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261.ちょっと寂しくなっちゃった。

「エルー」

『……今日はなんだ?』


 夜になってベッドに入ってからエルに電話。そんな嫌そうに電話に出ないでよー。


「いや、パジャマ着たー? 一応皆の前で聞かない方がいいかなーと遠慮したのに。そんな事言うなら昼の内に聞けばよかった」

『…………悪かった』


 エルが苦笑を浮かべたのが目に見えるよ。


 ダナ達が下がってから寝るまでエルとお話しする時間がほっとする時間になっているんだけど……。


「……電話、迷惑? それなら……」

『ばかだな。そんなわけないだろ』

「本当……?」

『迷惑なら耳飾り外してる』


 あ、そっか……外せば聞こえなくなるもんね。でもやっぱり毎日はやめた方がいいかな……? うざいとか思われたらやだもん。


『忙しいとか用があるなら最初からそう言うよ。遠慮なんてするなよ?』

「……いいの? 毎日しちゃうよ?」

『別にいい。問題ない。で、パジャマ? だったな……いいんじゃないか? 動きやすいし服の様にごわごわしないし。針子工房に頼んでおいていい。兄とか陛下とかには後で話をしておく。女性用のも』


 ……毎日電話していいんだって。遠慮しなくていいんだって。

 ……どうしよう……なんか泣きそうになってきちゃった。


『ディア?』

「……っく…………ごめ……なん、でもない……」


 なんかね……。私が目覚めてから? とでも言えばいいのか分からないけれど、ずっと足元が不安定な所で先が見えない様な所を歩いている感じで。

 足元がさらさらとなくなってしまうんじゃないか? と心の奥底にはずっと不安があった。

 だって一応の父親がアレで、自分はまだ子供なのに。これから先を考えるなんてどうしたらいいか分からず。見知らぬ変な世界で常識も分からないまま進まなきゃいけないわけで。

 エルがずっと側にいてくれたから何ともないように振る舞っていたし、色々アレコレしてたけど……。


『……今行く』


 え? 行く? あ、もしかして、ま、窓から? 私は起き出して窓の鍵を開け窓を開ける。するとすたっとエルが足音なく部屋に入ってきた。私の口元にしーっと人差し指を当て私は頷く。

 するとエルが魔法陣を放って音遮断の結界を張った。


「話していいぞ? どうした? 眷属様達はいないのか……?」

「今日は日中私の側にいたからセンのとこに行くって……」

「それで? どうした?」


 エルが来てくれた。わざわざ。

 エルが私の前で屈み、顔を覗き込む。明かりはもう消していたが月明かりが明るいのでエルの表情が見える。心配そうな目。


「うー……」


 なんでもない。なんでもないんだけど、ちょっと心細くなって寂しくなっちゃっただけ。だって見知らぬ世界に私はたった一人なんだもん。

 親がいてもほぼ会った事がない様な親で。


「あー……悪かった」

「なんで……エルが、謝るの?」


 わけが分からない。

 エルがそっと私を縦に抱き上げて、抱っこしたまま私のベッドに腰かけ背中をトントンされた。

 う……しっかり子供扱いだよ。それなら……とぎゅっと抱きついた。


「本当に、ディアの電話が迷惑だなんて思ってないから」

「……ああ……あ、違うよ? 分かってる。ただ、なんか急に泣きたくなってきて……なんか、……」


 辿々しく急に不安が襲ってきて泣きたくなった事を説明した。


「中身大人なはず、なのに……」

「外身はまだ子供だろ?」


 なんかちょっと前に正反対の事を言っていたはず。私は泣き笑いの顔になってしまう。


「寝るまでついていてやるから……安心して寝なさい」


 エルが私の体をベッドに寝かせてくれた。


「……恥ずかしい」


 中身が大人なはずなのに号泣って……。中身が大人でもリーディアはやっぱり八歳だから精神まで引っ張られるのだろうか?


「治癒と浄化をかけた方がよくないか? 朝起きて瞼が腫れてたらダナに追求されるぞ」

「あ、そうだね」


 このまま寝ちゃったら目が腫れぼったくなるもんね。それにエルの服もまた濡らしちゃったよ。

 自分とエルに治癒と浄化をかける。


「俺はよかったのに」

「ダメ。……ね、手繋いでも……いい?」


 エルが黙って私の手を握ってくれました。優しいね。きっとエルも子供の頃不安で仕方なかったんだろうな……。お母さんは病気になっていたって言ってたし。一〇歳で貴族になったエルと境遇が似ているから私も優しくしてくれるんだろうね。

 節くれだってごつごつの大きい男の人の手だ。


「なんか……ごめんね」

「謝らなくていい」


 泣いちゃって恥ずかしいけど、エルの声が優しいよ……やっぱり安心するね。


「ディアはがんばりすぎじゃないのか? 中は大人だと言うが八歳なのは八歳なんだろうし。……それとスラヴェナ様の事は負担か?」

 

「がんばりすぎ、って事はないと思うけど……スラヴェナ様の事は、まぁストレスには、ええと精神的に負担? にはなっているかもしれないけど必要な事であると分かっているし大丈夫だよ?」


「我慢をしすぎる事はないからな?」


 エルがそう言ってくれるだけでちょっと安心した。


「……うん。ありがと」


 寝るまでいるから、とエルの低い声が耳を擽る。私は安心して目を閉じた。

 エルがいなかったらどうなっていたんだろうね……って、そもそもエルがいなかったら私は生きてなかったか。たまたま通りかかっただけだったのにね。あの時はまさかこんな風になるなんて思ってもみなかった。


 私は、父と会う事はあるのだろうか?

 

 ぎゅっと繋いでいたエルの手を握っていた手に力を込めた。


 

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