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第一話:高天原での新生活


 青い空に白い雲を眺め、気持ちの良い風に夢心地になりながら私ーー雨弓(あゆみ)は微睡んでいた。



「ふは~」



 気持ちが良過ぎて、いつまでも惰眠を貪っていたくなる。そんな時に邪魔は入るものである。と言っても仕事中だから怒られるのは当然のなのだが。


「おい! 雨弓ねえちゃん こんなところで寝ていたらおかみさんに叱られるぜ」


「へ~い」


 いい加減な返事をするそんな私に声をかけてきたのは村の子供の一人である。


 おかみさんとは雨弓という名前を付けられた後にこの村までやって来て、初めて出会った村長の奥さんであり衣食住をお世話してもらっているのだが、こんなにも天気がいいと眠気には勝てそうにない。


 先ほどまで、畑で作業をしていたが、どうしても我慢できず仮眠をとることにした。


 うつらうつらとしていると先ほどの子供か近寄ってきたのかと思いきや少し目を開けて、後悔した。



「そんなに体力があるなら もっと力仕事を頼もうかしらね」


 太陽が後光となっていて笑顔になっているのがより迫力があった。


「はいっ!」


 そこには不穏な雰囲気を纏ったおかみさんが立っていらっしゃった。私はすぐさま立ち上がった。一度死んだのに生きた心地がしなかった。



 ーーそう私は一度人間だった時に悪いクズ野郎に殺されてしまった。けれど何者かに蘇らされ、花月という少女に憑き、真澄やいろんな人と出会い殺された人間に復讐を果たそうとするも、その人たちに救われた。



 そして不思議な光に導かれ、この高天原に住むことになった。



 私はてっきり、死んだら何もかもなくなるのかと消えてなくなると思っていたので、なんだか不思議な気持ちだった。


 ここにきて村人たちの暮らしを見て、文明の利器ばかり頼っていた現代人の私は慣れることができるのかと心配していたが、元々が頭より体を動かすタイプだったので深く考えず馴染むことができた。


 着るものも洋服ではなくザ・着物である。他の村の人たちも同じようなもので洋服でいたら違和感ありまくりだろう。


 最初は慣れなかったが、日にちを経てばそんなに気にしなくなった。活発に動くにはいささか動きにくいのが難点であるが。


 村は緑に囲まれていて、田園風景が広がり、古民家のような住宅がちらほらと建っている。


 私は薪を拾い終え、村に戻った。


 ここは暗くなっても提灯のような明かりがポツポツとあるので転ぶ心配はない。


 そこかしこからおいしい匂いを漂わせていて、食欲をそそる。死んでからも食欲を満たすことができるので、喜ばしいことであった。



「ただいま、帰りました」



 建物の裏口の玄関を開けると台所でせっせとおかみさんと子供たちがご飯の準備をしていた。


 おかみさんは私に近づくと声をかけた。


「お帰りなさい、お風呂に入ってきなさい」


「はい、先にいただきます」


 ペコリとお辞儀をして風呂場を借りた。畑などの仕事をした後の風呂は格別でつい親父くさい声をあげてしまう。


「ふひ~」


 こんな声を聞いたら、年長の子供の香に小言を言われるが今はいないので言いたい放題だ。風呂に入り終え、食卓に向かうと子供たちの声が聞こえた。


「雨弓ねえちゃん、お帰り」


「ただいま」


 子供たちに声をかけられた私は挨拶をしていく。準備を手伝いながら自分の席に座った。


 子供たちは村長さんとおかみさんの子供ではなく私と同じように血が繋がっていなくて、同じように光に導かれてきた子供たちであるらしい。


 その子供たちと暮らして一月がたったある日のこと、村長から私を含めた子供たちを呼び寄せて話があると言われた。


 何だろうと思い、首を傾げていると村長は口を開けた。



「君たちがこの高天原にきて1ヶ月が経つ そろそろ学び舎に通ってもらおうと思う」


 そういえばここにきた時、「1ヶ月」という期間限定だったということを思い出す。


 確かにいつまでもダラダラと甘えているわけにはいかない。


 血の繋がりもない赤の他人だ。初めての場所で心細い気持ちになっていた時おかみさんに言葉をかけられていくうちにあまり寂しくなくなった。


 そしていよいよ、学び舎に向かう日となった。


「気をつけなよ 雨弓」


「……はい、本当にお世話になりました」


 たった一言なのにそれがとても嬉しくて、生前の母を思い出してしまった。


 最後は笑顔で別れ、元気よく手を振った。



 学び舎は木工でできた建物にあり、コンクリートで作られた学校しか見たことがない私にとっては新鮮な気持ちであるう。


(ここが、私の新しい場所ーーまだ色々と不安はあるけど なるようにしかならないわね)


 初めての場所に緊張しながらも元々心臓に毛が生えていた私だがさらにたくましくなっていき、その学び舎の門を堂々と潜った。


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