60.孤児院です。
「いらっしゃいませ、リーディア様」
孤児院に着くと子供達と職員がずらりと並んでお迎えされた。
孤児院は領都の東外れの方に位置していた。馬車が広場からこちらまで移動してきて帰りはここから馬車で帰る予定らしい。なるほど。
広場辺りから段々と外れの方に歩いてきたという事だ。広場辺りでも人通りが寂しいような感じだったのに、孤児院に近づくにつれさらに廃れている雰囲気になっていくのだからやるせなくなってくる。
一応テオドルに確認したら公費で寄付はしているらしいが年々減っているとのこと。父が減らせと、いらないというのをテオドルがどうにか止めているらしい。
父が害悪でしかない件はどうしたらいいんだろうね?
「本日は食材を頂きましてありがとうございました」
「少しばかりで心苦しいのですが……」
ごめんなさい、と謝りたくなったけれど、謝るのも違うんだろうな。
子供達は痩せっぽっちで皆つぎはぎの簡素な服を着ていた。建物もボロい。……うちの館も古めかしいんだからそりゃ孤児院はそうなるか。ホント父よ……。
領地がこんな状態で王都ではどうやって暮らしているのだろうか? 謎だ。私には今のところ関係ないけども。
並んでいる子供達は下がニ、三歳位から上が一〇歳位だろうか? もっと上の子は働きに行っているらしい。ただ、冒険者だったり、下働きだったりするが給金はよくないとの事。まぁそうだろうね……。ツィブルカ全体が貧困なんだろうから。
ん?
なんか子供達がチラチラびくびくしている。何? と思ったら視線が私じゃなくてエルの方をチラ見しているのだ。
あー……なんか刷り込みされているのか……黒は魔獣の色だとかそんな感じなのかなあ?
エルも子供が寄ってくる事はない、みたいな事言ってたもんね。
エルがちょっと動くだけでびくっ! と子供達が反応している。
「この中で冒険者になりたいなーって思っている子はいるかな?」
手をパン! と叩いて注目させ聞いてみると男の子四人が恐る恐る手を挙げた。
「こっちのお兄さん、なんと銀級冒険者です!」
エルの腕を取り紹介すると子供達は目を大きく見開きエルに注目した。手を上げた四人は目がキラキラしている。
「銀級の冒険者に聞きたい事ある人ー?」
「はい!」
はい、はい、と冒険者希望じゃない子も手を上げている。
「エル、お願いねー」
「あ、……?」
「私は孤児院の中見てくる。子供達に体を作る基礎とか、冒険者に必要な事とか、教えてあげて?」
「いや、俺、護衛……」
「護衛の騎士いるから大丈夫」
よろしくね! とその場から離れ、職員と孤児院の中に向かう。ちょっと振り返るとエルは子供達に囲まれていた。
……冒険者銀級っていうだけであんなに目をキラキラさせるものなんだ?
孤児院の外側もこの建物に人が住んでるの? って感じだったけど中もやはりヤバかった。床や廊下は木が腐って穴が空いたのかあちこちいかにも応急処置という感じで無造作に打ちつけられている。
ペコペコと床が沈む。壁は薄汚れているし、角には蜘蛛の巣みたいなのがかかっている。
……これ、……ソーセージ工場と醤油蔵作る時に孤児院も移転させよっかな。子供達がこんな所で育つなんて……。
私はどうやら一応貴族で、うらぶれてたけど綺麗な所で過ごせているし、食べ物も困ってない。……内情は知らないけど。
でもこんな所に生まれ変わっていたら絶望したかもしれない。
食事は行き渡っているか聞こうとしたけれど、どう考えても行き渡ってないよね……。
どうしたらいいかな。補助出すにも父が打ち切ろうとしているのに。それに私が変えようとしてもまだ収入も何もないのだ。
早急に何か資金作りをしなくては。
そして裏帳簿が必要だね。コレ。
エルを通じて国にはきちんと税を納めるつもりだけど、父に対して内緒にしなくては。
父がどんな人物なのか私は知らないから……理不尽な人なんだろう事は分かるけど。
父に内緒で街を、ツィブルカをどうにかって……どうしたらいいのか。裏帳簿作ってどうにか出来るかもしれないが人の噂を止めるなんて出来ないだろうし。街を変えていったら絶対知れてしまうだろうしね。
「あの、リーディア様? ご不快でしたか……?」
難しい顔で考えこんでいたからか、孤児院の職員が恐々と声をかけてきた。
「あ、ごめんなさい……違うの。どうしたらいいか考えていただけなの」
職員も疲れ果てている様子だ。子供達の為に奮闘しているのだろうなと分かる。
「……孤児院に畑はありますか?」
「畑? いいえ」
「手っ取り早く畑を作ったらいかがでしょう? 子供達でも出来る事があればやる気も出るし。幸い敷地はあるようですし」
「……道具が買えませんし、種も……」
職員が項垂れる。買えない、……でしょうね。
「道具や種は私が用意させます。ダナ、道具となるべく手間がかからなくて早くに収穫できるような野菜の種を数種類用意して届けてもらうようにして」
「かしこまりました」
ダナがこくりと頷いた。
「リーディア様」
職員が深々と頭を下げた。そして中々頭を上げない。
いやいや! 元は父が悪いんだから!




