資金もないですし、後でゆっくり説明します。今日はまず! これからソーセージを作らなくてはならないので! あ、テオドル、ソーセージ工場と醤油蔵、孤児院の移転が出来る土地があるか調べておいて下さい」
「かしこまりました」
「ハヴェルには使用人達を紹介したいけど、今日の午後は待ちに待った予定が詰まっているので後にしますね。せっかく来てくれたのにごめんなさいね」
「いや、それは構いませんが……ソーセージって何です? 他にも色々聞きたい事がありすぎるんですが……」
ハヴェルがそわそわしながら料理を見て、ノアを見て、エルを見て、私を見る。いかにも興味津々といった目でキランと光っているのが怖い。
「ハヴェル」
「分かってますー」
エルがじろりとハヴェルに視線を向けるとハヴェルは肩を竦めた。何か言ってあるんだろうね。余計な詮索はするな、とか? まぁね……何しろ私の秘密がヤバすぎるからね。
「ノア様、お口をお拭きしますね」
ダナが微笑ましい、と言わんばかりのほわほわした顔でノアの汚れた口を拭いてあげている。ノアも大人しくされるがままだ。可愛い……。
「……黒に忌避感はないんですか……?」
ハヴェルがダナを見ながら聞いていた。
「……はじめはありましたが、ノア様はとてもお利口さんですし可愛らしいですし」
「ありがとーー」
ノアが嬉しそうにダナにすりっと顔をダナの手に擦り付けるとダナがにこにこしている。
「……そうですか」
ハヴェルはぎゅっと眉間に縦皺を刻んで何かを考え込んでいる様子だった。




