15.ツィブルカ到着です。
誰が何の目的で私を狙ったんだろうか。金目的の誘拐だったらまだ分かるけど明らかに目的は私を消す事だよね?
実行犯まで死んじゃってるし。
「まぁ、私死んでないし。……そしたらまた狙われるのかなぁ?」
それはちょっと遠慮したい所だが。
「大体にして地方の領都で我儘放題してただけの小娘を狙う意味が分からない。身代金目的で誘拐の方が分かるわ」
「……一応、しばらくツィブルカに、ディアの傍にいるから、調べてはみる」
「うーん……実行犯も死んじゃってるからね。自分で勝手に落ちて死んじゃったのか、殺されたのか分からないけど私を消す為に第三者を使う様な相手である事は確かだもんなー」
「……ディアは事故だと思うか?」
「ううん。消されたんでしょ? 証拠隠滅」
こんな山の中で人影もないしね。
「この道ってツィブルカに繋がっているんでしょ? 道を逸れて他の領とかにも行けるの?」
「山を降りた所で北と南に向かえる道と合流する地点がある」
「わー……そりゃツィブルカ探しても本当の犯人は見つからなさそうだね。ちなみに北か南は栄えてる?」
「…………ツィブルカよりは人の行き交いは多い」
「……でしょうね」
私が肩を竦ませるとエルが慰めるように私の肩をポンと叩いた。
「安全が確認されるまでディアの傍にいる。せっかく高い回復薬を使って助けたのにまた狙われたりしたら助けた意味がない」
「……ありがと」
エルは冗談めかしてそんな事を言ってくれたけど、本当にエルにお礼ってどうしたらいいんだろうね?
「とりあえず私を消そうとした目的も分からない姿の見えない犯人探しよりも問題はツィブルカだろうね……」
はぁと溜息を吐き出す。
「何が問題だ?」
「何もかもじゃないかなー?」
「…………」
エルが黙ってしまった。
が、少し時間を空けてエルが再び口を開く。
「…………まずディアは何をするつもりだ?」
「まずは勉強だね」
「は?」
エルがまた黙ってしまった。
いいけど、エルって普通に私と会話してるけどなんか子供に対しての対応じゃないんだよね。なんでだろ?
ギルド行った時のギルド長は私に対して子供に対する口調だったし。でもエルは最初の方は少しは子供相手っぽい聞き方だった様な気がするけど、なんか今は違う様な……でも抱っこされたり頭撫でられたりと対応は子供仕様なんだよね。
謎だ。エルの中で私はどんな存在に分類されているのだろうか?
野宿した所を出発したのは朝早くだったと思う。時計がないからはっきりとした時間は分からないけれども。
そして今はもうお昼過ぎ。もう少しで山を下り切るとエルが教えてくれたのだが、見事に誰ともすれ違っていないのだ。人の気配をまったく感じない。
ツィブルカ領よ……どうなってる?
昨日は商隊が転落した馬車を発見したとギルドで言ってたから全く行き来がないわけではないんだろうけど。
そういえば冒険者の姿もないよね。
「冒険者って移動とかあんまりしないの?」
「そんな事はないが」
「そういえば山で魔獣って……見てないけどいないわけじゃないよね?」
野宿場所では結界張ってたわけだし。
「いるぞ? 今も小さい魔獣とかそこらに隠れてる」
「あ、そうなんだ……」
小さい魔獣ってどんなのがいるんだろ? ちょっと見たい……とか言ったらダメなのかな?
「ツィブルカにも冒険者ギルドってある?」
「勿論ある。……だが最近ツィブルカは治安があまり良くなくて、冒険者の数も減っているとか」
あー……ですよねーって感じ。人流があまりなくて領地が荒れていればそりゃ治安も悪くなるよね。
……スラムとかもある? あー領地の視察とか父がアレじゃしてないよね。
「マジかー……」
はぁぁぁぁ……と長い溜息が漏れた。
「エルー……色々助けてー……色々教えてー」
「俺が助けられる範囲ならな」
「ありがとー」
エルが気安く請け負ってくれたけど本当にいいのかなあ? 本気にしちゃうよー……誤魔化されちゃったら凹むから口には出さないけど。
「ここで左に行けばツィブルカの北にあるアビーク領、右に行けば南のベーム領だ」
山を下り平地が広がってきた所で街道が交わっていた。ツィブルカが栄えていないからかやっぱり人通りはない。
「ツィブルカまで馬で鐘一つ位。北のアビーク領までは馬で四日位だが、途中にイエニーク領と交わる所があるし、南方面もイエニーク領の隣ドウシャ領と交わる所がある」
鐘一つがどれ位の時間か分からないけれど、なるほど。わざわざ栄えていないツィブルカに寄らなくてもいいって事だね。
「門が閉まるまで時間はまだあるがさっさと行こうか。センを駆けさせるぞ。しっかり捕まっていろ」
エルはそう言うとセンの手綱を持った。いや、今までだって一応は持っていたけど添えてたって感じだったので。
「おお……」
体が上下に揺さぶられ、今までゆったり進んでいた景色が流れる様に過ぎていく。
山を下りてからは平原が広がり、壁に囲われたツィブルカの街。遠目に見えていたツィブルカが目に見えて近づいてくる。
やっと……到着するのだ。
今から、私にとっての本当の異世界生活がはじまるのだ。
リーディア•ブラダエナ•ツィブルカとして。




