3.魔法が使える世界らしい。
おはようございます。目が覚めました。只今夜中みたいです。目を開けたんだけど部屋が暗いです。
どうやら頭の中が整理されたようで今はスッキリしてます。そしてやっぱりこの世界は異世界みたいです。
自分の名前、リーディア・ブラダエナ・ツィブルカでした。ディアというのは愛称だったらしい。愛称と言っても自分で呼んでいただけらしいけど。
そして名前が覚えづらい件。
ブラダエナというのはブラダが侯爵でエナってのが令嬢という意味っぽい。つまりツィブルカ侯爵令嬢のリーディアって事だね。
年齢は八歳。そりゃ体ちっさいわ……。
そして大事な事。一応父親はいたわ。母親は亡くなってるみたいだけど。でもその父親が問題で!
簡単に言えばネグレクトでしょ、って感じ。
「マジかー……」
「目を覚ましたのか?」
つい、ぼそっと呟いたらどうやら隣のベッドで寝ていたエルが気づいたらしい。
「起こしちゃった……?」
「いや」
エルがすぐにベッドから起きだして私の方にやってくる。部屋が暗いけど月明かりなのかな? 仄かに明るいのでエルが起きた様子が分かる。
私のベッドの端に腰かけるとそっと額に手を当て、熱があるかどうかなのだろう確かめている。
「大丈夫だよ」
「……それなら夜明けまでまだ時間がある。もう少し寝るといい」
私はこくりと頷き、エルはまた静かに自分のベッドへと戻った。
なんか口の中が苦いけど、もしかしてまたあの毒みたいな薬? 飲ませられたかな?
「エル、ありがとう……」
若いお兄さんが子供の世話ってね。申し訳ないですって感じ。
それにしても。色々と考えなきゃない事が多すぎる。とりあえず自分の事は分かったけれど、家に戻りたいかと問われるとちょっとねー、って感じがする。
私はツィブルカ領にいて、父親は王都にいるらしい。母親が病気になり、領都で静養してたんだけど亡くなって。父親は私をそのまま領都に置き去りにして自分だけ王都に戻り私の事は使用人に放置。
ないわー。
母親が亡くなってからはリーディアは周りが皆使用人。愛情を向けてくれる人もいなかった。使用人達も父親が領地に捨てていったみたいになっていたリーディアに対して放置気味だし。リーディアも自分がしたい事言いたい事やりたい放題で我儘を驀進。
……まぁ、子供が一人で放置されてたらそうなっちゃうのも分からんでもないけれども。
そんな環境の中に戻りたいか、って言われたらねぇ……。
我儘放題、好き勝手し放題だったもので教育なんてされてないし。父親もだけど領都の屋敷も問題だらけでしょう! 使用人ももう少しきちんとした人いなかったのかしらね?
父親は名前だけは侯爵だけど、ダメダメじゃんね?
母親もね。リーディアを愛してくれていたかといえばそうでもなかったっぽい。毎日悲劇のヒロインのように泣いて暮らしてたみたいだね。
そんなんじゃ静養も何もないよねぇ?
リーディアってば侯爵令嬢なはずなのにね。家族に縁なさすぎな気がする。
まともな父親だったらよかったのにね……せめて貴族令嬢としての教育位しといてよって思うんだけど。リーディアの記憶が戻って頭の中を客観的に見てると、父親はどうにも見るからに悪い事してそうな顔しているし。
なんか絶対犯罪に手を染めてそうな感じがひしひしと感じるんだけど。やばくない?
どうしたらいいんだろうね? 領都の館の中も荒れ放題になっていたし。
使用人がいるのに荒れ放題って。主人である父親がさっぱり領都に来ないし、使用人達も手抜きし放題、だらけ放題。
見事な負の連鎖。わーお!
どうしたもんかね?
私がツィブルカに戻ってまず領地をどうにかする? できる? 子供に? 役に立たない使用人に命じたとして言う事を聞くとも思えないんだけど?
「……はぁ」
「眠れないのか?」
溜息を吐き出したらエルの声が聞こえた。エルも寝ていなかったらしい。
「……思い出したんです」
記憶喪失のままのふりしたらエルこのままずっと面倒見てくれないかなー? とか一瞬考えたけどそれはダメでしょう、って事で正直にエルに告げた。
「……寝られないようだったら少し話をするか……?」
「うん……エルがいいなら」
エルがまたも起きだして問うてきたので頷いた。折角寝ようとしていたのに申し訳ないなと思いつつも聞いて欲しくて頷いてしまった。
若い男性だもの、少しくらい寝不足でも大丈夫だよね?
そのエルがごそごそと紙のような物と何かを取り出し、空中に放るとぱっと明かりが点いた。
「え!? は!? な、何!?」
な、何!? 何が起こった? 空中に明かりが浮いている!
「魔法だが……?」
「ま、ま、……魔法っ!!!?」
マジすか!!! 魔法がある世界なんですか!!! ここ! おおおお!!! これは! 是非! 私も使いたい!!! やっぱ魔法無双系ですか! 異世界モノといったら定番ですよね!!!
私のテンションが爆上がりしている! 落ち着け! 自分! いや、無理。落ち着けない!
「魔法の明かり……」
不思議な光景だ。エルの手の上で空中に浮いて明かりが瞬いているのだ。ほええええ……と見入っているとエルが不思議そうにして私を見ていた。