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2.私貴族だったらしい。

「俺は冒険者でエル。目覚めたばかりの所だが何があったのか説明できるか?」


 お兄さん、冒険者のエルは私が寝かせられていたベッドまで近づいてきて端に腰かけると静かに問うた。

 表情があまり変わらず眉間に皺が寄り、睨まれているかのようでちょっと怖い。体も大きくて身長は優に一八〇センチは超えているだろう。威圧感があるが私の顔を覗き込んでいる目には心配そうな、窺うような感じが見て取れて少しばかり安心した。どうやら顔に似合わず親切な人っぽい? 信用なるのかと問われればそれは分からんけども。


「説明……」


 何が起こったか……思い出そうとしたけれど何も思い出せない。そもそも自分は誰なのか。日本人である記憶はあるけれど、どう考えても異世界っぽいここで日本の事を言っても通じないだろう。

 この銀色頭の子の事も分からない。銀色の髪が自分自身のものだなんて……視界に入る長い銀色の髪を弄りながら顔を俯けた。


「分かんない……覚えてない……説明、でき……ない……私、誰?」


 お兄さん、エルに向かって手を伸ばした。誰かに縋りたかった。どうやら自分は子供らしいのに見知らぬ世界にたった一人かもしれないのだ。まだ自分が日本人で夢を見ているだけなのでは? とも思うけどそうではなかったら……?


「……俺が見つけた時、君は崖下に落ちていた」

「崖下……」


 転落したって事? やっぱり大怪我とかしていた? そりゃ体中痛かったのも分かるわ……。でもその怪我が今は痛くないのはどうしてだろうか?


「子供が崖下に落ちていたなどほぼありえない」


 ありえないって言われても……私にだって分からないんだもの! 何もかもが分からなくてぶわっと涙が浮かんできた。


「分かんない! なんでって、私だって分かんないんだもの! ここどこ? 私は……? 誰?」

「名前を聞いた時ディアと答えたんだが……それは覚えているか?」


 お兄さん、エルの服を掴んだまま涙を零す。エルは強面だけど、普通だったら怖いのかもだけど、助けてくれたみたいだし、今も気遣ってくれているのは分かるので怖くはない。


「ディア……私の名前……? ディア……」


 ふるふると首を振って俯いた。泣いたってどうにもならない。けれど涙が零れてくる。どうしたらいいのか、どうすればいいのか。もし異世界だとして、子供一人で生きていけるのか。言葉については自分は日本語を話しているつもりだがエルには通じているし問題はないだろう。ラノベにあるように知識無双とか魔法無双とか出来るものなの? でも子供だよ? どう考えてもキツいでしょ。


 銀髪頭の子供で名前はディア。中身は元日本人。自分が分かっているのはそれだけだった。


「うう…………どう、したら……いいのぉ……」


 親、いるの? この子? 崖下に落ちてたって。親捜してくれてるの? それとも親なし?


 ぼたぼたと涙を堪えず泣いているとそっと大きな手が頭を撫でてきた。顔を上げるとエルがよしよしと頭を撫でてくれている。


「ギルドに迷子の届け出がないか問い合わせたのだが、今のところはない。とりあえず身の振り方が決まるまでは俺が面倒を見るが……ディアがよければ」


 ギルドは冒険者ギルドってヤツなのだろうか? まぁそんなのはどうでもいい。今重要なのは迷子の届け出はなく、そしてエルが私の面倒をとりあえず見てくれるらしいって事だ。

 エルだって見知らぬ人だけれど、エルからさらに知らない人とか場所に引き渡される位ならこの人と一緒の方がいい気がする。なんといっても助けてくれた人なんだろうし。


「でも……迷惑、では……?」


 そこが問題だよね。若い男性がガキンチョの面倒なんて邪魔でしかないだろう。


「急ぎの仕事もないから大丈夫だ」


 そう言ってエルは腰にぶら下げていた革製のバッグから一枚のカードを取り出した。鈍い銀色に輝いているカードだが素材は何で出来ているんだろうか? そのカードには文字らしきものが書き込まれている。


「?」


「冒険者カード、見たことはないか? 俺は銀級。これで信用できるだろう?」


 ええっと……そういうもんなんですかね? 私、この世界の事情分からないんですけど。ちょっとエルって説明足りなくない? それとも常識なの?

 涙は引っ込んだけどね。


 そんな事考えていたらぶわっと頭の中に情報が溢れ出してきた。


「んんっ!」

「ディア?」


 ちょっと待ってーー! なんか頭の中が飽和状態起こしそう! 記憶が……! ディアの記憶が溢れてくる。

 頭を抱え込んで突っ伏すとエルが慌てて声をかけてきた。


「頭が痛いのか!?」

「だ、……だい、じょうぶ……」


 大丈夫だけど、情報過多なのか意識が遠のいていく。

 

 ディア、この子貴族令嬢だったわ。うわー……貴族がいる世界。やっぱ異世界転生じゃない? マジかー……。そしてこの子すっげぇ我儘言い放題の子だったわ。悪役令嬢ものとか、乙女ゲーの世界とかそんなんじゃないでしょうね? 私、あんまり詳しくはなさそうだけど。

 日本人の記憶とディアの記憶とごっちゃになっていて頭の中が気持ち悪い。

 そんな事を思いながらまたもブラックアウトした。


 

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