241.刺繍って意味あったんだね!!!
「それでは今日はここまでにいたしましょうか」
「ありがとうございました」
三人で声を揃えてスラヴェナ様にお礼を言います。うん。歴史は結構面白かったよ。
「次回にどれ位覚えていらっしゃるか簡単な試験をいたしますね」
おお……豆テストですか。スラヴェナ様って本当に有能な方なんだろうね? 短い授業でもテストつきにするとは。マハルナが遠い目をしてるよ。大丈夫か?
「リーディア様は刺繍もされるのですよね?」
「え? あ、はい。一応」
「そちらのバッグについている飾りと、エル様の髪飾りはリーディア様が刺繍されたものでしょう?」
「はい」
まぁ、ほほ……とスラヴェナ様が微笑ましそうに笑った。うん? 何かな? 何か意味あるの? え?
「あら? リーディア様は刺繍の意味をお分かりになられていない?」
「え? あの、……はい。意味、があるのですか?」
「勿論でしてよ? 魔力を通しながら刺した刺繍は婚約者や旦那様に送るものですもの」
「は?」
え? ちょっと待った! 何ソレ? 誰もそんな事教えてくれていないよ!? ちょ……ちょっと待って! ネックレスとかだけでなくやらかしてるって事!? いや! 魔力は! 通してないよ! セーフ! でも女神様の加護が付いてるけどな! 魔力よりも強力じゃないか!? え? でも王様にもあげてるよ? やっぱセーフだよ!
「いえ、あの。これは魔力は通していませんし……」
「リーディア様はまだ八歳ですもの。魔力を通していないのは当然ではなくて?」
「いえ、一応通そうと思えば出来ますけど、でも、これは本当に通していないですし! 元々はノア達の首飾りの為に作ったものですし!」
あらあら……とスラヴェナ様がにこにこである。やだ。この人もしかして全然聞こえていないんじゃない!? 恋愛脳なの!? 違うって言ってるじゃん!
「旦那様になられる方の身を案じながら刺したりするのが刺繍ですよ?」
「そ、そうなんですね……」
し、知らなかった……誰もそんな事言ってないよー! エルだって嗜みだって言ってただけじゃーん! 確かにそれでは嗜みっていうのも分かるけど。マジか……。刺繍のハンカチとか孤児院のバザーで売ったりとかってそれじゃないのかもね。
…………これ、私が自分の目の色の宝石をエルに送ったらもう婚約者扱いになるんじゃね? エルからはネックレス貰い済みだし、お揃いのイヤーカフつけて、私の刺繍のリボンとかって……。
エルよ……いいのか?
でもこのリボンは確かにいい物だからなぁ……回復付きだもんね。はぁ……エルはきっと魔力は通っていないからセーフ! とでも思ったのだろうか? エル……きちんと教えておいてくれよ。私常識知らないって言ってるじゃん。
なんかすごく疲れたよ……。
スラヴェナ様はお昼は自室で摂りますねと言い、ふふと微笑みながらいなくなりました。
そしてスラヴェナ様を見送り完全にいなくなった後、私はテーブルに突っ伏した。
「つ、疲れた……」
「もうすぐお昼になりますけれどもお茶をお入れしますか?」
ダナが苦笑しながら提案してくれた。うん、とこくりと頷くと準備してきますね、とダナがいなくなった。申し訳ない。が、マジで精神的ダメージが甚大です。
「なんだ? どうした?」
「エルーー!」
そこにエルが帰って来た。私は椅子から降りエルに小走りで向かいそのまま抱き着いた。
「無理ーーー! あれが世の貴婦人というなら私には無理だー!」
「な、何があった!?」
うーマジで……人の話なんて聞いてないような感じだよ? 都合のいいような解釈をされて。確かにそう誤解を受けても仕方のない状況ではあるんだろうけど。でもさー!
うーーー……とエルの服に頭を擦りつけた。
「こら、髪型がぐちゃぐちゃじゃないか」
「どうでもいい」
「…………本当に何があった?」
なんか妙に悔しい! くっそー! あれが貴婦人で淑女か……いや、でもハルダコヴァ・ハノウセクにはこんな事思わなかったし、王妃様にも思わなかったから……。でも多分スラヴェナ様みたいなのが一般的な貴婦人なんだろうね。いや、スラヴェナ様は悪い方ではないのは分かっているけども。なんていうか話を聞く耳も持たないってのがね……。
「マハルナ。……ダナは?」
「ダナは今お茶の準備をしに行ってます。お嬢様が落ち着かないご様子だったので」
「なるほど?」
うー……エルにぎっしりとしがみついて、エルの静かな低い声を聞いているうちに段々と気持ちが落ち着いてきた。
「よし。もう大丈夫」
エルから離れるとエルがほっとした顔をしていた。
「ディアーいじめられたのー?」
「聖女様がいじめられた!? 報復する!? 相手はどこ?」
「いじめられたの!?」
「なんてこと! 国消す?」
「ちょ! ちょっとー! 違う! 違うからー! 大丈夫! いじめられてないよ!」
なんかすごい物騒な言葉が聞こえてきたんですけど!? 声から子青ヘビちゃんだろうけど、国を消すって止めてちょうだい! っていうか! 眷属様、国消せるの!?
エルと顔を見合わせた。エルは知らんと首を横に振っている。眷属様のお力なんてそりゃエルだって知らないよね……。