第一話:左門と右門
ミケ姫は早速、雨弓の手を小さな手で掴み足早に向かおうとしているが、彼女の歩幅が小さいので転ばずにすんだ。
大学寮から移動したのは、雅な造りの屋敷だった。門番までおり、いかにもお金持ちが住んでいそうな感じである。
門番の二人はミケ姫に気付いて、挨拶をしてきた。
「ミケ姫さま、おかえりなさいませ」
恭しくお辞儀をするミケ姫は普通に返事をする。
「うむ、帰ってきたぞ」
その言い方と容姿の噛み合わない様子に雨弓は思わず吹き出してしまった。
「ぶは」
「む、何かおかしいところがあったか?」
半笑いしている雨弓に問い詰めるようにミケ姫にじっと睨まれる視線を逸らす。
「あ……はは、いやなんでもないです」
門番はミケ姫と喋る雨弓に注目する。彼らは門番として雨弓のことを問いただした。
「ミケ姫さま この方は?」
「む、お前達は初めてだったな この者が私の神器ーー雨弓だ」
雨弓は面と向かって自己紹介するのは初めてだが第一印象は大事である。これからお世話になるところなら尚更である。
「はじめまして、雨弓と申します」
「いえ、こちらこそ 私は門番の左門」
「私が右門と申します」
頭を下げた二人のそっくりな顔に雨弓は驚く。その視線に気づいたのか右門が話しかけてきた。
「顔がそっくりで驚きましたか?」
「え、あ はい!」
図星をつかれたことに思わず本音が出てしまう。その素直な表情に二人はクスリと笑う。
「いえ、構いませんよ 私たちは武神タケミカズチに使える双子の眷属神となります」
「双子の方もいるんですね」
「はい」
仄々と話していると、グイッと手を引っ張られてみるとミケ姫がブスくれた表情をしていた。
「え〜っと どうしましたミケ姫さま」
「私を置いて話を進めるな」
何だか拗ねたようなうないいかたに雨弓は気づいた。
「もしかして寂しかったんですか?」
「な、別に寂しくないぞ」
違うと反論しているが、表情が物語っている。
ミケ姫は恥ずかしさに耐えきれず、雨弓の手を振り払い。我先にと中に入っていった。
「え、ちょっと」
雨弓はどうしたものかとオロオロとしていると左門が声をかけた。
「ミケ姫さまを追いかけてください」
「は、はい!」
礼をして、慌ててミケ姫の後をおった。先を見るとミケ姫が待っていてくれた。
「何をしているさっさと行くぞ」
先ほどより興奮は収まっていたが、耳はまだ赤いことに気づいたがあえて言わなかった。
言ったら言ったでまた擦れそうだしな〜と雨弓は最初にあってまだ数日しかあってないはずなのに、気心がしれる仲となった。
彼女につれられて向かうと人の視線を感じた。
御簾の中から人影があるのはわかっていたが、どうして見られているのか分からなかった。
(どうしてだろう、そんなに珍しいのかしら)
雨弓がまだ人間であった時、上野動物園のパンダのような気持ちはこんな気持ちだったのだろうかと考えながら進んでいくと、一際大きい御簾の前に座ったりお辞儀をした。
「礼をするのだ」
「あ、はい」
雨弓はミケ姫に言われた通りに頭を下げた。それを見て、ミケ姫は口を開いた。
「ウカノミタマ様の眷属神 ミケツが参上つかまつりました」
すると中から穏やかな声が帰ってきた。
「ミケ、そんなところにいないで中に入ってこい」
「はい!」
声をかけられただけなのに、ミケ姫はバッと頭を上げて、御簾の中に入るとそこには高そうな着物をきた女性たちがいた。
そして中奥にいるのは、穏やかな笑みの女性がいた。
(この人なのかな)
ミケ姫に話そうとするが、カチコチに緊張しており声を聞くのが憚れる。知り合ってまもないがミケ姫のこんな姿に凝視していると、奥の女性と目があった。微笑まれたことに雨弓はどきりとする。
「それでミケ、この子はそなたの何だ?」
問われたミケは顔を上げて、はっきりと口に出した。
「この子は私のーー」