第二話:クラ姫と雷
ミケ姫が雨弓を主神ウカノミタマに紹介していた頃、一人の少年少女が下界から帰ってきた。
いつもは静かなはずなのに人々が騒がしい様子に少女の方、ーークラ姫は訝しむ。
「何かあったのかしら?」
それに答えたのは一歩後ろに控えている少年、名は雷は答えた。
「聞いてみたら?」
「それもそうね」
雷の提案にうなづいたクラ姫は何人かで話しあっている屋敷の使用人のものに話しかけた。
「あなたたち何を話しをしているの?」
「それはっ」
話しに夢中になっていた使用人の女性はクラ姫の顔を見て声を上げる。
「ク、クラ姫!?」
女性の驚いた声でクラ姫の存在に注目する。
「も、申し訳ありません お仕事中に」
普段のクラ姫だったら、仕事中におしゃべりをしていたら注意をしたりするのだが、ここまで何を騒いでいるのかと興味の方が大きかった。
「それで、この騒ぎは一体何なの?」
クラ姫に聞かれた使用人の一人は生唾を飲み込み口を開いた。
「はい、実はミケ姫さまが帰ってきたのですが」
思ってもない言葉にクラ姫は呆れる。
「あれが帰ってくるなんていつものことじゃない」
「そうなのですが……」
別の使用人が声をあげた。
「今回は違うんです ミケ姫が一人の少女と帰ってきたんです」
「……! それは単なる知り合いとかじゃ」
珍しいことだとクラ姫はわずかに驚く。そしてその後の言葉に言葉を失った。
「いえ、少女は神器らしく、多分ウカノミタマ様にご紹介を……」
話を続けようとしたが一人の者がクラ姫の表情に気づいて肩を叩いた。
「な、何よ」
『何じゃないわよ!』
彼女が何をしたのかハッとしたときにはすでに遅かった。恐る恐るクラ姫の表情を見て凍りついた。
「それは素晴らしいことじゃない 是非とも会ってみたいわね ねえ、雷?」
問われた雷は淡々と答えた。
「まあ、そうですね」
「それでは、ご機嫌よう」
くすぶる思いを感じさせないほどにクラ姫華麗に一礼して使用人の前から二人は立ち去った。
その姿を見て武者震いをした。失言をした女性を周りは咎めた。
「もう、クラ姫様がかなりの焼き餅焼きってこと知っているでしょ」
咎められた女性は今更ながら冷や汗をかいたのだった。
「うゔ だって……ミケ姫が神器をつれてくることなんて初めてじゃない」
そのとこには同情し、周りも同意する。
「まあ、それはそうね」
使用人は気持ちを切り替える声をかける。
「さあ、仕事に戻りましょ」
「は〜い」
使用人たちは話を終えると仕事に戻っていった。
クラ姫が足早に主神ウカノミタマの御簾の前までやってきた。中から楽しげな声に胸がモヤモヤとしながら声をあげた。
「ウカノミタマ様の眷属神、ミクラが参上つかまつりました」
クラ姫の声に気づいたウカノミタマガが中へ入るように言われた。御簾を開けるとそこには敬愛すべき主神と、使用人たちが控えていた。
それはいつものことなのだが、異分子の二人がそこにいた。そしていつもの口調で声をかけた。
「あら、ミケ姫じゃない 帰っていたのね」
ミケ姫はクラ姫の言い方にカチンときた。
「帰ってきたら悪いのかしら」
「別に帰ってきたことに悪いとは言ってないわ」
ふと視線をずらすとミケ姫の隣にいる少女と目があった。
「あなたは」
雨弓に気づいたクラ姫にミケ姫は鼻を高高にする。
「気づいてしまったのならしょうがないわね この子が私の神器の雨弓よ」
いきなり自己紹介された雨弓は戸惑ったが、礼儀正しく背筋を伸ばしなんとか答えた。
「っはじめまして、雨弓と申します 未熟者ですがよろしくお願いします」
挨拶されたミクラ姫は腰を下ろした。
「はじめまして、私はミクラと申します 皆からはクラ姫と呼ばれています」
「クラ姫?」
ミケ姫は小動物のような可愛らしさがあるが、クラ姫はお嬢様のような感じがした。
雨弓がじっと見つめていると、ミケ姫は眉をしかめる。
「ちょっと見つめ合いすぎじゃないか」
ミケ姫の言葉にクラ姫は失笑しながら言葉を返す。
「これぐらいで焼き餅なんておこちゃまね」
「なんじゃと!?」
話がヒートアップしそうになったとき、一人の年嵩の女性が制止する。